表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/78

厚かましい人々

 識王討伐、難易度S。

 識王軍撃退、難易度S。

 エンダムの防衛、難易度S。


 ミネルバが冒険者ギルド監督庁のアスナス執務室で、机の上から取り上げた依頼書に書かれている冗談のような内容と、その難易度を眺めていると、アスナスは揉み手で声をかけてきた。


「さあミネルバ、どれにする? どれも文句なしに、Sクラス冒険者のピッケルに相応しい内容を取り揃えたぞ?」

「文句なしに、冒険者のやる仕事じゃないですね」


 ミネルバは、呆れ声になってしまっているのは自覚していた。

 すでに、辺境へ急いで向かい、取って返すように西に向かわないと行けないため、時間的な余裕がない、とある程度現状を伝えた上だからだ。

 アスナスは大げさに、驚いたようなしぐさで言ってくる。

 

「そうやって自分たちの可能性を狭めるのはミネルバ、君らしくないぞぉ? 人生はチャレンジだ! チャレンジ精神を捨てるなんて感心しないぞ?」

「私としては、現状を伝えた上でも、これを平気な顔で出してくる、アスナス様のチャレンジ精神に感心しまくってます」

「ははは、尊敬するのは構わんが、ピッケルに嫉妬されない程度にしといてくれよ? 黒竜みたいに投げ飛ばされたら大変だ! で、どれにする?」

「いや受けませんよ? 特に一番上なんて、ほとんど暗殺者の仕事じゃないですか」

「いやいや、ピッケルなら正面から堂々といけるって! そしたら結果的に全部(フル)コンプリートだ!」


 これだ。

 駄目だとわかっているくせに、断ると結構めんどうくさい絡みをしてくるのだ。

 極力失礼のないように表情には出さないように──その時点で相手の手のひらの上な気もしなくもないが──ミネルバははっきりと言った。


「今回は、依頼は受けられませんね」

「そうか、残念だな」


 がっかりしたような表情で、アスナスはため息をついた。


 さぁ、ここからだ。

 ミネルバが気を引き締めていると。


「──と、普通の監督官なら言うのだろうが、なんせ私は諦めが悪い」


 知ってた。

 あと何度このやり取りをすればいいのか、と思いながらも、きっぱりと断るつもりでミネルバは極力冷静な対応を心がける。


「あの、アスナス様、いくら言われましても──」

「クワトロの弱み。どうだ? 気にならないか?」


 ピクッ。

 ミネルバは意外な角度からのアスナスの申し出に、自分の動きが止まるのをはっきりと自覚する。

 はっきり言って、めちゃくちゃ気になる。


「どうせクワトロの事だ、基本的にはいい舅なんだろうが、たまにからかってきたりするだろ? やり込める方法の一つや二つ、持っておいた方がいいんじゃないか?」


 さすがアスナスだ、核心をついてくる。

 アスナスの交渉術こそ、ミネルバの手本だ。

 今の今まで、ミネルバは義父の弱みなんて、知りたいと思ってもいなかった。

 本人すら気が付いていない望み、あるいは弱みを的確についてくる。

 昔のミネルバなら、一も二もなく飛びついただろう。


 しかし、今のミネルバは違う。

 気付かされた上で、考える力がある。


 アスナスが言うのであれば、ブラフではない。

 口にした以上、クワトロの弱みとやらは確実に存在する。


 では、その弱みとはなにか。


 これは他に思いつかない、というより、十中八九間違いない。

 「義母に知られたらマズイ内容」だろう。

 それ以外に、あの義父に弱みなんてないだろうし、あるいはあっても気にしないだろう。


 と考えれば。


「すみませんアスナス様、どんな名剣でも、鞘から抜けないのであれば、なまくらと変わりません、交渉材料にならないと思いますが」


 知られたらマズイ内容ということは、義母が知れば、怒るか、悲しむか、ということだ。

 当たり前だが、義母を怒らせたり悲しませたりはしたくない。

 となると、知ったところでその弱みは使えない、ということだ。

 個人的な興味、という点で言えば知りたいが、ミネルバに利用できないことなら、結局クワトロの弱みにはならない。

 めちゃくちゃ、知りたいけども。


 ミネルバの指摘に、アスナスもやっと諦めように天井を見上げたあとで、視線をもどしながら返答してきた。


「いやぁミネルバ、頭の回転が早いなぁ、ま、そういうことだ。

 さすがにこれは諦めるしかないか──と、思うじゃん?」


 しつこっ! そうくると思ってはいたけども!

