選択肢は二つ
王位継承権第二位。
もちろん『条件によってはそうなりうる』という仮定の話であり、現在ピッケルがそうだ、という事ではない。
しかし、ミネルバにとっては正に青天の霹靂、そこまでの高位な継承権になるとは思いもよらないことだった。
せいぜい現王の娘であるシャルロット、その息子である訳だから、その出自が知れ渡れば、順位はともかく継承権が付与されることも有り得る、程度の認識だったのだ。
そして継承権第二位というのは、他の継承権者からしてみれば、可能性があるというだけでも脅威に感じる、ということも容易に想像できた。
ならば、権力闘争の観点からいえば、対抗勢力になりうるピッケルを、事前に排除すべく動く、というのも自然な流れだろう。
「とまあ、ここまでの話から考えるに⋯⋯その『癒やし手』という一味は、恐らく聖国の関係者だろう」
「確かに一味の一人ケプラマイトは、ガンツの話によれば聖国御三家の一つ、スレイヤー家の者だとの事ですが⋯⋯」
先ほどガンツより聞いた情報を、ミネルバはアスナスへと伝えた。
アスナスは頷きつつ、更に別の事実を口にする。
「もしかしたら第二夫人であられるサビーヌ様が関係しているのかもな。サビーヌ様は聖国王家のご出身だ」
「そうなんですか、あまりサビーヌ様の事は存じ上げないのですが」
実際の所、サビーヌに限らず王家のことを詳しく知るものなど市井にはあまりいない。
「天神教の敬虔な信者⋯⋯といっても、あの国の住人はだいたいそうだが。サビーヌ様は出家したのちに還俗し、その後王国へ嫁いだという少し変わった経歴をお持ちでな⋯⋯還俗した今なお教皇猊下の信頼は厚いと聞いている。シルヴァルン様が即位すれば、王国内で天神教の影響力が無視できなくなるのではないか、という懸念をする者もいる」
「なるほど⋯⋯」
「ま、その辺はピッケルが王位を望まないということであれば、あまり関係のない話だ。それよりも、私が思いつく限りで言えば、君たちが今後取るべき道は二つ、というとこだろう」
「二つ?」
「まず一つは⋯⋯そんな話は一切無視して西に行く、という選択肢だ」
確かにそうだ、とミネルバは思った。
だが、この選択肢が持つデメリットにも思い当たる。
「色々な人に、迷惑をかける可能性がありますね。アスナス様にも⋯⋯ですよね?」
「まあ、最悪冒険者ギルド監督庁をクビ、ってこともあるだろうな。まあ私は別に構わんが」
構う。
こちらが構う。
冒険者ギルド監督庁には何人か監督官がいるが、やはりお役所、融通の効かない人物が多い。
特に外を知らない、生粋の内勤型監督官というのは、頭が固い。
その点アスナスはまだマシだ。
黒竜襲来の時のように、現場にきちんと足を運ぶタイプだからだ。
それは、アスナス自身が王の近衛兵を務めたほどの剣豪で、有事の際には自身の身を守れるだけの力量があるからできることなのだ。
現場を知っているからこそ、冒険者の立場も考えて、多少の融通を効かせてくれる。
厄介な仕事を押しつけてくる、という所はあるが、それでも達成すればそれなりの報酬か、それに代わる恩恵のある仕事が多い。
つまり、アスナスが監督庁を放逐されるような事態は、王都の冒険者たちにとっての損失に繋がりかねない。
「うちのギルドにも、影響あったりしますかねぇ?」
ミランが少し不安そうに聞く。
「どうだろうな⋯⋯だが、間違いなくミネルバの実家には何かしらの圧力があるだろうな⋯⋯とは言え、その辺も含めて些細な事だろう」
「些細⋯⋯ですか?」
「ああ。一番のデメリットは、ピッケル次第だ」
「俺ですか?」
アスナスはピッケルの方へと視線を移した。
「君の祖父にあたる国王陛下は、病に伏せておられる可能性が高い。公式行事への参加もないし、お顔を見せない」
「なるほど。つまり、俺がおじいちゃんに会いたいなら⋯⋯早い方がいい、そういう事ですね?」
「理解が早いな。そして、君と王の面談をセッティングできるほどの人物となれば、かなり数は絞られる。もちろんデュエルマン公爵はその一人だ」
なるほど。
確かにピッケル次第だな、とミネルバは思った。
ピッケルがまだ会ったことのない祖父に会いたければ、早めに動かなければいけない、ということだ。
だが、そのような面談を、公爵家が何のメリットもなくセッティングすることも無いだろう。
「その場合最低条件は恐らく、君が両親⋯⋯というか、母親がシャルロット様だと認め、それを内外に発表する、ということになるだろうな、それが二つ目の選択肢だ」
アスナスの言葉を受け、しばらくピッケルは考えている様子だったが、その後ハッキリと意思表示をした。
「会います、そのデュエルマン公爵に」




