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癒やし手のマーサ

「この街に?」


 ミネルバの問いに、クルーウッパスは頷いた。


「ああ。この街まで八人で来た。ただ、街の入り口で俺とケプラマイトは別行動になったから、詳しい居所は定かではないが⋯⋯」


 どうやら一気に居所がわかる、といった好都合な展開は期待できそうにない。

 しかし、『癒やし手』という一行がこの街まで来ている、それ自体が大きな手がかりだ。


「あと聞きたいんだけど、なぜそいつらはピッケルを襲うのか言ってなかった?」

「いや、俺は聞いていない。今後も一族に治療を受けさせたければ協力しろ、と言われただけだ。ユガ族の今後を考えれば、背に腹は代えられん、俺がピッケル・ヴォルスを襲った理由はそれだけだが⋯⋯」


 クルーウッパスにしてみれば、同族を人質に取られて要求された条件、と言うことだろう。

 だからしょうがない、とは思わないが、事情はわかる。


「俺を殺そうとした、ということは、今後一族の面倒を見てもらえる可能性は低いだろう。むしろ手懸かりを与えると判断し、我々と敵対する可能性は高い」

「そうね。それにあなただけじゃなく、他の人にも『呪殺』を仕込んでる可能性もあるし⋯⋯」


 下手をすれば、ユガ族全員に『呪殺』を仕掛けている可能性もあるのではないか、ミネルバが考えていると⋯⋯。


「いや、恐らく大丈夫だろう。『呪殺』ってのは燃費の悪い魔法だ」

「そうなの?」

「ああ、以前師匠がそんな事言っていた。ダンジョンにある設置型のものならともかく、恐らく一人の魔法使いが対象にできるのは一人か、多くて二人だろう」


 魔法の専門家であるミランから注釈が入る。

 であれば、とりあえずクルーウッパスが帰還した時に里が全滅、といった憂き目には合わずに済みそうだ。


「なら、とりあえずその『癒やし手』とかいうのを探し出して、何故ピッケルを害そうとしてるのか確認しないとね」

「だが、どうやって? フェイでもいれば、情報が入ってきたかもしれんが⋯⋯」


 ガンツの疑問に、それまで静かにしていたピッケルが言った。


「ガイさん」

「はい」

「昨日の話だと、ロイ商会にとってこの街は庭同然なんでしょ? その癒やし手の事もわかりませんかね?」


 なるほど、とミネルバは思った。

 この街で一番の情報網を持っているのは間違いなくロイ商会だろう。

 ピッケルの言葉に続けてミネルバも聞く。

 

「ねぇガイ、なんとかならない? もちろん対価は払うわ」

「私の一存ではなんとも。とりあえず会頭には打診しておきましょう⋯⋯あと、みなさん、『ウェリック捜査手記』というのはご存知ですか?」


 ガイからの、突然の質問に全員が頭を振った。


「では、ご紹介させていただきましょう。

 ウェリックというのは、王都で五十年ほど前に活躍した捜査官です。主に殺人事件を担当してました。

 ウェリックによれば、殺人事件は主に三つに分類されます。

 利害、怨恨、快楽の三つです」


 なぜ急にそんな話を、と一瞬思ったミネルバだったが、すぐに思い直す。

 ピッケルがあっさりと撃退したものの、今回の事は立派な殺人未遂事件なのだ。

 つまり、ガイなりのアドバイス、ということだろう。


「利害⋯⋯はわかりやすいわね、敵対する組織や人が、邪魔者を消す場合ね」

「そうです。怨恨もまたわかりやすいですね、被害者に恨みを持つ者、ということです。ウェリックによれば、利害は敵対する人物及び組織の洗い出しを、怨恨は被害者の過去を洗い出すことで、犯人の特定が可能になる、という事になります。

 快楽の場合、手口の集積が必要になります、今回のケースでは除外して構わないでしょう」


 まあ、快楽殺人が目的でピッケルを襲う組織や人物などいないだろう。

 ミネルバもそこは除外して構わないだろう、と判断した。


「うん、となると⋯⋯今回のケースは、利害の可能性が高いわね。もしかしたら、お義父さまに恨みを持つ相手が逆恨みして、何て事もあるかも知れないけど、その場合は特定は難しそうだし⋯⋯」

