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償いの婚約  作者: たたた、たん。
本編

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二十六話

 




「……は?」


 私のいきなりの発言を受けて、誰もがポカンと口を開けた。

 私は、怒り心頭でならない。大事な大事な尊氏様に手をあげた愚か者を懲らしめないと気が済まないのだ。


 その時は、そもそも尊氏様ほどの地位にいる人に手をあげられる人なんて殆どいないこと、暴漢を素早く撃退出来るほどの護衛術を得ている尊氏様に手をあげられる人も殆どいないことに気づかなかった。


 あの人類の宝であるご尊顔に傷をつけるとは万死に値すると暫く憤怒に燃えていたのだが、ふと気付く。


 私、今なんて言った?


 口を滑らせて私の大事な尊氏様って言わなかったか?


 その事実に気づいてからは、頭にのぼっていた血が一気に下がった。


 別れた女に自分のもの扱いされる事ほど、気持ち悪いことはない。

 確かに、今の言葉は私の正直な心の声で。尊氏様は私の命より大切だし、勿論、尊氏様が私の婚約者でも恋人でもないことは重々承知ではあるがつい、本当につい、願望も含めて普段思っていたことが漏れてしまった。


「すいません!」


 恥ずかしい。これでは、私の気持ちがばればれじゃないか。

 失言に気付いてすぐ、頭を下げて謝る。恥ずかしくて尊氏様が見れなかった。尊氏様のことだから、困った顔をしながらも、なんともないと答えてくれるだろうと思っていたのになかなか返事は帰ってこない。


 返事もできない程に引いているんだろうか、と顔を上げれば顔を手で覆う尊氏様がいた。

 あまりの不快感に吐き気でももよおしているのだろうか、とじっと顔を見れば、目は右往左往と行き来して、あの尊氏様が嬉しさを隠しきれないように笑っている。


 その笑顔は、昔姉に見せていた無邪気な尊氏様のものとは違い、仄暗さを含んだもので。それは、まるで私の映り代わりのよう。


 その表情にどきりとした。いつの間に、尊氏様は胸の内にそのような狂気を育てていたのか。この数年尊氏様も二度の婚約破棄と負担のかかることが多い。だから、ストレスが尊氏様にそんな表情をさせるのだろうか。


 それに狂気を込めて、表情を崩すくらいに笑うのは何故か。唯一思い浮かぶのは、私の独占欲丸出しの発言に、勘違いも甚だしいと笑ってしまったというところだが、それにあの仄暗さは必要かと聞かれるといらないだろう。


 いや、待て。そもそも、どうしてここに尊氏様がいるのか!?


 今更ながらパニックになった。もう二度と会うことはないと思っていた愛しい人。幸せになって欲しい人。喧嘩という割には、私が一方的に怒って会うのが気まずい、でも、いつか会いたいと思っていた人。


 その人が目の前にいると思うと、涙が出そうになる。


 きっと一人のときならもっと感慨深くなっていたはずなのに、周りの野次馬が私たちの揉め事を酒の肴がわりにするが如く見てくるから、焦って取り敢えずこの店を出ることしか考えられなかった。


「ハル、」

「ハルちゃん、どうしたの?って」


 尊氏様が顔を覆う手を取り、表情をいつもの冷たいものに戻して話出そうとした時と同時に木宮さんがお店の中に入ってくる。


「葉月尊氏」

「木宮浩之(ひろゆき)


