【Ⅻ】
〝聖職者〟──光属性の魔力持ちが多そうな職業だが、魔力属性は関係ない。
必要なのはこの世界で唯一神とされている女神様への人並み以上の信仰(この時点でアルバートにはその適正はない)。
信仰度合いによっては自分が持っている魔力以上の魔法を扱えたりもするのだという。
対死霊・悪魔属性が付与され、上級の者は魔法を使わずして魔を払う事すら出来るらしい。
『女神様の代行者』、そんな呼び名を付けられたりする。
他の職業との決定的な違いは、厳しい規則が定められている。
①早朝6時には起床し、女神様への感謝とお祈りをすること。
②夫・妻(婚約者)以外の異性との肉体関係を持たないこと。
③悪意を持って他者を傷付けないこと。
④人を憎まないこと。
⑤女神様を疑わないこと。
そう難しいことのようにも思えないが、これを破れば職業剝奪はもちろん、最悪死に至るのだとか。
この規則があってか聖職者には穏やかなおっとり系がほとんどである。
回復系、後衛、完全なる善、聖職者。
「どうして外道に堕ちたのか、お話を聞かせてもらいましょうか」
「──っ!?」
微笑み、おっとりとした口調でリリーナは鎚矛を振る。
血の気が引くような音が響いた。
ホームラン連発のメジャーリーガーの全力の一振りのような。
ルパンが野生の勘か後ろに飛んだからなんとかかわせたが、あれが直撃していたら命はない。
言っている事とやっている事がかみ合わない。
話をしたいと言って、命を奪おうとしている。
「いま、こう思いました? お話をききたいんじゃないのかって」
思いました。
この場の誰もが、純白パンティで身を包んだルパン、監視役のノラ。
そして視覚共有しているイワンとアルバートも。
「ふふ、なにもおかしいことなどしていませんとも、私は話し合いに来たのですから。出来れば更生を」
アルバートは彼女がかつて『夫が軍師として後方で指揮を執るのであれば、妻たるもの前衛で軍の士気を高めなければなりません』なんて言っていた事を思い出す。
子供の冗談かとも思っていたのだが彼女は鍛え続けた。
あの巨大なお胸の下には強固な筋肉が眠っている。
脳筋前衛聖職者。
殴るメインの回復役の完成である。
「逃がしませんよ」
そんな彼女の努力があってか、鎚矛で足元を叩けば地面が割れる。
土龍寮3階から2階へ、2階から1階へ、落ちる落ちる。
流石に1階の廊下を叩いても床は崩れなかった、むしろヒビも入らず。
落ちている最中パンティがばらまかれそうになったが、ルパンは空中でその全てを拾いきる。
着地で体勢を崩せば、リリーナはそれを見逃さず、駆け寄り鎚矛を叩き込む。
ルパンもかなりのものでパンティをかばいながら避け続ける。
「その大量のパンティをいったいなんのために使うと言うのですか? 私欲の為であるなら貴方は根が腐っている。ちゃんと日にさらし、水をあげなければすぐ枯れてしまいます。恥ずかしいとは思わないのですか、この学園に入れてくれた両親や友人、恋人に顔向け出来ないでしょう」
(ぐはぁぁぁあああ!! すっごく痛い。なんか胸の奥の方がチクチクと)
この場にいないイワンにダイレクトアタックが入る。
自室で転げ回ってるに違いない。
(……恋人なんて出来たこともないのに)
(刺さるところはそこじゃないだろ! 反省なしかお前っ)
(でもどうしましょう第三王子。ルパンは攻撃手段を持っていません。このままじゃ……)
(ただのワオキツネザルだからな。高スペックすぎる気もするが)
(召喚魔法を解いて、一時僕の部屋に帰還を)
(いや、本来の彼女はここまで怒ったりするような人物じゃない。俺が魔法の研究で城を壊しかけてもげんこつひとつで見なかったことにしてくれるような奴だ。リリーナの逆鱗は自分の下着を盗まれた事にある。返してやれば、逃げる隙くらい作ってくれそうだが)
(リリーナ・ヴィクトリア様のパンティ……確か、これだ。ルパン!!)
「うきっ!」
一枚の純白パンティが宙を舞う。
フリフリの布地少なめな、薄い生地の、大事なところに真珠の装飾がされた際どいパンティ。
学生が使うにはあまりにもアダルティック だった。
「い、いやぁぁぁあぁぁぁ@%△*!? みないでぇ!!」
涙目になりながら慌ててパンティを抱き寄せる。
パニクったのか自分の胸の谷間にそれを隠した。
(やりました! ほんとに逃げられましたよ)
(……ああ、そうだな)
アルバートは未来の義理の姉があんな際どいパンティを付けていると知って、少しだけ戸惑いをみせた。
──……余談だが、理由は定かではないが聖職者には性欲が強い者が多いのだとか。
(兄よ、なにとは言わないが……そのうち苦労するぞ)




