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その36

「うわぁ、ルファも魔女さんも床に倒れて、一体なにがあったんだ!!」


 みぞれ混りの冷たい雨の中、冬薔薇塔に向かったリオは禁断の魔道具コタツに呪われて寝落ちしたカナを発見する。

 カナはリオの大声に目を覚まし、寝転がったせいでクセが付いた茶色い髪を撫でつけながら体を起こした。

 塔の壁伝いに茂った冬薔薇をカナが全部むしり取ったので、保温効果が失われた応接室は冷蔵庫のように冷えきっている。

 その中で唯一暖がとれるのは、カナが作った禁断の暖房器具コタツだ。


「テーブルの中央に丸く穴をあけて、中に炎の結晶を入れた壷をはめたの。

 服を着込んでおコタに入れば、このぐらいの寒さは平気よ。

 ほら、リオも突っ立ってないで早くおコタに入りなさい」

「えっと、魔女さん。冬薔薇塔には子供しか入れないのに、おコタで死んだように寝ている上品そうな黒髪の女の人は誰?」


 六人掛けサイズのコタツにカナとルーファス王子は並んで座り、お誕生日席には紺の女官服を着たハビィが寝落ちしている。

カナとリオの話し声でルーファス王子も目を覚まし、まだ眠そうにあくびをしながらリオに答えた。


「リオは人間の姿に戻ったハビィを初めて見たのか。

 ハビィは僕やオヤカタや、それに昨日大騒ぎしたリオの弟たちの世話でとても疲れていたから、ゆっくり休ませてあげよう」

「この女の人が白い鳥に化けていたのか。やっぱり魔法ってよく分らないや」


 リオはハビィの寝顔を覗き込みながらカナの向かい側に座ると、興味津々でコタツに足を入れる。


「ふわぁ、とても足が温かい。テーブルの中が炎の結晶で暖められている。

 そうか、部屋中暖めるにはかなりの魔力を消費するけど、テーブルの中なら小さな炎の結晶一つで済むからな」


 ガキ大将リオが驚く様子を満足げに眺めるカナは、二個のクッションを背もたれにして本を読み、お菓子を食べて完全にぐうたらモードになっていた。


「ところでリオ、ワタシ喉が乾いたから温かい紅茶を入れて。

 それから石焼き釜の中にある林檎パイを持ってきてちょうだい」

「魔女さんが自分でコタツから出て、取ってこればいいじゃないか。

 俺は力仕事の手伝いはするけど、魔女さんの召使いにはならないぞ」

「いやだぁ、おコタから出たら寒いじゃない。

 お願いルーファス王子、紅茶入れてきてぇ」

「ちょっと待ってオヤカタ。棚に置かれていた魔遊具箱ルービックキューブの色が揃いそうなんだ。

 あれ、別の色が混じった」

「王子、そのルービックキューブは時間泥棒だよ。

 って初めてなのに、もう四面のキューブの色が揃っている。スゴイよ王子!!」


 DIY作業以外は基本怠け者のカナにルービックキューブに夢中の王子、そしてやっと暖をとれたリオはコタツから出ようとしない。

 お世話係のハビィは爆睡中。

 カナはしぶしぶコタツを出て、文句を言いながら林檎パイと湯を沸かした鍋をコタツの側に運んできた。


「ふぅ、必要なモノは全部手の届くところに置いたから、これでおコタから動く必要ないわ。

 なんだかこの雰囲気、大晦日におコタを囲んで紅白歌合戦を見てるのと似てる。

 ところでリオ、とても慌ててたけど街で何かあったの?」


 林檎パイの一番大きいやつを食べ始めたリオに、カナは声を掛けた。

 

「用事って、そうだ忘れてた!!

