【Ⅸ】
「フラウロス。炎の瞳を持つ豹の姿の悪魔。過去・現在・未来を見通すが魔法陣の中にいなければ必ず嘘をつく。会話は出来るのか?」
アルバートはフラウロスに向かって歩いて行く。
フラウロスが睨みつけると爆炎が起こった。
──魔法眼。
高位の魔法使いが研究によって、または生まれつきの常時発動技能として有する事がある。
フラウロスのは『爆炎魔法』の魔法詠唱を不要とするものだ。
しかし気にしないとでも言うようにアルバートは歩みを進める。
まるで見えない壁があるみたいに、爆炎のダメージは一切ない。
「グルルルルッ。(俺様と会話できるのは召喚者のみだ。誤った者に知識を与えるのはごめんだからな。……なんて説明しても、お前には通じて……)」
「なるほど。魔力は俺の物が使われているから召喚者判定か」
「グルッ!?(なに!?)」
「召喚者に知識を与えると言ったな。面白そうだ。なにかご教授してくれよ」
フラウロスはひどく戸惑う。
召喚者であるはずのミィとアルバートを交互に見る。
やはり自分と魔力の繋がりがあるのはミィの方だと確信する。
「グルルルルッ。(そうか。お前があの女に魔力を与え、それを使って俺様を召喚したと……まるで生物の繁殖行為のようだな。パパと呼んだ方が良いか?)」
「やめてくれ」
どういうわけか、後方からベルカーラの殺気を感じる。
召喚者ではない彼女がフラウロスの言葉を理解しているわけはないのだが、……ないはずだ。
「グルルルルッ。(魔力提供者ならば、少しは褒美をくれてやらねばな。お前の未来を見てやろう)」
「その前に、〝魔法陣作成〟。──これがないと嘘しかつかないらしいからな」
フラウロスの足元に魔法文字が無数に書かれた円が描かれる、怪しい光を放ち、念仏のように魔法詠唱が聞こえてくる。
それと同時にフラウロスは鎖でも身体に巻き付いたのように固まり、その場に跪く。
「……グルッ。(……化物か。お前は)」
「失礼だな。れっきとした人間だ」
悪魔の屈辱顔なんてそうそう見られる物じゃない。
アルバートのドヤ顔にもかなり腹を立てているに違いない。
しかしアルバートの未来を見たのか不気味な微笑みを浮かべる。
「グルルルルッ。(お前の未来は破滅のみだ。第三王子アルバート・メティシア・ドラゴネス。いづれ戦争になる。兄弟姉妹を失い、愛した妻の処刑にまで立ち会う。しかしお前だけは生き残る。後悔に首を絞めつけられながら一生を終える)」
「そうか」
果たしてこれが実現するかは分からない。
ただしフラウロスは魔法陣の中にいるのは確実だ。
しかしアルバートは元々、占いの類を信じた事がない。
運命論だとかも信じちゃいない。
だから興味なさげに「ふーん」と頷く、フラウロスはその反応をみて「え? なにそれ」と困ったように口を開ける。
「グルルルルッ。(そ、それにあれだ! お前の望みは絶対に叶わない。お前は全てを創造する魔力を有しているがお前が欲しいものは絶対に手に入らない。この世界にその理想、在り方は異端だ。何度やり直そうとその事実は変わらない)」
「ああ、そんなこと言われる前から知っているさ。超常的な世界は探偵を殺す。この世界に生まれてしまったのだから、諦めなけれないけないんだろう」
「グルッ。(実に滑稽だな)」
しかしアルバートのドヤ顔は崩れない。
「だが残念だったな! この世界が探偵を拒絶しようと、俺が存在する限り探偵ミステリーは成立する。いや成立させてみせる。──ほい。地獄門作成」
フラウロスの後ろに巨大な黒い門が現れる。
重い扉は開かれ、向こう側の世界が見えた。
〝地獄〟。
罪人たちの魂を拷問され続け、悪魔たちが支配する世界。
その門から無数の黒い手が伸びてきて、フラウロスを掴む。
「グルッ。グルルルルッ。(グハハ、地獄の門を開けておいてよく言う。この世界に存在してからお前が探偵であったことなんて一度もないだろうに)」
「悪魔の言葉に耳を貸すか。さっさとおうちに帰れ。しっしっ」
アルバートが手を振ると、フラウロスは黒い手たちに覆われて呆気なく地獄に帰っていった。
門が閉まって「なんだこの三下扱いは!!」なんて怒りの声が聞こえた気がする。




