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償いの婚約  作者: たたた、たん。
本編

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二十二話

 


「君は僕を馬鹿にしているのか」

「え、あの……違います」

「君は」



 彼女がなんの悪気もないことは分かっている。ただ、自分を想う人の前で違う男に愛を囁くと言うのは、誰だって言いにくいことだろう。だけど、それでも、僕は彼女に貶められていると感じてしまう。

 彼女に退けぬ物があるように、僕にだって退けぬ物がある。



「君は今、僕のことを憐れだと思っただろう。いや、違う。確かに、そうだ。僕は、愚かで阿呆な男だよ。叶いそうにない恋に必死にしがみつく馬鹿な男だ。でも、可哀想と思われるのは我慢ならない」


「分かってるよ。自分のプライドが高い事は。それでも、君が勝手に僕を可哀想と思い、憐れむのは嫌なんだ。可哀想は、自ら張るレッテルじゃない。他人が張るものだ。君が僕を可哀想な人間にする。君は無意識かもしれないけど、僕が可哀想だと思ったから言葉を濁したんだろう? 」


「そんなことは」


「そんなに怯えないでくれよ。ごめん。分かってる。逆ギレだ。でも、僕だって人間だし君の思うような人でもない。こんなくだらない事でむきになるのは馬鹿だと思ってる。だけど、今まで見せないように気を付けていたけど、僕も」


 彼女の怯える顔付きで、自分が言い過ぎた事を自覚していた。


「もう一度聞くよ。葉月尊氏のことが好きなのかい?」


「……はい」


「うん。知ってた」



 頭に血がのぼっている。さっきまではどう言われようとも真実を伝える気などさらさらなかった。



「彼は君が好きなんだよ」

「え……」

「葉月尊氏は君が好きなんだよ」



 彼女が僕に言わせたのだ。無意識に燗にさわって僕に言わせる。僕にひとつも良いことないのに、僕のくだらないプライドはそうさせる。このままでは、本当に自分が可哀想な人間なような気がするから。つまるところ、僕は彼女に恋する男の前に一人の男で、恋心より憐れみの目で見られる屈辱を避ける気持ちが勝ったのかもしれない。


 心のなかでひとつ溜め息をつく。


 こんなはずではなかったのに。

 今日一番の不思議が彼女の前世(ぜんせ)話、一番の驚きが彼女の愛する相手、一番の怒りが彼女の憐れみ、一番の予想外と後悔はこの真実の告白かもしれない。


 ハルちゃんは、全く信じる様子もなく困った顔をしている。それも当然だ。彼女は本気で嫌われていると思っているのだから。


「あの、私の話を聞いてましたか?私、姉と尊氏様は相思相愛でそれを邪魔した私は嫌われていたんです」

「でも、彼は君のお姉さんと別れたよ」

「それは、……そうらしいですけど。もしかしたら何か事情があるのかもしれないですし、私は尊氏様にそんな態度されたこともありません」

「その事情というやつが彼の君への恋心という痴情の縺れなんじゃないか?それに、そんな態度と言うけど、本当に彼は君を嫌っていた?」

「ええ、だって尊氏様はいつだって冷たい目で私を見てて、笑うことなんて滅多になかったですし、でも姉と一緒の時はリラックスしてて……あ、あと、えっと、いきなり言われてもそれくらいしか思い付かないですけど」

「その冷たい目ってやつが、ハルちゃんの勘違いで笑わないのもただ好きな人を前に緊張してたから、とかじゃなくて?」

「いや、そんな!!あり得ないです、そんな事。……そう!それに、私が、その矢面に立たされていたときも尊氏様はそれが当然だろう、とばかりに無関心でした!!」


 哀しいかな。乙女が好いてる男に嫌われている根拠をこれぞ、とばかりに自信満々に答えるなんて。ただ、ハルちゃんはそんな事忘れて自信満々に胸を張っている。


「……いや、ハルちゃんもなんでそんな男好きになったの?」

「うっ!!!それは、どうしてですかね。分かりません。……きっと如月美春の魂とあと少しの何かが私をこんなにさせるんです」

「少しの何か?」

「…………尊氏様の優しさです」


「優しさ?それは、可笑しいよ。君はさっきまで彼に嫌われていると豪語していたじゃないか。それなのに、優しさも感じていました?全く分からない」

「それは、……その、尊氏様は本当は優しい人で」

「だからそれが矛盾だと言ってるんだ。冷たいと言ったり優しいと言ったり。自分にだけ冷たいんなら、それは自分にとって冷たい人間なんだよ」



 僕は、あの男をそれほど愛する理由が分からなかった。彼女は、酷い扱いを受けてきた、と自分で証言している。そんな男、普通憎んで然るべきだ。いくら、前世がどうであっても。


「その、尊氏様は私を無視したりしませんでした。私が言ったこと何でも叶えてくれました。私が、一緒に踊ってと頼んだら踊ってくれるし、プレゼントをねだったらどんなに高価なものでもくれます」

「それが、優しさなの。君のいいなりになっているだけじゃないか」







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