 今、街と聖堂は大変な事になっているんだ。

 魔女さんが映っていた魔法の鏡に、冬薔薇聖堂の金髪女神像そっくりな女が映ったんだ」

「ちょっと待て、リオ。確か金髪の女神は、最高位大神官の娘で覇王の妃だよ。

 でも最高位大神官の娘が鏡に映ったとして、それがどうして騒ぎになるんだ?」

「鏡に金髪女の浮気現場が映ったって、俺の親父が言っていた。

 覇王は大陸で一番偉い王様だろ。

 その妃が別の男たちと浮気しているんだから、街はその噂で大騒ぎだ」

「オッパイ女神が浮気って、なにその深夜ドラマみたいなドロドロ展開。

 リオ、もっと情報を教えてぇ」


 ダラダラ過ごそうと思っても、テレビもラジオもネットも無い世界でカナは少し退屈していた。

 そこへガキ大将リオが、最高位大神官の娘のスキャンダルという面白い話題を持ってきたのだ。


「親父から詳しく聞こうとしたら母ちゃんに怒られた。だから俺はこれだけしか知らない」

「むふふ、それって子供には聞かせられないようなスキャンダラスな話なのね。

 ああ、こたつに入ってのんびりしている場合じゃない。私も急いで情報収集しなくちゃ」


 鼻息荒く野次馬根性丸出しで瞳を輝かせるカナに、ルーファス王子は冷静に答える。


「なんだかオヤカタ、今までで一番イキイキしてるよ。

 でも僕はウィリス隊長が到着するまで、冬薔薇塔で待機するように言われてる」

「それでは私が街に行きましょう。

 こんな重大な話を聞き逃すわけにはゆきません。

 王族のスキャンダルは権力抗争を生み、国の存在自体を揺がす大事件になる恐れがあります」


 するとコタツで寝落ちしていたはずのハビィが、白い鳥に姿を変えていた。


「外は面白い事になっているのに、ワタシは塔で大人しくしてろなんて、つまらない」

「カナ様はもう充分にやらかしています。

 どうか塔の外に出るなんて考えは起こさず、ウィリス隊長が来るまで静かに待機して下さい」


 そしてハビィは、ウィリス隊長率いる辺境部隊が翌朝に冬薔薇塔に到着予定だと言った。

 ハビィはウィリス隊長が、冬薔薇塔から魔女カナを救い出すと思いこんでいた。

 しかし魔女カナはウィリス隊長を使って、欠陥建造物の冬薔薇聖堂とオッパイ女神像を破壊する計画を練っている。


「カナさまから減量を命じられたウィリス隊長は、痩せるために不眠不休で体を動かしながらこちらに向かっています。

 そろそろウィリス隊長の体力も限界なので、もしかしたら部隊の到着が半日ほど遅れるかもしれません」

「お願いハビィさん、これをウィリス隊長に渡して。

 この忘年会用栄養ドリンクを飲めば、バッチリ眠気が覚めるわ」

 

 カナはリュックを漁ると、中から小さな小瓶を取り出す。

 それを受け取ったハビィは、白い翼を広げると街の方向へ飛び立っていった。




「それじゃあ、ウィリス隊長が来たら力仕事が増えるから、それまで体力温存ね」

「体力温存って、魔女さんはさっきからずっとグータラしてるだけだろ。

 実は昨日、俺の家にニール様が訪ねて来て、俺は魔女の弟子になってルーファス王子と同じ騎士を目指すって家族に話してくれたよ。

 そうしたら親父に、お前は騎士になりたいなら辺境部隊が到着するまで王子や魔女様を守れ。って言われたんだ」


 少し前からガキ大将リオの声は掠れ、それは子供から大人への変声期が始まっていた。

 リオの言葉に、カナの隣でルービックキューブに熱中していた王子が顔を上げる。

 妖精族である王子はカナより華奢だけど、気のせいか王子の目線がほんの少し自分より上に感じた。

 離れている間も一緒にいる時もルーファス王子はどんどん成長して、もうすぐカナの身長を追い越すだろう。



 ***



「この調子なら、翌朝には冬薔薇塔に到着するでしょう。

 それにしてもウィリス隊長、よくぞここまで体を絞りました。

 まるで四年前に反乱軍を討ち滅ぼした鬼神が再び、国の危機を救うため現れたかのようです」


 みぞれまじりの雨が降り続ける中、遠い辺境の地から冬薔薇塔までの行軍は楽ではない。

 しかし彼らを率いるウィリス隊長は、馬にも魔導車輪に乗らず背中に大きな荷物を背負い、休むことなく進み続けた。

 

「茶色い髪の魔女様をお救いしたいというウィリス隊長の気持ち、我々にも充分伝わりました」

「幻の果実金剛白桃や魔導車輪、他に様々な魔導の技術をもたらしてくれた茶色い髪の魔女様を、塔に閉じこめてひどい目に遭わせる最高位大神官。

 我々はヤツを決して許しません!!」


 辺境の村から付いてきた青年の言葉に、仲間たちも奮い立つように大声で答えた。

 青年の隣に立つ剛腕族の男、ウィリス隊長は一週間で増えすぎたウエイトを絞りまくり、ぷよぷよ脂肪は鋼のように堅い筋肉に、ポッテリとスボンからはみ出した腹は腹筋が割れて引き締まり、逆三角形のマッチョな漢に変身していた。

 しかし青年の言葉に、ウィリス隊長はろれつの回らない言葉で判事する。


「魔女カナ様に命じられて、やっとここまでたどり着いたが、金剛白桃の効果も限界ら。

 俺は眠くて、ねみゅい。カナ様、もう無理れす……グ――っ」

「ウィリス隊長、もうすぐ街に入りますから、それまで我慢してください。

 ああ、そんな所で寝てはダメです!!」


 それまで順調に進んでいた辺境部隊の隊列が止まった。

 ウィリス隊長はフラフラと足がもつれて道の真ん中に座り込むと、ついに半分白目を剥いて眠り出した。

 鉄の塊のように重いウィリス隊長は五人掛かりでも動かず、青年たちは途方に暮れる。

 すると上空から突然羽音がして、まるで神の御使いのような美しい白い鳥がウィリス隊長の頭上に舞い降りた。

 首に白銀のクサリが巻かれた白い鳥は、王族の使い魔である。

 その白い鳥は青年の目に前に小瓶を置き、コレをウィリス隊長に飲ませるように身振りで命じた。

 

「ウィリス隊長、王族の使い魔が持ってきた魔法薬を飲んでください。

 隊長寝ぼけてるんですか。瓶ごと口の中に入れたらダメです、うわぁ、臭いっ!!」


 意識朦朧としながらハイポーションを飲んだウィリス隊長の体が突然真っ赤になると、それまで白目をむいていた眼に炎が宿り、そして飛び跳ねるように起き上がる。


「ウォオオオ、なんだこれは!!

 俺の体の中で太陽が燃えているように、熱い、熱いぞ。

 ああ、最高位大神官に対する魔女カナさまの怒りが感じられる。

 俺は、早くカナさまの元へ行かなくては!!」


 

 


 見事ルービックキューブ6面揃えたルーファス王子は、林檎パイを食べて一服するとカナに聞いた。


「そういえばオヤカタ、ハビィに何を渡したの」

「リュックの中に忘年会罰ゲーム用の栄養ドリンクが入っていたの。

 とんでもない臭さで味も強烈だけど効果は抜群だから、アレを飲めば眠気も吹っ飛んで一日中テンションMAXよ」

※あの栄養ドリンクです。

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