 木宮さんは兎も角、尊氏様までもがお互いを見たたびフルネームを呼んで相手をじっと見つめた。


「こんにちは。黒の貴公子さん。ハルちゃんに何の用ですか」

「君には関係ないことだ」

「いえ、関係ありますよ。ハルちゃんに将来僕のお嫁さんになってもらう予定なんですから」


 さっき話して、恋愛感情は持ち込まない流れになったのに、と思いギョッとして木宮さんを見ると木宮さんは、片目をつぶってウインクをしてきた。


 いや、余計な気まわさないでください。


 と言いたいのは山々だが、二人の一触即発まではいかないもののピリピリとした緊張感に口は役割を果たさない。


「それは、ハルが選ぶことだ」


 私だけが木宮さんのそれを戯言と知っているけど、恐らくこの周りにいる人たちは、本気だと信じている。かく言う、尊氏様もそれを信じたようで苦々しい表情をした。


「いいんですか。ハルちゃんの心は相当僕に傾いていると思いますけど」

「挽回すればいい」


 わざと挑発するような言葉を選ぶ木宮さんに、尊氏様は真剣な表情で言い返す。まるで一人の女の子を取り合うかのような茶番劇に見物客達は大盛り上がりで、二人に檄を飛ばし始め、挙句にはどっちと付き合うかを賭け始めようとする始末。


「木宮さん!ぽっとでのイケメンに負けるな!」


 しまいには、ガッキーまでもが野次馬に参戦し後ろでで騒ぎ始めた。


 待って。色々と勘違いしている。


 尊氏様は、私と話をしにきただけで私のことなんか全く好きじゃない。否定しなければならないのに、当の本人が木宮さんとばちばち火花を散らしているから、どうすれば良いか迷う。


「あなたは、ハルちゃんのことを蔑ろにしていたじゃないですか。今更、そんなことを言ったって」


 木宮さんが、はん、と嘲笑する。それを聞いた尊氏様は、苦虫を噛むように目線を下に落としたが、ちらりと私を見て決心したように言い放った。


「悪かったと思っている。でも、これだけは諦めらめられない。それに今日は君と話しに来たわけじゃないんだ。君は引っ込んでいてくれるか。……ハル、話がしたい」


 二回目の尊氏様からのお誘いだった。一回目は、頰にある紅葉に対する驚きと怒りで無視してしまったが、もうその熱は下がっている。

 尊氏様の真剣な眼差しに、流石のギャラリーも囃し立てるのを躊躇ったのか店が静かになった。


 尊氏様が何を話しに来たのかは、分からない。姉と婚約破棄をし、なんのつながりも無くなった今話す内容も検討もつかない。


 それでも、私はその誘いを受けるべきだということは分かる。迷惑をかけた分贖罪する義務がある。


「はい」


 だから、了承するのは当然なのに尊氏様はずっと見てきた私なら分かるくらいに少しほっとした顔をした。


「場所を変えよう。ここは、少し人が多すぎる。なるべく落ち着いたところで話したいんだが……」

「二階に私の部屋があるので、そこはどうでしょう」

「……いいのか」


 躊躇いがちな尊氏様にはいと答える。婚約者だった頃でさえ私の部屋に訪ねてきたことは少なかったのに、他人となった現在、抵抗感はもっと強いのだろうか。


 尊氏様を部屋に導くなか、後ろからどっと騒ぐ声が聞こえた。

「イケメン間男に、ますます告白させていいの!?止めなよ!」

 とガッキーの木宮さんを責め立てる声も聞こえる。


 イケメンのところは激しく同意するけど、間男はどちらかというと木宮さんの方なんだけどなぁ。


 これから緊張する場面を迎えるからか、そんな現実逃避をしながら店の奥の階段を上がる。一階がお店、二階が住居のスペースとなっていて、居候の私は一番奥の部屋を貸してもらっていた。


 尊氏様を部屋に入れるとは微塵も思っていなかった朝、それでも部屋を綺麗にしていて良かったと心の底から思う。部屋のドアを開き、尊氏様を招き入れた時私の緊張はパークに達する。


 この部屋は、ハルの部屋だ。如月美春でなく、ハルとして生きようと決心した部屋。きっと尊氏様と会うことは二度とないんだと嘆いた部屋。それは、ハルの思いがいっぱい詰まった部屋で、そこに尊氏様がいるなんて現実とは思えない。


 私も尊氏様も緊張した面持ちの中、私たちの三度目の話し合いが始まる。





次の投稿は5日〜7日後になるかもです。

暇でどうしようもない方は、この小説以外にも色々書いているので覗きながらお待ち頂けると嬉しいで候!

評価もしていただけると物凄く嬉しいで候!


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