「はい、私もそう思います。その上で、私の考えを話させていただければ⋯⋯今回の事は、王位継承に関わる事ではないでしょうか?」


 なるほど、とミネルバは思った。

 動機は王位継承絡み、そう考えると辻褄が合う部分も多い。

 ケプラマイトという剣士も、ピッケルの出自を特定しようとしていた。

 ピッケルの出自が関わること、それはまさしく王位継承絡みだろう。

 ミネルバが考えている間も、ガイは自分の予想を続けた。


「ピッケル様が、シャルロット様の御子息ではないか? というのは一部で噂になっています。となると、他の王位継承に関わる方々にとっては、降って湧いた潜在的な対抗勢力⋯⋯念のために取り除こうと考えてもおかしくありません」

「噂も何も、事実だろ?」

「ちょっと! ミラン!」

「えっ? あ? あー、すまん⋯⋯」


 今のやり取りで、まだロイ商会にはそのあたりを伝えていなかったことをミランも察したようだ。

 バツの悪そうな表情を浮かべる。

 そんなミランを気遣うように、ピッケルが言った。


「いえ、気にしないで下さい。ガイさんに協力をお願いしてるのはこちらです、隠し事は無しにしましょう。

 ガイさん、その噂は本当です。俺の母はシャルロット、間違いありません。ただ、できれば他言は⋯⋯父や母を変なことに巻き込まず、そっとしておきたいんです」

「はい、わかりました。その代わり、といっては何ですが⋯⋯協力に当たって、一つお聞きしても?」

「答えられることなら」

「ピッケル様は王になりたい、といった望みはありますか?」


 ガイからの問いに、ピッケルは即答した。


「今のところ、全く」

「そうですか、安心しました」

「安心?」


 ガイの言葉にミネルバが聞き返すと、彼はミランにチラッと視線を向けたあとで、頷いて答えた。


「私個人の考えですが、権力者は欲深い方が良いですね。金に目が眩むくらいの方の方が御し易いですから」

「⋯⋯おい、そこで俺を見るんじゃない」

「冗談はともかく。王を目指さない、ということであれば、早めにお立場を表明した方が良いかも知れませんね。王宮の内部事情に詳しいお知り合いは?」

「いや、そんな知り合いは⋯⋯」

「いるわね」


 否定しようとしたピッケルの言葉を遮り、ミネルバは自分の考えを述べた。


「アスナス様なら、たぶんそのへんに詳しいと思う。元近衛兵だしね。貴族に伝手があるかまでは分からないけど、どうせ王都に戻ったら一度顔を見せる約束だし⋯⋯」


 言いながらミネルバは思い出した。

 辺境に赴く前、アスナスが


『さっさと解決した方がよい問題がある』


 と言っていた。


 恐らくこの事だろう。

 たぶん、クワトロと知己であるアスナスに、ピッケルを王にすることを望む勢力が接触してきたのだ。

 だから彼は、ピッケルが辺境へと出立する前に顔を見せなかったことを『言い訳が立つ』などと言っていたのだ。


「ねぇ、ガイ。ピッケルに王位を望む勢力に心当たりある?」

「シャルロット様のお母上である、マリアンヌ様に近い貴族でしょうね。その中で一番の有力者、となれば、王妃様の兄上であるデュエルマン公爵様ということになります」

「デュエルマン公爵!? でも、そっか、そうよね⋯⋯」


 思わず叫び声を上げたミネルバに、周囲の視線が集まる。

 

「いや、叫んだと思ったら一人で納得し始められても」


 ミランの言葉に、ミネルバは溜め息をつきながら事情を説明した。


「西の街、フェルーティ⋯⋯知ってる?」

「聞いたことないな」

「そうよね、まあ、小さな街⋯⋯ていうかほぼ村だし。デュエルマン公爵の持つ、数ある飛び地、つまり領地の一つよ」

「それで?」

「飛び地には、普通なら代官が派遣されるんだけど⋯⋯フェルーティはちょっと特殊なの。

 准男爵位、つまり一代限りの、領地なし貴族としての勅許状を下賜された、そこに住む郷士が代官のさらに代わりをしているのよ⋯⋯いえ、人にまわりくどいのはよせ、って言っておいてこれは良くないわね⋯⋯」

