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放置された花嫁は、ただ平穏に旅がしたい  作者: 吉高 花 (Hana)
第三部

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覗いてみよう

 

 あのさあ、あの家の魔術、解除したらダメかな?


 またふいっと何処かに行ってしまう前に、聞いておきたいことは聞いておくべきよね。なんだか旦那さま、忙しそうなのよ。何をしているんだろうね。影なのをいいことに神出鬼没なんですよ。音もなく出たり消えたり。

 でもあの家、中を見てみた方がいいと思うんだ。どうせ手がかりなんてないだろうけど。だって、手がかり残して消えたりしないでしょ。でもそれでも何か、感じるものはあるかもしれない。


「そうだねえ。王は本当にあの家をくれたみたいで、書類も渡されたんだけど。まあ、じゃあいいか。早速やる?」

 って、旦那さま、フットワーク軽いね。

 よしやろうやろう。思い立ったが吉日ですよ。


 何かあったときにすぐに待避できるように、私も影で行きますよ。

 体がダメージ受けるのは痛いから嫌です。


 旦那さまと二人で意識を飛ばす。

 あれ、こうすればもしかして魔術を解除しなくてもいける? するっと……あ、ちょっと抵抗があるのか。なるほど。


 でも旦那さまの目を通してみたら、あらまあ、丸裸ですよ。魔術が。

 ほんといいなあ、その目。欲しいわ。便利すぎる。

 ふーん、強力だけど複雑ではない。じゃあ解除出来るね。

 では、解けるものは解いちゃおう。


 うーんと。

「カチャ」

 はい出来上がりー。


 おお……入る前にもう異変が。

「なにも漏らさない」という魔術は、これを隠すためだったのかと納得の太い太いエネルギー? 魔力? が吹き上がってきた。すごい勢いだよ?


 え、ここって、エネルギーの噴出口だったの?

「出てるねえ」

 旦那さまもびっくりだ。眉が上がっている。


 え、ということはこのエネルギー独り占めしていたんですね?

 贅沢だな。むしろ体に悪そうです。


 それでは中に……おっかなびっくり入ってみます。

 中は普通のお屋敷です……よね? 貴族の屋敷なんてそんなに詳しくないからよくわからないけれど。

 誰もいない。荒れてもいない。なのに主がいないというのはなんとなくうすら寒いというか、不気味というか。魔術で燃え続ける暖炉があったりして、正直怖いです。消しておいてよねーもう。ビクッとしちゃったじゃないか。


 旦那さまが館全体をスキャンしている。ところどころに小さな魔術が残っているけれど、そんなにおかしな所は……一ヶ所。って、あるのか! 正直何もないのを期待しちゃってたよ。だって不気味なんだもんココ! でも、やたら魔術の名残の濃いところがある。

 でもバラバラになっていて、元の形はわからないね。って、思った時には旦那さまがさっさと組み立てていた。ええぇ、すごいな、なんでわかるんだろう?


「ん? 元に戻れって言うだけだよ?」

 なにそれ、どんなチート技だよ。時間が逆行しているじゃないか。

「どこかと通信していたみたいだね。通信先は……ちょっとわからないか。残っていない」

 誰かと連絡をとっていたということか。

 王じゃあないんだろうな。王家は魔術は使えない。


「地下室があるね。……貯蔵庫? お酒が好きだったのかな? 随分あったみたいだ。でもめぼしい物は持っていったみたいだねえ」

 なめるようにお酒が置いてあったであろう場所を見ながら言っています。もしかしてイケる口なのかこの人?


 まあ、収穫はそれくらい。

 誰か魔術師の仲間がいそうだということ。そして飲んべえ。


 まあ、収穫が思ったよりあったかな。

 人の住んでいない家って不気味なんだねえ。もう行きたくないや。特に一人では。

 エネルギーが通っているのにうすら寒いとはこれいかに。

 アトラスや『龍の巣亭』は暖かく感じたのに。


 旦那さまが帰ってから難しい顔をしています。

 なんだろう?

