【Ⅵ】
アルバートは被害のあった生徒の部屋を見回る。
被害者が一番多いのは土龍寮。
そして一番少ないのが風龍寮。
単純に考えるのなら、風龍寮だけ距離がある。
下着泥棒の往復には適さなかったということだろう。
「被害を受けなかった女生徒たちの部屋は魔法で守られていた。本人以外が触るとドアノブが熱くなるとかな。そして鍵をかけない不用心な女生徒以外、被害を受けた部屋にはピッキングの痕があった」
(……ピッキング?)
「ああ、特殊な道具で鍵を開ける技法だ。地下迷宮とかで宝箱を開ける方法として使われている。鍵開け魔法っていう便利な物があるが地下迷宮には特有のモンスター〝疑似宝箱〟は冒険者の魔力に反応する。そのためピッキングを使えばミミックを起こさず本物か偽物か確認できるそうだ」
(そうなんだ。じゃなくて、なんで今回の事件でピッキングの痕があるわけ? 相手はたぶん召喚獣なんでしょ。そんな器用な事出来るわけが)
「信じがたいがその獣はやり遂げたようだな。少なくとも四足歩行ではなさそうだ」
犯人はティファと同じ亜人系の召喚獣なのだろうか。
いや、アルバートは上手く誤魔化せた(つもりだ)が他に亜人系を召喚した者がいるなんて噂は聞いたことがない。
もし亜人系を召喚獣として使役するのならそれは亜人系以外の上位魔法生物だろう。
「魔力持ちという線も薄いな」
(どうして?)
「他の部屋は魔法で守られていたって言っただろ。そのトラップがことごとく発動している。大抵魔力持ちがトラップに引っかかったら痕跡が残るはずなんだ。どんな人物が侵入しようとしたのか後で分かるようにな」
と言っても監視カメラのように顔を記録するなんて上等な物じゃない。
魔力の色には人によって微量の違いがある。
指紋ほどの明確な物ではないがその色さえ分かれば犯人探しにも役立つというわけだ。
(それがなかったってことだね。でも魔力もなくてピッキングなんて面倒な方法を使いながら他生徒に出来るだけ見られないようにするなんてかなりの難しい事だと思うなぁ。そんな危険なことしてまで女生徒のパンティを集める理由ってなんだろう)
「さてな。下着泥棒の気持ちなんてわからんさ。だがあまりにも無差別が過ぎる。言ってはなんだが顔面偏差値やスタイル関係なしに犯行に及んでいる。それこそ手当たり次第にだ」
(パンティフェチの変態さん?)
そうなんだろうが、アルバートは返答に迷う。
被害者は手当たり次第で接点や動機を考える余地はないが、情報収集をしていて少し気になった点がひとつあった。
「犯人が盗むパンティは統一されて白色だ。なにかしらの執着か、純白パンティアンチかだな」
(どっちにしろ救いがたい変態さんだね)
ティファのため息。
しかしティファの姿はアルバートの近くにはない。
アルバートが今調査しているのは校舎裏のふたつの寮のうちの土龍寮。
現在、念話で会話している。
「おっと、そのあたりが移動制限ギリギリだな」
(そうだね。寮監でもあるムラサメ先生にお願いして水龍寮の共同スペースにいるよ。初めて来たけどここすごいね。まるで地下の水族館だよ。きれい~)
「直線で引いた300mだな。歪曲しながら歩いた距離や障害物は関係ないようだ。それ以上は遠くに行けそうか?」
(あ、だめだね。身体に巻かれた紐にぐいって引っ張られる感覚がする)
「特に電撃みたいな痛みとかはないのか」
(その可能性があったのにやらせたの? ねぇ、ひどくないかな。それは)
「そこになにか持てそうな物はあるか?」
少し沈黙。
相手はちょっぴり怒っていそうだ。
しかしアルバートにはまったくと言っていい程にその沈黙に意味はない。
諦めたティファは指示通りに動く。
姿は見えないがティファが何かを手に取ったということが分かる。
これが召喚者と召喚獣の感覚共有なのだろう。
その瞬間、アルバートは召喚魔法を止める。
同時にティファとの念話は出来なくなり、繋がっている感覚もなくなる。
「──召喚」
再び詠唱。
土龍寮の廊下に魔法陣が浮かび上がる。
「アルバ! ボクで遊ばないでよ!!」
ぷんすか登場エルフ。
「召喚契約を切った時、どこにいた?」
「……えっと。召喚魔法で呼ばれる前にいた植物園に戻ってたけど」
「なりほど。水龍寮、植物園、土龍寮という順に一瞬で連続転移したわけか。面白い発見だ。それで手持ちは?」
「持てそうな物って言われたから共同スペースの本棚から一冊本を」
確かにティファの手元には魔法学問書が一冊握られている。
「移動先にそのまま物を持って行けるんだな。これを応用すれば1日で下着を大量に盗み出すことも難しくなさそうだ」
「そ、そんなことより、吐きそうかもぉ……うぷっ」
ただし連続転移のせいで酔いはあるらしい。
顔が真っ青である。




