【Ⅹ】
「なるほど。動機としては弱いような気がするが。まあ、そんなもんだろうさ」
「いやいやいや、分かんないよ。なんで恋バナから女生徒の下着を盗もうってなるのかな!?」
イワンから全てを聞いた。
第三王子が入学して学園生活が終わったと思っていること。
昔から友達がおらずずっと自分の召喚獣と生活を共にしていたこと。
眠れない夜の散歩で白い髪の美少女に出会ったこと。
「風が吹いたんです。それは純白で、とても美して、だから僕は……」
「んー、どういうことかな。ちょっと怖いよ」
「ラッキースケベってやつだろ。美少女のパンティを見れて正気を失ったんだ」
「正気ですよ! なんなら今まで生きて来たなかで最もはっきりと自分の意志で行動している」
「犯行動機は美少女のパンティを見たから。その美少女を探してみたが学園にはいなかった、またはパンティの事ばかり頭によぎって顔を忘れてしまったか。そのため純白パンティで神経衰弱を始めた。しかし、話を聞く限りその美少女はおそらく土龍の上級生だ。同級生しかも他の寮からパンティを盗む必要は……目くらましといったところか」
なんて大掛かりな事をするんだろうか。
盗んだ物がパンティでなかったなら大泥棒として歴史に名をのこせたかもしれない。
アルバートに言い当てられてイワンの顔はひきずっていく。
もっと崇高な行為だと思っていたが、言葉にされてしまうとあまりにもみすぼらしい。
なんだか自分がひどく恥ずかしい事をしているような気さえしてくる。
いや、間違いなくしているんだが。
「これはもっと綺麗な行為なんです! 盗んだ下着にだってなにもしていない。ちょっと記憶の中のそれと見比べただけです。頬ずりも匂いだって嗅いでいない」
「スライム液まみれにはしたがな」
「ふぐっ」
偉そうに言っているが、それらをしなかったからと言ってパンティ泥棒が美談になるわけではない。
そもそもその言い方を見るに考えはしたのではないだろうか。
「えーと、まず根本的に聞きたいんだけど。『純白パンティで神経衰弱』ってなにかな? いや、意味は分かるんだよ。好きになった子と同じパンティを探してたってことだよね。……でも白いパンティなんてどれも同じじゃないかな」
「全然違うでしょうがッ!!」
ティファの言葉に鬼の形相でキレるイワン。
あ、こいつやっぱりただのパンティフェチだ。
なんなら土下座しているふりしてティファのパンティをスカートの下から覗き込もうとしていた。
させるか、とアルバートはイワンの顔を踏みつける。
「良いかラノベ主人公顔。お前の行為はなにひとつとして美しくはない。恋の為だの言葉を飾っちゃいるが結局は自分の召喚獣をこき使って欲望を満たそうとしているだけだ。『伴侶よりも深く繋がっている。永遠の絆。』だったか、お前はなによりも大事にしなきゃいけない物をおざなりにしている」
イワンは目を丸める。
我に返ったようで自分の召喚獣であるワオキツネザルのルパンに視線を向ける。
肩に乗っているルパンはイワンの頬に手を置き、「うきっ」と鳴いた。
「──確かにそうですね。……ごめん、ルパン。優しい君には似合わない泥棒行為をさせてしまって」
「名前で言えばお似合いだがな、むしろそれをするために生まれていたんじゃないかと思うまである」
「僕はなんてことを。迷惑をかけた女生徒たちには頭を下げて、自主退学させていただきます」
深く頭を下げる。
可哀想とは思うけど、それほどの事をしたのだ。
むしろ女生徒たちが訴えれば牢屋に数年は入れられることもあり得る。
アルバートは反省しきったイワンを見て考える。
これは情欲にまみれた下着泥棒ではない、女生徒の尊厳を奪おうとは微塵も思っていなかった人物の犯行だ。
普通にやっていた行為が実は重罪だった時のような取り返しのつかない状況。
「風龍寮の部屋に侵入するためにはある隠しギミックの謎解きをする必要があったと思うが、どうやった?」
「ああ、壁に刻まれた文字を順序ごとに押すと階段が現れるあれですね。確かに難しかったですけど、ルパンとの視覚共有で僕が指示を出して解きました」
「ほう。……こんなにも大それたことをしでかしたのに誰もお前たちの犯行だとは気付かれなかった。褒められたことではないが、才能を牢屋で腐らせるのも勿体ない」
「……え?」
「今度は誰にも気付かれずに全ての純白パンティを持ち主の部屋に返せ。そうすれば今回の件は黙っててやるし、純白パンティの美少女も俺が見つけ出してやる」
突然家に上がり込んでゲームを持ちかける友人のようにアルバートは笑っている。
イワンにはそれが借金取りの嘲笑にも見えたが、もう後がないため唾を飲み込み力強く頷いた。




