【Ⅴ】
「我は汝を召喚する者。この魂の呼びかけに答えよ。〝召喚〟」
アルバートの詠唱。
早朝、人目のない校舎裏倉庫にて召喚魔法を行う。
倉庫内を虹色の魔力が照らす。
現れたのは前回と同じく茶色い髪をしたエルフ。
魔法薬学教師のティファ。
性別が判明♂した今でも信じがたい美少女ぶりである。
状況が理解出来ず目を真ん丸にさせているティファを見ているとキュートアグレッションに襲われる。
「……また急に。アルバ、転移魔法はびっくりするからやめてね」
「今回の事件はおそらく召喚獣を使用した事件だ。であるならこちらも召喚魔法について理解を深めなくてはいけない。妹がいれば色々と聞けるんだけどな。よって、ティファには悪いが今回だけ俺の召喚獣、使い魔として手伝ってもらいたい」
「ええっと、なにを言っているのか。さっぱりだよ」
「言葉通りの意味だ。原因は分からないが俺自身を触媒する基礎召喚魔法ではティファが召喚されるらしい。まあ、探偵とその相棒なのだから、当然と言えば当然なんだがな」
「ボクが使い魔。……ふぇ~?」
容量オーバーなのか口をぽかんと開ける。
「早速で悪いが身体に変化はないか? 違和感があれば教えて欲しい」
「そう言われてみれば、魔力が増えたとかは全然ないんだけどね。アルバの魔力との繋がりっていうのかな、紐みたいなものが僕たちの間にあるみたいに感じるかも」
「魔力が犬用リードのような役割を果たしているか」
「言い方っ!!」
まるでペットのような言われ方をしてリスみたく口を膨らませるティファ。
半妖精:エルフの拠点である精霊の森から追い出された者の多くはその容姿の美しさから奴隷商人に目を付けられ、貴族に売られることが多い。
今のは失言だったな、とアルバートも反省する。
「その魔力の紐は俺には見えないが、召喚者としてティファの行動可能範囲は分かる。俺から離れられるのは大体300mくらいだろうな」
「移動制限があるなんて、ほんとに飼われてるみたいじゃん」
「日頃、植物園から出ないんだから移動なんてほとんどしないだろ」
「ひどい! ボクだってたまにはショッピングとかするもん」
アルバートは思考する。
膨大な魔力を所有している自分ですらその程度の距離しか召喚獣を移動出来ない。
下着泥棒が移動せず召喚獣の移動可能範囲内で犯行しているのなら、4つの寮を全て移動できる時点で最低でも1㎞の可能範囲があることになる。
移動可能範囲内は召喚獣の魔力量や大きさで決まるのかもしれない。
ティファは魔力量はほとんどなく、大きさはエルフにしては少し背が低いが平均的な亜人身長、太ももはむっちりとしてるが痩せ型である。
これを基準に考えるとかなり小型な召喚獣かもしれない。
アルバートはティファの身体を隅から隅まで凝視する。
特に召喚獣として存在しているからといっていつもとなんら変わりはない。
(これでオトコとか……漫画やアニメだけの存在だと思っていたが。いや、この世界は魔法が存在するファンタジーだ。なにがあってもおかしくない。……だとしても未だに信じられないな。いっそ『スカートをたくし上げ証拠を見せてくれ』とでも頼もうか。変態が過ぎるか?)
「ち、ちょっと、アルバ!?」
「ん? ……なにやってるんだ」
スカートの袖を掴み、真っ赤な顔でたくし上げようとしている。
しかしこれ以上たくし上げてなるものかと手に力を入れているのか震えている。
ストッキングの境、絶対領域と名付けられた肌色のそれが露わになっていく。
「な、なにってアルバがえっちな命令するから!!」
「人聞きの悪い事を言うな! 俺はそんな事を頼んだ覚えは──……心の声が聞こえるのか。念話のような。しかも微量ながら魔力消費をしたな。召喚獣には魔力消費でそいつの意志関係なく強制的に命令をすることが出来るようだな」
これは面白い。
思わず笑みをこぼすアルバート。
「感心してないでとめてよ!」
もうほとんどたくし上げられ、角度によってはもろ見え状態。
アルバートの視線からも白と水色の布が少し見えた。
ふくらみがあるような、ないような。
真実を暴ける──とも思ったが、あまりにゲスな手法だ。
これでは探偵としての格が下がる。
「命令中止」
「ぷはぁ。……きゅぅ」
ティファは体力を使ったのかその場にへたり込む。
汗と頬を赤らめ、呼吸が荒れる。
なんだかその姿が、とてつもなく色っぽかった。
「うう……責任取ってよね」




