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【開幕】
第三幕です。よろしくお願いします。
爪だ。黒く、煙を放つ、爪。
隻弥の身体ほどの大きな爪。
「う、そ……」
真っ黒な爪が隻弥を刺す。
脳天から、地面にまで。
隻弥の身体を貫いた爪は、ぐりぐりと左右に動いた。
「や、いや、ねぇ、なにこれ、ねぇっ!」
ぐちゅ、と肉を抉る音が響く。
距離は離れているのに鮮明に耳元で響く。
隻弥の身体が崩れる。
バラバラになっていく。
破壊されて、いく。
声にならない叫びが溢れた。
「んー……例えば、最愛の人間が自分のせいで死ぬ、とかな。家族が殺される、恋人が殺される、友人が殺される。それくらいならまだ可愛いもんだが、場合によっては自分が殺しちまうこともある」
「ただ、帰ってくるだけで良い。俺のところに帰ってこい」
数珠が鳴る。
じゃらり、じゃらり。
隻弥の手が左右にゆっくりと動く度、数珠が重たい音を奏でた。




