エピローグ バラトニアの王宮から
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!
WEB版はこれにて本編完結です。皆様に少しでも楽しんでいただけていれば幸いです!
散々な最後を迎えた新婚旅行から帰って、そろそろ1ヶ月が経とうとしている。
ウェグレイン王国のことは今後も影のネイジアは見張ると言ってくれた。私を『リーナ女神の正当な血筋の御方』と呼んだ教皇は、老齢のわりにまだまだ長生きしそうだし、その後、儀式は……執り行われたと聞いている。生贄が誰かは、私は聞かなかった。
否定はしない。心の中でどれだけ嫌悪しようとも、それがその国の人たちの心のよりどころで生き方ならば、私に否定する資格はない。
遅い時間だったが、あの城に滞在することは誰一人耐えられなかったので、影のネイジアに頼って強行軍を働き、無理矢理バラトニアまでほぼ休まずに帰って来た。
王宮に帰って来てから、新婚旅行に行ったアグリア様と私もだが、一緒について来た人間は皆、3日は動けなかった。それだけ必死に、ウェグレイン王国から出た。
そして、ウェグレイン王国との交易を今後一切執り行わないことを決めた。
ビアンカがフェイトナム帝国に帰れたという報告はあがっていない。ただ、亡くなってはいない、とガーシュは言った。
それ以上の事は内緒だと言って教えてくれなかったが、……たぶん、そういう事になったのだろう。最初に神の血を引く正当な後継者を産んだ後は……、ビアンカの人生はきっと、望んだ方向には向かわないだろう。同じ血を引いているせいか、少しだけ、……ほんの少しだけ、同情する。
ミリーは私を窮地の中守ってくれたこと、そして、フェイトナム帝国を明確に裏切ったことにより、もうバラトニア王国でしか生きられない。
あの時、命を賭けて私を守り、私の為に生きると言ってくれたミリーを、私は信じることにした。それで裏切られたら、それはもう、私が馬鹿なのだ。
今のミリーに私が殺されたとしても、フェイトナム帝国はもう……戦争を起こすことは出来ない。
今回の謀りは確実にフェイトナム帝国が糸を引いていたことが、ビアンカが入国記録と出国記録をごまかしたことにより確定している。フェイトナム帝国の手引きで私を殺そうとしたことが明確になった今、食糧の関税は限りなく高くあげられている。
生きるのにも、そして戦うのにも、食べ物がなければできないことだ。
貧富の差は開いていくだろう。研究費は削られ、今後フェイトナム帝国は衰退していくのだろうと思うと、無関係な市民たちを思って胸が痛んだ。
けれど、難民の受け入れは積極的に行う、とお義父様が請け負ってくれた。バラトニア王国では、今は何より人手が足りないのだ。
土地と食べるもの、そして職がある。フェイトナム帝国からの人民の流出は免れないだろう。
バラトニア王国は、今後も発展する気だ。
恵まれた国土と、次々と持ち込まれる技術と知識、技能。それらに加えて、私主導で行われる識字率の向上と、責正爵という新しい仕組み。
医療に関しても、難民の中には研究の打ち切りで流れてきている人もいる。そういう知識階級の人間は、特に手厚く保護をした。
ただ土地を貸し、食べ物を与えるような受け容れ方じゃない。国民として受け入れる事に、バラトニアは今の所成功している。
私は仕事も休み、1ヶ月の間、それらが行われる様をただ見ていた。
アグリア様が反対したのだ。難民の中に私を逆恨みする者、間者、刺客、それらが混ざってないとは限らないから、と言われたので、大人しくポレイニア王国で買いあさった本を読んで自室でのんびりと過ごしていた。
そうしていると、見えてくるものもある。何も敵は外だけにいるものではなく、バラトニア王国の貴族の中には、度重なる変化と人の流れ、激動する現在に不満を持つ人がいること。
(まぁ、仕方ないのよね……こればかりは)
今後はそういった貴族の人たちと、もっと話し合って決めていくような仕組みを考えなければならない。人が増えたからと言って税率を上げた訳でも無いし、遠洋漁業も成功して、食べ物は保存食も含めてふんだんに供給されることも分かった。
働き手も増えたので、牧草地帯を一部農地に変えて、食糧生産率もあげている。
結果がでるのはまだ先だろうけれど、バラトニア王国は、私が2ヵ月何もしなくとも……むしろ負担をかけたところで……しっかりと地面を踏みしめて歩いている。
私は私にできることをしていこう。
「クレア、父上が明日から、半日だけ働いていい、と」
「本当ですか?!」
「……そんなに働きたかった?」
「えぇ、もう、本は読み終わりましたし、皆頑張っているのはこの部屋の窓からも、メリッサとグェンナとミリーからも聞いていますし」
「働き者すぎて困った王太子妃様だな」
そう言って、長椅子に座って本を膝に乗せていた私の横にアグリア様が座る。
「そんなに働くのが好きなのかい?」
アグリア様の嫉妬は、いよいよ仕事にまで向いてしまったんだろうか?
私は不思議に思って目を丸くしてから、微笑んで首を横に振った。
「私が好きなのは、アグリア様と、アグリア様と住むこのバラトニア王国です。それから、友好国のネイジアと、ドラグネイト王国と、ポレイニア王国に極冬と……」
「あー、うん。分かった、分かったから」
何故か指折り数えていたら止められてしまった。
でも、これだけは言っておかなければいけない。
「だって、全ては繋がっていますから。ここが、私の国だから、繋がった全てが大事で大好きなんです」
バラトニア王国こそが、私の国だから。
嫁いだ時から、この言葉の重さはどんどん増したけれど、その分私は、大好きなアグリア様と一緒に、大好きなバラトニア王国を盛り立てていこうと思う。
これから先も、ずっと。
本日で生贄第二皇女の困惑は最終回を迎えました。2巻の発売に間に合うよう投稿できてよかったと思っています。WEBで読んでくださる方がいたからこそ本の形になりました。本当にありがとうございます。私としては、タイトルに恥じない内容で、終わり方になったかと思います。
新作を同時に投稿しておりますので、下のリンクよりよければ新作も楽しんでいただければと思います!
まだまだたくさん書きたい事があるので、どうぞこれからも、よろしくお願いいたします!




