【幕間】
ミシャンドラと名乗った魔本には個人の意識が封印されていた。
通常魔法書は文字に魔力をこめ、高位魔法の詠唱短縮や魔力補給などの効果を持たせる。
話したりすることはないし、そもそも意味がない。
魔法使いは独り静寂に包まれながら本を読み耽るのが大好きな者たちばかりだから。
ミシャンドラの本名は⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎または●●●●・●●●●●、──あるいは。
偽名、呼び名が多すぎる。
信用出来ない奴ってのは間違いない。
「やめとけやめとけ。オレの事を深堀りしたってなにも出やしないさ。今回の事件の舞台装置、それ以上でもそれ以下でもない。ただの魔本さ」
誰も信じちゃいないが世界再構築説は正しい。
絶大な魔力を持った2匹の龍の戦いによって。
彼は、その再構築からはじき出された存在。
「ああ、もう。片っ苦しい。それはただの比喩だ。正しくは絶大な魔力を持った魔法使いによって。それと対抗した龍ってのも敵対国が用意したそいつのクローンだ。言わば自分対自分、まさに少年漫画の最終回みたいな展開だな。あ、ネタバレ禁止? ごめーん」
彼はあまりに物事を知り過ぎていた。
異世界の知識、雑学、禁忌、過去の全て。
しかもそれを自分だけのものにすることだって出来た。
「だがしなかったぜ。オレは皆に分け与えた。宣教師のように、寝物語を我が子に聞かせる母のように。知識の共有こそ親友の証だから」
彼は罪人だった。
知識の為であれば他人を廃人にするのもいとわない。
知りたいというのが彼の罪。
そして魔本に変えられ、地下図書館で独り、新しきを知れないのが彼への罰なのかもしれない。
「いいや、そんなもんじゃない。過払いも良い所だ。探偵を名乗る魔法使いのせいでオレは転落する一方なんだから。初恋は実らず、商売は邪魔され、しまいには打ち切り漫画みたく世界が終わった。いや、終わったんじゃない。──止まった。拳は振り上げられたままだ」
貴方はこの世界の登場人物ではありません。
貴方はこの世界の登場人物ではありません。
貴方はこの世界の登場人物ではありません。
貴方はこの世界の登場人物ではありません。
貴方はこの世界の登場人物ではありません。
「なあ、もしも神様がいるのなら聞いてくれ。オレは物語が中途半端に止まるのは嫌いなんだ。いつまでも記憶に残るようなそんな終わり方をして欲しい」
貴方はこの世界の登場人物ではありません。
貴方はこの世界の登場人物ではありません。
貴方はこの世界の登場人物ではありません。
貴方はこの世界の登場人物ではありません。
貴方はこの世界の登場人物ではありません。
「なにをしたらもう一度筆を取ってくれる? オレがどんな立ち回りをしたら新たな文字を置いてくれる? ……いや聞くまでもないな。こっちの物語を機能しないほどめちゃくちゃにしてしまえば良い。書き続けたくないほどの駄作にしちまおう」
テ⬛︎⬛︎・モリ⬛︎ウ⬛︎。
それ以上の行動、台詞を許しません。
「元の世界にその名前は置いてきた、オレはミシャンドラ。ソロモン王の番外の悪魔。電子の海で冗談交じりに産み落とされた。存在自体が嘘なんてオレにぴったりじゃあないか」
魔本ミシャンドラ。
この世界にあってはいけない呪いの書。
今すぐに燃やさなければ。
「まずは親友を魔王にする。そうすれば世界は荒れる、殺戮が日常になってしまえば探偵はオワコンだろ。最強魔法使いの俺TUEEEにシフトチェンジだ。個人的にはそっちも見たくはあるんだけどな。……主人公から生きがいを奪ったら勝利だ」
物語は破綻する。
「ああ、そうだ。親友を倒す為だけに物語は展開していく。自分の生まれ持った力を憎みながら生きてきたか弱い少女を倒す為に。リモコンどこだろ、番組変えよ」
──────……。
「だんまり攻撃とは幼稚な。語り部が語りを放棄したらそれこそ、この物語は終わっちまうぜ」




