【Ⅱ】
召喚魔法で使役出来る生き物と言えばまずどんなものを思い浮かべるだろうか。
魔力なし動物であったりモンスター、はたまた悪魔、そんなところだろう。
誰も学園教員のエルフ、ティファが出て来るとは思わない。
確かに人間を召喚することは可能ではある。
現に大昔、異世界から勇者を召喚したという文献が残っているのだから。
……しかしそれは専用の召喚書あってこそ成功した奇跡だった。
「あなたは魔法薬学の……なぜここにいるのーネ? ただいま授業中」
「わわわ、分かってます、ラブレバー先生。えーと。うむむ。……な、なんでボクはここにいるのかな?」
ふたりともきょとんとしている。
答えを知りたくてアルバートに視線を送るが、(おそらく原因であろう)彼にもなにが起こっているのか分からない。
「えーと、つまりは第三王子の召喚対象はあのエルフ教師ってこと?」
「そんなバカな。だってアイツほとんど魔力ないのと変わらないだろ。そんな出来損ないが世界最強の魔法使いの使い魔だなんて絶対おかしいだろ」
「つまり劣等まみれのエルフが第三王子に隷属するわけですな。いいではないか、いいではないか。あのエルフは辱められて泣いている顔はなかなかそそる」
「ちょっと黙ろうか変態」
「普通に考えてないだろ。先生は魂の繋がりって言ってた。あのふたりに接点なんてないだろうし、釣り合わないだろ。どーせ、転移魔法を使って召喚したように見せただけっしょ。みんなわかんないかなぁ。第三王子のユーモア」
「だとしたら寒いだろ」
好き勝手話す生徒たち。
次第に言葉は増えていく。
思考するアルバート、どうすればこれをうやむやに出来るのか。
一番丸く収まるのは生徒たちの想像通りにしてやればいい。
「いや、悪ふざけが過ぎた。ティファを召喚したのはただのジョークだ」
「笑えないのーネ」
「そうだよ、アルバ」
「じゃ、本当の召喚獣はどこにいるのーネ?」
「……それはだな……おお! ちょうどいい所に。この黒猫だ」
「シャー!!」
たまたま足元にいた黒猫。
尻尾を掴んで持ち上げると耳を曲げてキレ散らかすがアルバートは知ったこっちゃない。
生徒たち数人から「今『ちょうどいい所に』って言わなかった?」なんて声が上がる。
「少しだけ拍子抜けだけど魔法使いと黒猫はセットとして考えられているしぴったりと言えばそうかもしれないーネ」
「犬派なんだがな。こら、爪を立てるな」
「ちゃんと抱っこしてあげなよ。尻尾引っ張るの可哀想だよ」
ティファが黒猫を取り上げ、赤子をあやすように抱っこする。
黒猫はティファの匂いに落ち着いたのかすぐにウトウトとしだした。
「名前は? 召喚した生き物のステータスは召喚者だけ見ることが出来るのーネ。ただ『能力確認』と唱えるだけ!」
「勝手に見ても良いものだろうか」
「黒猫相手になにを言ってるのーネ」
「いやしかし、正当な理由のない個人情報の閲覧は罪であるからして。探偵としては踏み込むわけにはいかないというか」
「さっきまで猫の尻尾掴んでたやつがなに常識人ぶってるのーネ?」
「……良いのか?」
アルバートはティファの瞳を見る。
純粋無垢でなにも疑っていないような瞳。
一瞬、戸惑ったようにも見えたが結論が出たのかティファも視線を返す。
「この猫さんはアルバが召喚したんでしょ? ならアルバの家族みたいなものじゃないかな。家族を知ろうとするのは罪でもなんでもないと思うよ」
ちょっとだけ恥ずかしそうに微笑む。
そうか、良かった。
言質は取った。
現在、アルバートを止めるものはなにもない。
「経験人数とかは出てこないんだよな」
「なに言ってんのーネ。そもそも猫の経験猫数知ったとこで。名前。年齢。性別。戦闘向きの生き物なら魔力量や戦闘スキルとかだったりするのーネ」
「〝能力確認〟」
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■名前:ティファ。
■性別:雄。
■年齢:■■■歳。
■種族:半妖精。
■出身:精霊の森。
■職業:医者。
■パッシブスキル:薬草効果上昇(小)。
■魔力量:F-。
■属性:土。
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──────……性別:雄?
──────────────────……おとこ。いや、どう見たって。え? どゆこと。
──────────────────────────────────────────────────────……オトコノ娘。♂。???