「君が視たとき、魔術師は東にいたんだっけ?」

 うんそう。遠い感じだったよ。


「東か」

 そう言って黙って考え込んだまま日が暮れていったのでした。

 だんまりか。まあいいや。結論が出たら教えてもらいましょう。



 それで。

 せっかく使える能力は、もう使えばいいよね。

 と、いうことで開き直り、その後遠見で王宮の中も勝手にフラフラするようになった私です。

 だって、件の魔術師は、王宮の中にいたんでしょ?

 まあ他にアイディアが出なかったというのもあるんだけど。


 しかし見放題にも程があるというか。

 王宮なのにいいのかしら? このセキュリティ。


 いくら王さまに魔力が無いからといって、こんなに無防備でいいのかしら。少しは魔術対策した方がいいのでは? 誰も何も言わなかったのかな。

 と旦那さまに言ってみたら。


「一応あるみたいだね。魔術師団が結界を張っているよ。だけど、さすがに遠見対策は知らないみたいだね。他に出来る人もいないから、まあ無理なんだろう」

 あ、あるんだ。なるほど。遠見対策していないだけか。

 そういや私と旦那さまの専売特許だったのを忘れていたわ。

 んー、じゃあ他の手段で侵入しようとしたらバレるかもしれないのか。気を付けよう。


 ということでもっぱら遠見で「黒の魔術師」の痕跡を探して王宮内をブラつくこと数日。


 見事に飽きました。


 なんだこれ、突然姿を消したというのに、全然話題に上がっていないのはどういうこと? これでは全然情報収集にならないよ。無駄に王宮内に詳しくなって終わりだ。どうしよう?


 旦那さまはなんか調べるといって出掛けたままだし。

 王都の方はよろしくねって、自由だな、旦那さま。これで本体は眠っていてエネルギー吸収しているんだったら、なんて省エネというか、無駄が無いというか。

 私もやればいいのか?

 最近影で飛び回るのにもすっかり慣れて、旦那さまが影のままフラフラしている気持ちがちょっとわかる気がしてきちゃったよ。慣れると楽だわこれ……。

 でもあんまり慣れると人間離れしている感じだよねえ? この道を突き進んでいいのかしらん。なんだっけ、こういうの。ゆ……ゆう、幽体離脱。やりすぎると戻れなくなるって言われていたような。はっはっは。こわ。


 でもやっぱり王宮は怖いので、影で行きますけどね。伏魔殿って王宮の別名でしたっけ。え? 違う?


 今日はもう他に手が思い付かないので、例のローブを被って姿を現してみましょう。さすがにその姿を見たら、誰か思い出すなり話題にするなりしてくれると期待して。

 周りの意識をシャットアウトしていた防御魔術のレベルをぐぐっと下げる。限界値まで下げてみよう。ちらとでも「黒の魔術師」を意識したらキャッチするんだ!


 鼻息も荒く王宮の物陰で姿を実体化した。

 ローブも被っているのは、お家で私もローブを被っているからです。はた目には家でコスプレしている人みたいだけど、まあ気にすまい。この家にも強力な防御の魔術がかかっているから誰にも見られないよ。旦那さまの手なので最高級です。誰も勝てない。はず。


 男の人らしく大股に闊歩する。体の大きさはいかんともしがたいので偉そうなオーラで誤魔化して。いざ!


 …………。


 なんでみんなスルーなんだ。かかわり合わないようにしている雰囲気がひしひしと感じるよ。なんでだ? 王のお気に入りだから?

 あ、大臣発見。見たことあるぞ。寄って行ってみよう。そそそ……。

 あ! 逃げられた! 怖がってるなあ……。

 周りからは恐怖と畏怖? の感情しか来ない。

 棒立ちしてみた。何の変化もない。周りは全然不思議がらない。なんだろう、普段から行動が不思議な人だったのかな。


 そんなことを考えていたら、おっ近寄って来る人がいる。誰だろう、女官の人?

 たっぷり間に距離をおいて、その女官の人が言った。


「黒の魔術師さま、王妃様がお呼びです。今お時間よろしいでしょうか」

 そう言って深々とお辞儀する。なんだろう、すごく緊張が伝わってくるよ。


 王妃様? どうしよう? 行くべき? でも虎穴に入らずんば虎子を得ずって言ううし……ええい、ままよ。


 そして私は無言で頷いた。


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