 そこで横にいたガンツが助け船を出してくれた。


「アスナス様すみません、もちろんできるだけ協力したいとは思っています、と言ってもこの依頼で俺ができることなんてないですけど⋯⋯。

 ただ、二人には俺が無理言って来てもらっている以上、あまり負担は掛けたくないのですが」

「はっはっは、ガンツ、その言い方だと、私が悪者みたいじゃないかー、やだなー。

 私は国のためを思い、悪いなーって思いながらも心を鬼にして、無理難題を押し付けようとしてるだけだぞ? それに、依頼を受けるつもりがないなら、何しに来た?」


 開き直りがひどい。

 とはいえ、最後に関してはアスナスが正論だ。

 依頼を受けないなら、本来寄る必要性は薄い。

 クワトロに言われなければよらなかっただろう、こうなるのわかってたし。


「義父がアスナス様の所に行って、今後のことを相談したほうがいい、ってことだったもので」

「今後の事? いや、確かに冒険者向けの依頼を通して、東の状況は耳に入ってくるが⋯⋯あ」


 そこまで言ってから、アスナスは何かに気が付いたような表情を浮かべたあと、ミネルバから視線を外し、嘆息するように話始めた。


「そういうことか⋯⋯あいつめ、私に面倒な説明を押し付けようと⋯⋯いや、最近王都に来てないから仕方がない面もあるか」


 ぶつぶつと独り言を発しつつ、考えをまとめたのか、アスナスはミネルバへと改めて視線を向けて言った。


「ま、今回は、依頼するのは諦めよう」

「⋯⋯珍しいですね、私はあと二十回は同じようなやり取りする覚悟をしてましたけど」

「うん、実はそれほど依頼を受けてもらうことにはこだわっていない」


 だったら今までのやり取りなんなのよ! と口から飛び出そうになったが、口にしたのは別のことだった。


「なぜですか? ピッケルが直接来てないからですか?」

「いやいや、そうじゃない。単純に確信してるんだ」

「⋯⋯確信って、何をですか?」


 しばらく間が空いたあと、アスナスは笑みを浮かべながら言った。


「英雄ってのは、何かが起きている場所に行くだけで、さらに何かを起こす。そういう運命だ。黒竜が来た時にピッケルがいたのも⋯⋯単なる偶然じゃなく、そういうことなんだよ。うん、そう考えれば、依頼を受けて貰わない方が安上りだな、国庫にやさしい」


 何か無茶苦茶な理屈だが、妙に説得力があった。

 そして、何かが起こるってことは、当たり前だが良いことだけではない。

 反論したいが、思いつかない。

 ──としばらく考えてみると、特に無理に反論は必要ないと気が付いた。

 なんにでも言葉を返そうとするのは悪い癖だ、と一人反省していると、アスナスが次の話題を切り出してきた。


「クワトロが私に相談しろと言ったのは、今回の件にかこつけて、私に厄介ごとを押し付けようとしてるだけだ」

「厄介ごとを?」

「ああ。たぶんさっき言った、クワトロの弱みの一つが関わってくるんだが⋯⋯二盾からクワトロが逃げ回ってた話、シャルロット様は?」

「あ、そういえば聞きましたね」

「あー。それでクワトロはちょっと怒ってる。だから私に面倒事を押し付けようとしてるんだ」

「⋯⋯大変ですね、アスナス様も」


 そう言ったものの、ミネルバはあまり同情はしていなかった。

 アスナスも大概、同じように面倒事を押し付けるからだ。


「ま、仕方ないさ、あんな男に関わってしまったんだから。しかも、自分から望んでな。

 そこで依頼じゃないが、お願いがある。

 辺境のことが落ち着いたら、夫婦揃って一度顔を出してほしい。

 その時に、改めて話をしよう。

 今日ピッケルが顔を出さなかったのは、むしろ好都合だ、私もいろいろ言い訳ができるからな」

「言い訳?」

「とりあえずそれはこっちの話だ。

 でも君たち夫婦が、避けて通れない問題でもある。

 今すぐとは言わないが、さっさと解決した方がいいだろう、というのは、間違いなく言える」

「わかりました、では改めて参ります」



 何やら、面倒事の予感をさせつつも、今日ここに来る前は、何かしら押し付けられることも覚悟していたため、ほっとする思いと共に、少し拍子抜けしたような心境で、ミネルバはアスナスの元を辞した。



________

 


「⋯⋯これ、マスターが作ってないでしょ?」


 虎吼亭名物の煮込みを口にしたミネルバの指摘に、イリアはさっと視線を外した。

 


 ピッケルと合流したあと、三人で冒険者ギルド【鳶鷹】に向かい、主に情報収集の目的で、久しぶりに現鳶鷹のマスターであるヨセフと話をした。

 特に重要な情報はなかったが。

 鳶鷹滞在後、ピッケルから


「虎吼亭のマスターに、夜になったら顔をだせ、と言われてるんだけど」


 とのことで、一行は夕食を兼ねて昨晩に続き虎吼亭に来た。

 そこで主人に言われたのは


「金はいらねぇから、煮込みを残さず食え」


 という謎の指示だった。

 別に、不味くはない。

 しかし、普段が絶品のため、比較するとどうしても食が進まない。

 しかも、何十人前といった量が、鍋いっぱいに入っている。

 今日はほとんど売れていないのだろう。

 しばらくミネルバが皿の中をスプーンでかき混ぜるようにしていると、対面の男に励まされた。


「まぁまぁ、お嬢、頑張って食べようぜ?」

「いや、あなた良く一緒にご飯食べれるわね⋯⋯」


 フェイの厚かましさに、ミネルバは呆れた。

 鉄球を投げてきたのはフェイで、しかも「二盾」だということはすでにピッケルから聞いていた。

 長い付き合いではあるが、彼がそんな強者だとは知らなかったので驚きつつも、会ったら、四矛四盾の二矛だというヤンの事を含め、いろいろ問い詰めるつもりだった。

 そんなフェイがまさか虎吼亭にいて、しかも一緒に食事をすることになるとは思っていなかった。


「だって、マスターが残っちゃいそうだから、全部食えっていうから。正確には、オレとピッケルで、だけどな」


 そう言ってフェイは口に煮込みを運んでいるが──ミネルバはすでに見抜いていた。


「いや、あなた、さっきから食べるフリしてるだけでしょ!?」

「あ、バレた? 実はとっくに諦めてる、無理」

「いつよ! 諦めたのは!」

「鍋見たときだけど?」

「⋯⋯一緒ね、奇遇だけど」


 ここ二日で初めて、フェイと意見が一致した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
新作
是非こちらもご一読を!

俺は何度でもお前を追放する ~ハズレスキルがこのあと覚醒して、最強になるんだよね? 一方で俺は没落してひどい最期を迎えるんだよね? 知ってるよ、でもパーティーを出て行ってくれないか~

その他の連載作品もよろしくお願いします!

画像クリックでレーベル特設ページへ飛びます。 i443887 script?guid=on
小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