「何となくわかったぞ、それは」

「そう。私の父よ。つまり父は、デュエルマン公爵から見れば配下と言っても良いわ⋯⋯」


 面倒なことになりそうだ。

 漠然とした不安を吐き出すように、ミネルバは嘆息した。




───────────────


 王都には二つの街がある、と言っても過言ではない。

 内層と外層。

 外層は王都の出入り口である門に近く、内層は王都のみならず、この国の主である、王の住まいである王城により近い。

 二つは、それぞれ雰囲気も大きく異なる。

 大きさを含め雑然とした建物が建ち並ぶ外層と比較し、内層はそのどれもが家主の権力を表すように大きい、という特徴がある。


 ケプラマイトは一晩を外層部の宿で過ごしたのち、内層部にある屋敷の一つへとやってきた。

 さる貴人が用意したとされる、『癒やし手』たちの王都での活動拠点。

 半年前に一度下見に来ているので、迷わず辿り着くことができた。

 内層部の中ではそれほど大きな屋敷、とは言えないが、それでも部屋数は十を越えている。


 門をくぐり、ドアに備え付けられたノッカーで事前に聞いていた数──七回、四回、六回と、間を空けながら叩くと、しばらくしてドアは開いた。

 

「ケプラマイト⋯⋯! 遅かったじゃない、心配したわ!」


 迎えてくれたのは、癒やし手にいる姉妹のうち、妹のニーサだ。

 美女と言って良い姉のマーサに比べれば十人並みの容姿だが、姉と違い愛嬌があり、何より性格が穏やかだ。

 ケプラマイトはニーサの頬に口付けをしながら、遅れた事を詫びた。


「心配かけて済まない。尾行を警戒してね」

「ううん、無事なら良いの」

「マーサはもう起きてるかい?」

「ええ。さっきみんなで朝食を摂ったところよ。二階に上がって右の突き当たりの部屋にいるわ」

「わかった、ありがとう」


 会話をしながら、ニーサの左手にチラリと視線を移す。

 そこにはケプラマイトが贈った指輪が、いつもと変わらず落ち着いた輝きを放っていた。


「今日も着けてくれてるんだね、ありがとう」

「あなたから貰った最初の贈り物だもの。外すわけないじゃない」

「ありがとう、愛してるよ」

「私もよ、ケプラマイト」


 再度ニーサの頬に唇を寄せ、二階へと上がる。

 教えられた部屋の前でノックすると


「どうぞ」


 中からマーサの声がする。

 了承を得てケプラマイトが入室すると、早朝にもかかわらず、きっちりと天神教のローブに身を包んだマーサが出迎えてくれた。


 今朝だけではない。

 彼女はおおよそ、隙がない。

 それは彼女の美しさをさらに補完するが、親しみやすさとは無縁だ。


 彼女に促され、応接用のソファーに腰掛ける。


 そのまま彼女は対面に座ると、挨拶と報告をしようとするケプラマイトの機先を制すように、短く言った。


「外されたわ」


 前置き無しに、突然そんなことを告げてきた。

 彼女の言葉の意味についてしばし考えたが、ケプラマイトは面倒になり、さっさと聞く事にした。


「外されたって、何を?」

「私の『術』よ」

「ああ、なるほど。そんな事もわかるのか?」

「ええ」

「だか、発動はしたんだろう? ならクルーウッパスは死んでるんじゃないか?」


 ケプラマイトの問いを、マーサは首を振り否定する。

 

「もし相手が死んでれば、その時点で術は消えるわ。外されたってことは生きてるわ」

「ふむ」


 便利な能力だ。

 恐らく、嘘は言っていないだろう。


 最初彼女の能力を聞いた時、疑うよりも先に腑に落ちた、と表現する方が正しい。


 天神教において、マーサは二十六歳という若さで、異例の出世をしている。

 何故か、彼女の邪魔をする者は命を失う、そんな噂は聞いたことがあった。

 

