【Ⅳ】
「義弟君! 起きてください」
身体を揺らされてアルバートは目を覚ました。
外はもう暗く、消灯の時間も過ぎている。
どうやら食堂で寝落ちしてそのまま授業も出ずに眠り続けてしまったらしい。
起こしてくれたのは寝間着姿のリリーナ。
「……ん。まずいな。魔法をかけ忘れるといつもの反動で爆睡してしまうんだ。しかし誰か授業が始まったら呼びに来てくれても良いと思うんだが、防衛魔法でも無意識に使っていたか」
「そんな事より私のパ──……下着が盗まれました」
「……下着」
夢の中でも同じような事を聞いたような気がする。
パンティ大量窃盗事件。
しかしあれはフィクションのはずだ。
そんな馬鹿げた事件が起こるはずもない。
「そうです。とても大切な物です。いつレオルド様に呼んでいただいても良いようの勝負下着──とりあえずそれが盗まれていたのです。どうにかしてください」
「どうにかと言われても、情報が少なすぎる」
「被害者は多数です。その犯人は見境なく全ての寮の女生徒をターゲットにしています。それぞれの場所で布を大量に担いだ生き物が走り去っていくのを目撃されているんです」
「かなり大胆不敵な下着泥棒だな」
「召喚獣をそんなことの為に使うなんて私は許せません」
ふくれっ面のリリーナ。
いつも温厚でふわふわとしている彼女がここまで怒りをあらわにするのは珍しい。
固めた拳の矛先が向かないようにアルバートは言葉を選ぶ。
「分かった。その依頼、引き受けよう」
「本当ですか、ありがとうございます」
「まずはその召喚獣の正体から暴いてやらないとな。全ての寮に侵入が出来、鍵のかかった生徒の部屋に入り下着を盗み出した。魔法でも使ったか? いや、魔法生物の召喚獣は魔力消費が激しいから召喚者は遠距離での使役は難しい。上位の魔法使いでなければ可能ではあるが、その技術を下着泥棒で試すのは恥晒しも良い所だ」
「召喚獣の犯行というのは間違いなさそうなんですが、それがなんの動物だったのかは誰も知りません。小さい動物かもしれませんし大量の下着で姿を隠した巨大動物と言う可能性があります」
アルバートは考え込む。
目撃者はいるようだけど、自分の目で確かめたわけではないから全部推測だ。
けれど巨大な動物という線はほとんどないだろう。
透明化でも出来ない限り寮に入ろうとした瞬間に気付かれてしまうだろう。
寮の入り口はその寮に適した魔力を流し込むことによって開く。
召喚獣単体での侵入は無理に等しい。
その寮の生徒が入った瞬間に気付かれないように後ろを追って侵入したという経緯が最も可能性が高いだろう。
小さい動物、それもかなり頭が回る。
「しかし動機はなんだ? 下着を盗みまわってなにをしたい」
「それは召喚した生徒がスケベさんだったというだけの事ではないですか?」
でしょうね。
それだけの話な気がする。
「盗まれた下着と言うのはパンティだけか? ブラは」
「は、はい。上は取られてない……そんなこと関係ないでしょう! 下着は下着です」
恥ずかしい事でも言わされたのか顔を真っ赤にしてアルバートを叱るリリーナ。
「なにか裏があり、陰謀に繋がっている。パンティから始まる大事件。……なんてあるわけがないな。依頼されたからにはこれもれっきとした探偵業務。しっかりこなしてやるさ。犯人を見付けたらリリーナの前に連れてきた方がいいか?」
パンティを盗まれた被害者として犯人に鉄拳制裁をくわえたいだろう。
アルバートは冗談交じりに言う。
しかしリリーナは拳を前に突き出し令嬢らしい微笑みを見せる。
「ええ。下着泥棒さんとはみっちり話し合いをせねばなりません」
ちゃんと『話し合い』と言っただろうか。
気のせいか他の意味も含まれていたような気がする。
リリーナの職業は後衛、回復職の聖職者。
そんな脳筋な台詞言うわけないのである。




