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【Ⅸ】

 植物園の教室からムスッと睨みつけてくるムラサメを無視して、魔法植物の面倒を見ているエルフに歩み寄る。

 相変わらず木の幹に絡みつかれ、植物から発射された液体でベトベトしている。

 この光景を『面倒を見ている』と表現するのはいささか疑問が残るけれど。


「……うへー、にがい」


「いつ来ても騒がしい奴だな」


「あ、アルバ。良い所に。綺麗にしてくれると助かるなぁ」


 ベトベトな身体で抱き着こうとしてくるティファを避け、洗浄魔法(クリーン)をかける。


「えへへ、ありがとう」


「風呂には入れ、匂いまでは取れないからな」


「臭うかな?」


 アルバートが顔を近付けて匂いを嗅ぐと少しくすぐったい思いをしたのかティファの長い耳がピクピクと動いた。

 臭くはないが、土の匂いがする。


「それより、なにをやっていたんだ?」


「じゃーん! 実は今朝、手帳が見付ったんだよ。昨日教科書と一緒になってなかったから諦めてたんだけど教室の机の中にあったんだ」


 ティファはポッケから古びた皮表紙の手帳を出す。

 まるで宝物のように頬ずりする。


(……そういえば大切な手帳がどうこう言ってたな。無くしたのは教科書だけじゃなかったわけか)


「でもね、1枚だけ破れてるページがあってさ。だからこうしてスケッチしたり、特徴・能力を書き直してるわけなんだ。まあ、随分と前に書いたページだったし。新調する頃合いだったのかも」


「この花がそれか」


 花、葉、枝、その全てが白い石像のような見た目をしている。

 まるで石像だが、風が吹くと確かに揺らいだ。


「うん。ピグマリオンっていう魔法植物だよ。こんな見た目だけど、触ってみると普通の花なんだー。ほら、手を貸して。……どう?」


 小さな手でアルバートの手を握り、花の方へと持って行く。

 アルバートが驚いたように「確かに」と呟くと、「すごいよね!」とまるで自分が第一発見者かのように胸を張るティファ。


「あざ……~~~でも天性の物っぽいんだよな。こういうコミュニケーションは控えた方が良い。勘違いする男子生徒が続出したらどうする」


「……ん? なに言ってるの。ボクは──」



「げ、第三王子」



 大どんでん返しが起きそうな雰囲気をひっくり返すような声。

 声の方向には二人の土龍(ウロボロス)寮の生徒。

 昨日ゲス笑いしていた教科書隠しの犯人である。


 心の声が漏れたことに気が付いたのか二人は自分の口を両手で塞ぎ、頭を深く下げてから逃げようとする。

 しかしアルバートの「おい」という一声でそれは叶わなかった。

 渋々振り返り、下手くそな苦笑いを向けながら近づいてくる。


「なんでしょうか、アルバート第三王子」


「敬称は不要だ」


「じゃあ……アルバート」


「おいバカ! 〝様〟は付けろ。不敬罪で首が飛ぶぞ!!」


「ひぃ!? 申し訳ございません! ……アルバート様」


 別に呼び捨てで良いんだが、とアルバートの困り笑い。

 王族だからと言って呼び捨てされた程度で起こる奴はいない、少なくともこのドラゴネス王国には。

 しかしこの慌てようを見るに無理やり呼び捨てさせるのも可哀想な気もしてくる。


「ちょうどお前たちにも聞きたいことがあったんだ。昨日の事件の話はもう耳にしているな?」


「は、はい。ベルカーラ公爵令嬢が貧民上がりの生徒を屋上から突き落としたと」


「しかし当然僕たちはアルバート様の婚約者様が悪いなんて微塵も思っていませんので! あの生徒は光属性だか知りませんけど、貴族でもねぇくせにちやほやされて調子に乗ってたんで。当然の報いです」


 まさしく土龍(ウロボロス)寮らしい意見と言ったところか。

 悪行以前に身分の高い者の味方。


「身分どうこうの話でもなければ、事件に対する意見をお前たちに聞くつもりはない。聞きたいのは、お前たちがあの事件に関与しているのかどうかだ」


「ええっと。それはどういう」


「タイミングが良すぎるじゃないか。お前たちが隠したこのエルフの教科書を見付けた瞬間に隣の寮の屋上で事件が起きた。まるで俺たちを誘導させて、あの光景を見せつける為だったかのようだ」


「……んん? はあ、えーと」


 いや、なにひとつとして伝わってないぞ。

 どう見たって策略家にも思えない。

 このぽかん具合で事件に無関係であることが分かる。


 ならばアルバートたちが目撃者になったのはやはり偶然か。

 目撃者はもともとおらず、偽物(?)のベルカーラとマリアンヌだけのはずだった。

 マリアンヌにいじめられたと証言させベルカーラの評価を下げさせようとしたとか、……いや、相手は公爵令嬢だ。平民のマリアンヌの言葉を信じて同調する者は少ないと思われる。


「最後にひとつ、マリアンヌ嬢の知っていることを全て教えてくれ」


「……と言われても貧民上がりのことなんて」


「教えてくれたら、俺が10秒数えている間だけティファを好きなようにして構わん」


「ち、ちょっとアルバ!?」


 二人の目がギンッと勢いよく開かれた。

 鼻の下の伸び具合を見るにいかがわしいことを考えているのは間違いないが、今なら屋敷の金庫の暗証番号すら教えてくれそうである。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます! 魔法植物と戯れてるからある意味面倒は見ているのかもw 戯れるというより弄ばれる?ヽ(゜▽、゜)ノ ウヘヘヘ 意外!! 粘液はニガかった!?wΣ(・ω・ノ)ノ!…
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