【Ⅲ】
螺旋階段を進んでいくと仕掛けの床は元に戻り、真っ暗になる。
しかしそのすぐに壁に置いてある蝋燭が次々と火を灯していく。
進んだ先になにがあるのか気になってしょうがないアルバートは速度を上げる。
後ろから必死に追いかけてくる足音。
「あ」
その足音が崩れた。
どこかしらに足をつまずいたのか足を絡めたのだろう。
後ろを見るとこちらに向かって飛び落ちてくるミィの姿。
両手は頭を守らず、服を抑えている。
「飛行魔法」
アルバートが詠唱するとミィの身体が地面に落ちることはなく浮いた。
「風龍寮生の端くれなら飛行系は扱えただろう。危なくなったらすぐに詠唱しておけ。ケガしたらどうする」
「……ありがと。王子も、魔法使ってない」
「今使っ……ああ、確かに。魔法を使えば一瞬で隠し部屋を見付けられるだろうな。だがそれはしない」
「なぜ?」
「俺は魔法使い以前に探偵だからな。謎にはフェアに向き合うのさ」
「ヘンなの。心も読めるはずなのに」
「読めるな」
「……なんでしないの?」
ミィは地面に降り、小走りでアルバートの横に来る。
そして顔を覗き込んだ。
「人権は最も遵守されなければならない。全能の魔法であっても他者の尊厳を傷つけるようなことはしてはならない。それに他人の考えは無理やり暴くよりも推理する方が面白いからな」
「じゃあ、ミーの考えも推理出来る?」
「知るか。事件の容疑者でもあるまいし──……と言いたいところだが、何故この隠し部屋探しに俺を誘ったのかにはいささか動機に疑問がある。友人があだ名をつけたと言っていたな、じゃあなぜその友人とではないのか」
「それはたまたま、お友達に用事があって暇をしていたというか。同じ寮になった第三王子ってどんな人かなぁ、って思っててお友達になったら楽しそうじゃんって」
「呼吸の乱れ、目線、ミィは嘘を付くとき饒舌になるようだな」
しゃべり過ぎたのか呼吸を整えている。
「嘘、じゃ、ない」
「今の段階で推理するなら〝お前は隠し部屋の入り口の存在を知っていた〟。箒立てのホコリから最近動かした者がいたと推測出来る。もしそれがお前なら説明が付くんだ。属性別のギミックに気が付いたが開けられず全属性の俺に依頼したってな。1日友達契約は友人なら無償で助けてくれる」
「……まあ」
「ふふん。どうだ。心を読まずとも他者を理解することは出来る」
得意げにアルバートは胸を張った、それと逆にミィは後ろに隠れ暗い顔を浮かべている。
なにか言おうと口を開くが、躊躇い閉じた。
「ねえ、王子」
「その呼び方はそろそろやめろ。今日だけ友人なんだろ。気軽に呼んでくれ」
「じゃあ、アル」
「だいぶ縮めたな」
「アルは自分の境遇、恨んだことは?」
なんのことだか一瞬迷ったが、おそらく全属性持ち膨大な魔力量『最強の魔法使い』として生まれた事への悩みはあるか、という質問だろう。
ミィの表情を確認する。
真剣である。
本気でその答えを待っている。
「どうだろうな。以前の俺なら『ない』と迷いなく言えたんだろうけど、今は魔法を恨めしく思うことだってある。いっそのこと俺だけでも魔法が使えなければいいと思う事すらあるな」
「それ。ミーもなんとなく──うぎゃあ!?」
またしてもつまずいた。
それをアルバートは今度は魔法ではなく、腕で抱え込んで助ける。
服が引っ掛かり、制服のシャツをたくし上げてしまった。
指にふにっと肌の感触。
おそらくお腹を触ってしまったようだ。
「離せッ!!」
省エネ少女とは思えないほどの怒号。
「おっと、すまない」
アルバートはミィを抱えた腕を外し、両手を上げて無害アピールをする。
ミィはすぐに制服を整える。
「ごめん。肌触られるの、苦手で」
「誰だってそうだ。まあ、肉はある程度付いていた方が良い。気にすることはない」
「アルはひと言多い」
元気づける為だったが余計に怒らせてしまったようで、ムスッとされてしまう。
少し気まずい空気で階段を下りていく、そして最後の段を下りた。
ここが目的地。
禍々しい扉があった。
特に魔法加工はされておらず押せば開く。
アルバートはその扉を。
「──っ」
急に立ちくらみがしてその場に座り込む。
「大丈夫?」
「……なんでもない」
なにか違和感がある。
魔力を勝手に吸われているような、そしてなによりおかしいのが劣情のようなものが胸の奥に渦巻いているのを感じる。
……この扉のせいか、それともその先の空間のせいか。
代わりにミィが扉を押し開ける。
「図書館か」
その空間は世界中の本が集まったんじゃないかと思える程、巨大な図書館だった。