 それを為したのが、彼女の秘中の秘、呪殺の能力だったのだ、と結び付いた。


 そう、彼女は思い通りにならない者を排除する、それが身についている。


「俺はやることをきっちりやったぜ?」

「そうね、でも私の能力は保険よ。首に剣を触れさせる事が可能なら、そのまま斬ってくれれば、こんな事にならなかったんだけど」

「いやいや、とてもできる状況じゃなかった。それ以前に、やつは肉体の欠損を錬金金属で瞬時に補えるんだ、首を斬ったから必殺、とはいかない。だから奴に呪殺を仕込んだんだろ?」

「そうね」


 本来、クルーウッパスを呪殺によって亡き者とするのは、ピッケルを倒したあとの予定だった。

 しかし、その前に万が一クルーウッパスが裏切るような状況になれば、その保険としても機能する。


 ケプラマイトはお目付役兼、何かあったときの呪殺の『誘因(トリガー)』を行う為に癒やし手に雇われたわけだが⋯⋯。


(面倒だな。この女は、上手くいかないことを『人のせい』だと考えるタイプだ)


 正直、ケプラマイトにとっては癒やし手たちの目的などどうでもよかった。


 斬り甲斐のある対象と出会い、斬る。

 それがケプラマイトの求道。

 そして、癒やし手達と行動を共にしたことで、目的の出会いは既にあった。


(潮時かな)


 ケプラマイトが考えていると、マーサがおもむろに席を立ち、近くの戸棚から革袋を取り出した。


「そうね、アナタはやるべき事をやった。それには報いないとね」


 彼女はテーブルの上に、その革袋を置いた。

 その重量感ある音から、かなりの大金であることがわかる。


 ケプラマイトはそれを取り上げようとせず、ただ眺めた。

 しばらくしてマーサが聞いてくる。


「あら。警戒してるの? それが『誘因(トリガー)』なんじゃないか、って」


 そう言って、クスクスと試すように笑う。


「まさか。信用してるさ」


 と、答えたものの、まだ革袋には手を伸ばしていない。

 仮に、マーサがケプラマイトに『呪殺』を仕込んでいたとして。

 妹の恋人を、あっさりと殺すだろうか?


 殺すだろう。

 邪魔になれば。


 結局、これが誘因要素(トリガー)でないとしても、もし呪殺を仕込まれているとなれば、発動は防げない。

 誘因要素を見抜くのは、ケプラマイトには不可能だからだ。


 例えばこの家に来たときにノックした数、あれが合い言葉代わりの符丁でありつつ、誘因要素を兼ねているという可能性もある。

 疑えばキリがない。

 また、相手を斬ったからといって、呪殺が解けるのかどうか。

 それもわからない。

 念のために斬っておく、というのも選択肢としてはあるだろうが⋯⋯。


 マーサを殺す。

 それこそが呪殺の誘因要素(トリガー)かも知れないのだ。

 そう考えれば、安易に手は出せない。


 もちろん、呪殺に対して対抗できる者もいないわけではない。

 呪殺に対して『抵抗力』を持つものもいるし、マーサの言葉を信じるなら『外す』ことも可能、という事になる。

 ただ、その多くは神の祝福を受けた者。

 ケプラマイトはどうか。

 そんな物は受けていない。


 つまり。

 呪殺が発動し、我が身に降りかかれば死は避けられない。

 厄介な能力だ。


 しばし考えたのち、ケプラマイトは革袋を取り上げた。


 


あけましておめでとうございます。

年越し前に投稿したかったのですが、年を跨いでしまいました、すみません。

続きも書いてますのでもうしばらくお待ち下さい。

また、農閑期の執筆が詰まったの息抜きとして書いている話も、少し書きためが増えてきましたので、近々投稿したいな、などと思っております。

よろしければ、そちらも読んで頂ければ嬉しいです。


今年もよろしくお願いします。

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俺は何度でもお前を追放する ~ハズレスキルがこのあと覚醒して、最強になるんだよね? 一方で俺は没落してひどい最期を迎えるんだよね? 知ってるよ、でもパーティーを出て行ってくれないか~

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[良い点] やっかいだなー(楽しみ) あけましておめでとうございます。 今年も楽しませて頂きます
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