【Ⅶ】
「なあ、アルバちゃん。そろそろ展開に無理が生じていないかい? やっぱり、この世界に必要なのは〝探偵〟なんかじゃない。チート魔法で取っ散らかった事件を解決する最強の魔法使いだ」
魔本ミシャンドラの小言を無視してアルバートはミィを睨みつける。
ミィは魔法道具作成『ソロモンの指輪』を装備した左手を前に出す。
「召喚魔法。序列64の悪魔〝フラウロス〟」
指輪に魔力が送られると黒い靄が豹のような形を作って地下図書室から出ていく。
「あれはなんだ」
「悪魔書はちゃんと読んでるんだろ? ありゃ、炎の瞳を持つ豹、地獄で二十の軍団を率いる指揮官。フラウロス。強さで言ったら魔王時代の『ククッ、俺は四天王の中でも最弱。地獄はこれからだぜ』テンプレの後に出てくる敵くらいには強い」
アルバートにはその説明の強さがよく分からない。
しかし流し込んだ魔力量を見るに学園でその悪魔を相手することが出来るのは数人程度。
一般生徒が鉢合わせたりしたら絶望的である。
「いいの? イかないと。皆、死んじゃうよ」
表情を動かさずそんなことを言う。
「あの悪魔に俺の相手をさせてお前たちは優雅に学園から去るつもりか」
「ボニー&クライドみたく派手に生きてやる。大丈夫だ、アルバちゃん。アルバちゃんには迷惑はかけない。迷惑かけないように世界征服するから」
「ミーはただ、淫魔を消せればいい」
アルバートは悩む。
このままここにいても催淫されているかぎりミィには攻撃を与えることは出来ない。
だからと言って、召喚された悪魔を追ったらふたりを取り逃がす。
魔王級の魔力を手に入れた淫魔と胡散臭いが知識豊富な魔本。
なにが起こるか分かったもんじゃない。
(……いや、フラウロスとかいう悪魔の方はとりあえずは大丈夫だ。学園には、勇者と共に魔王を討伐した魔法使いマーレェンや、ベルカーラが──)
なにか思いついたように手をパンッと叩くアルバート。
それからミィたちに向かって走り出す。
力強く抱きしめた。
「──……へ?」
愛する相手にするような抱擁。
今まで以上に魔力が吸われるがお構いなく。
ミィにはなにが起こっているのか分からない。
「転移魔法」
地下図書館から場所は変わって風龍寮の前。
どうやら攻撃魔法でなければミィを対象にした魔法は使えそうだ。
周りはまさしく炎の海だった。
その中心にいる豹ような二足歩行の怪物が悪魔フラウロスなのだろう。
フラウロスと戦闘しているのは赤い長髪に、ルビーの様な瞳、凛とした剣士。
公爵令嬢ベルカーラ。
属性が炎同士であるからかお互いに致命傷を与えられないでいる。
ベルカーラがこちらに気が付いたようで眼光を飛ばしてくる。
「どなたですか? そちらは」
背中から汗がどばっと出てくるほどの殺気。
急いで抱き着くのを止めた。
「勘違いするな。やましい事はひとつもない」
「そいつは無理があるだろ。ほとんどすっぽんぽんな親友と催淫されてるアルバちゃんが肌と肌を重ねたんだ。浮気判定されても仕方がないと思うぜ」
「静かにしろ」
「いいや、オレはラブコメにはうるさいんだ。ハーレム気取るのは良いが他のヒロインとのキスシーンをメインヒロインに目撃されておいて『お前の勘違いなんだよ!』とパワー戦法で説得、最終的にメインヒロインに謝らせる。みたいな展開は大嫌いだ。ここはひとつ白状した方が漢だぜ」
それらしいこと言っているが話がややこしくなるから黙っていて欲しい。
鬼の形相でベルカーラがこちらに向かってきているのだから。
しかも襲い掛かって来たフラウロスを避け、足に一撃を食らわせ体勢を崩させながら。
「不貞ですか? それはよくありませんね」
「違うと言っておろうに!」
「アル、焦ってキャラ変してる」
体中から汗が流れる。
まるで猛獣を目の前にしているような感覚ではあるが、ちゃんと説明出来なければ──殺られる。
「その悪魔はこのフレネラーペ・ミィと魔本ミシャンドラに召喚された者だ。ミィは淫魔で他人の魔力を吸収することが出来る。しかもかなりの容量だ。魔力量では俺の方が上回っているんだが……催淫魔法にかかっているせいで戦闘が出来ない。だから、出来ればベルカーラに」
ちゃんと説明出来ているだろうか、情報量の多さと婚約者の異常なさっきのせいで口が回っているのかすら怪しい。
「なるほど。分かりました」
ただそう呟き、ロングソードを振り上げこちらに切り込んでくる。
アルバートの耳に近づき。
「では猫さん悪魔を頼みます。どうも私では相性が悪い様なので」
「ああ、任せろ」
「ちょ、ちょい!? 強敵をヒロイン任せとか、それでもアルバちゃんは主人公のつもりかよ!!」
後ろから魔本ミシャンドラのツッコミが聞こえた。




