【幕間】
火龍寮の廊下、ふたりの女生徒が談笑している。
「昨日のあれ、どう思う?」
「ベルカーラ様が1年の特別入学した娘を屋上から突き落としたって話? どうせデマでしょ。ベルカーラ様はそんなことするようなお方じゃないし、学園長の魔法で飛び降りとか出来なくなってるじゃん」
「でもさ、あの娘が第三王子の新しい婚約者になるかもって噂もあったわけだしさ、ベルカーラ様に恨みを買っててもおかしくないんじゃない。ベルカーラ様支持者がいじめてたとこ見たって生徒が何人かいるよ。もしかしたらそのいじめの指示をしたのだって──」
「しっ! やめてよ、この寮にもベルカーラ様支持者少なくないんだから。聞かれたらどうなるか」
「大丈夫だって。誰も聞いてないよ」
「……まあ、それもそうね。でも昨日の事件の目撃者ってアルバート第三王子みたいだけど、なんで証言しちゃったんだろ。第三王子が見てないって言えば嘘でもなかったことになるでしょ? 婚約者を守りたいって思わないのかな」
「むしろ婚約者を変えたかったんじゃない? 光属性のあの娘って胸めっちゃでかいじゃん」
「あー……第三王子も結局男ってことか」
「だったらさ、こうとも考えられない? 光属性の娘と第三王子が手を組んでベルカーラ様を陥れたとか、第三王子が関わってるなら屋上の魔法が消えてたのも説明がつくし」
「なくはないとは思うけど、ふつーに婚約破棄した方が確実でしょ。そんな回りくどいことしたら公爵家を敵に回しかねないわけだし、王族的にそれはまずいって分かってるはず」
「全能なる魔法使いに公爵家の金の力は必要ないんじゃない?」
「それなー」
「しかも目撃者って第三王子と教師ひとりだけなんでしょ? 普通に考えておかしくない。授業中じゃあるまいしあまりに少ないじゃん。飛び降り禁止の魔法はかかってるけど閉鎖されてるわけじゃないんだから、いつもなら結構な数の生徒が屋上でお茶会とかしてんじゃん」
「私も思ったんよね、聞いた話によるとこの寮は光属性のあの娘が取り巻きの男子生徒を使って屋上の扉を封鎖してたみたいなんだよね」
「はー、なにそれ。じゃあ向かいの土龍寮は?」
「第三王子の入学祝いで寮生全員が共同スペースに集まってパーティーをしてたんだって」
「ぽいわー。あの権力主義の集団ならおかしくない。でも第三王子って風龍寮に入ったんだよね」
「あいつら泣いて悔しがってるんじゃない? ざまーって感じだわ」
「まあ目撃者が少なかった理由は分かったけど、なんで屋上封鎖させたわけ。あの娘は『ベルカーラ様に屋上に呼び出された』って言ってるんでしょ。支持者からのいじめだってあるわけなんだからおかしくない?」
「何度かベルカーラ様と話したいって近づこうとして支持者に止められてるみたいだし、相当溜まってたんじゃないかな。逃げられないようにでしょ」
「うわ、おっとり系かと思ってたけど根に持つタイプ? こわっ」
「それで話し合いが白熱しちゃったのかもね。ベルカーラ様の方が先に手が出たと」
「第三王子はどうするのかな。当然婚約破棄はされるだろうけど。そうなったら新婚約者選びだよね。うわ、荒れるぞこの学園」
「それはないでしょ」
「……あーね。まあ、そうなるか」
「でもベルカーラ様の処分は軽いものであって欲しい。突き落としたと言っても未遂でしょ。それに自分より身分の高い人物を標的にしたわけでもないんだからさ」
「婚約破棄で十分だと思うよね。でも第三王子が仮に光属性のあの娘を選んでしまったら国外追放とかもありえるかも」
「てか第三王子が『俺の婚約者はそんなことする人物じゃない!』って言えば丸く収まる話じゃん。なにやってるんだよアルバート!」
「こらこら、流石にそんな大声で言ったら誰かに聞こえるって。王族侮辱罪とかで死刑かもよ」
「あんな美しくてお優しいベルカーラ様が罰せられるんならこの国に未来なんてないもの。誰か聞いてたって──ごめんなさいっ! なにも言ってないです!!」
「……ど、どうしたの急に。誰もいないじゃん」
「あれ……いや、なんか。影が動いた気がして」




