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邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム  作者: maricaみかん
3章 頂へと歩むオーバースカイ

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73話 オリヴィエと

 ぼくたちが依頼のためにまず組合へ向かうと、そこにはオリヴィエ様がいた。

 サーシャさんが申し訳なさそうな顔で横に居たので、どういう状況か分かってしまった。

 つまり、オリヴィエ様が急にやってきたので、その予定に合わせて今日ぼくは行動しないといけないんだろうな。


「申し訳ありませんわ、オーバースカイの皆様。今日はオリヴィエ様がユーリ様をお望みでいらっしゃいますので、本日の依頼はまたの機会になりますわ。急なことではありますが、休日だと思ってくださいまし」


「そういう事だ。今日はユーリを借りていくから、貴様らは下がっていると良い。ユーリよ、着いて来るがいい」


 オリヴィエ様の命令に逆らう訳にはいかないので、ぼくはみんなに頭を下げてオリヴィエ様に着いていく。

 みんなはあきれたような顔をしていたが、仕方ないとあきらめてくれたようだ。


 そのままオリヴィエ様に着いていくと、やけに大きくてきれいな屋敷があった。こんな場所にそんなものが有るだなんて知らなかったけど、いつの間にできたんだ。

 オリヴィエ様のために準備されたものだろうか。そんな気がしてきた。オリヴィエ様は自分の望みの為なら何でも命令する人だろうし。

 それこそ、周りの人間を馬車馬のごとく使っていてもおかしくはないと思う。

 それは考えても仕方のない事か。それよりも、今日は何の用事でオリヴィエ様が来たのかの方が大事だ。


 屋敷の中に入っていくと、執事のようなイメージの人に部屋まで案内された。オリヴィエ様と同じ部屋に2人で入ることになってしまい、かなり緊張する。

 それなりにこの屋敷には人がいる様子なのに、どうして2人きりになってしまうんだろう。

 いや、知らない人と一緒に居るよりオリヴィエ様と2人きりの方が良いか。

 オリヴィエ様に失礼を働いたみたいなことを言われたら面倒だ。オリヴィエ様は絶対に怒らせたら駄目な人だけど、案外沸点は高いと思う。

 それよりも、些細な礼儀を気にするような相手が周りにいる方が厄介かな。それに、知らない人が一緒に居る時間はいまだに慣れない。

 オリヴィエ様と一緒に居る分にはある程度は落ち着いていられるから、こっちの方が良いはずだ。


 部屋に入ってすぐに長めのソファのようなところに座ったオリヴィエ様に手招きされる。

 この人は王族という割には気さくというか、平民を近くに置けないみたいな態度じゃないよね。

 平気でぼくの隣に座ったりするし、手を繋いだこともあったはずだ。

 ぼくもオリヴィエ様の隣に座ると、すぐにオリヴィエ様は話し始める。


「貴様はイーリスに勝ったそうだな。リディから聞かされたぞ。なんでも、新しい力を手に入れたそうではないか。貴様はつくづく面白いな」


 まあ、ミア強化はかなり珍しい類の力らしいし、強いスライム使いが珍しいからぼくをモノにしようとしている人が面白く思うのは当然か。

 それにしても、更にオリヴィエ様に面白く思われてしまうと、ぼくは逃げ出せなくなってしまわないか?

 それは今更どうにかできることでは無いか。機嫌を損ねるよりましだと思っておこう。


「ありがとうございます。手に入れたくて手に入れた力では無いんですけど、この力をくれた人を忘れないためにもしっかり生かそうと思っています」


「貴様が貴様の事を大切に思っている存在が犠牲になる事が嫌だというのはよく分かるさ。貴様の力は誰かから大切に思われていなければ手に入れられぬのだからな。だが、せっかく面白いものなのだから、いずれ余の前で存分ににその力を発揮するのだぞ」


 誰からもぼくがこの力を望んで得たわけでは無いことは分かると言われるな。そんなに分かりやすいと、戦闘でぼくの打つ手を読まれたりしないよね?

 親しい人に理解されるというのは嬉しいけれど、それがみんなを守る邪魔になってはいけないからね。

 それは今考えても仕方ないか。オリヴィエ様との会話を続けよう。


「結構強い力なので、見せる機会を用意するのはなかなか難しいですけど、オリヴィエ様を楽しませられるように頑張りますね」


「そのような機会など余ならいつでも準備できる。余を失望させないように、せいぜい力を磨いておけよ」


 オリヴィエ様なら確かに簡単そうだ。とはいえ、いつか分からない期会のために準備するのってなかなかしんどいからな。

 気にしすぎても仕方ないか。みんなを守れるように強くなって、それでオリヴィエ様を楽しませればいい。


「そうします。それで、今日はオリヴィエ様は何のためにぼくに会いに来たんですか?」


「くくっ、気になるか? だが、それを教えてやるつもりはない。必死に考えてみることだな」


 全くヒントもないような状態でそれを考えないといけないの? これまでの会話に手掛かりはあったかな。分からなかったら何をされてしまうんだろうか。

 さすがにもうぼくが殺されるとかぼくの周りが傷つくとかは考えていないけれど、まだとんでもなく大変なことをさせられる気はする。

 オリヴィエ様はとっても意地悪だ。それに何度も何度も困らされているのに、嫌だと思うどころかむしろ楽しいとすら思っているぼくがいる。

 ぼくも本当に重症だ。オリヴィエ様に振り回されている時間が好きになってしまったんだから。


「ぼくの新しい力を見に来たのなら別の場所に連れていかれますよね。それに、この屋敷に2人きりというのも気になります。リディさんやイーリスを連れてきていない事も」


「思考のとっかかりとしては悪くないのではないか? それで、リディとイーリスとの時間はどうだったのだ?」


 ほとんどイーリスと戦っていただけだった気がするけど、リディさんとも少し距離を縮められているとも思う。

 ぼくがオリヴィエ様と関わるのならもっと出会う機会はあるだろうけど、それを楽しみに思う位には2人の事が好きになっている。


「楽しかったですよ。リディさんともイーリスとも多少は親しくなれたんじゃないかと」


「そうだろうな。リディとイーリスも貴様のことを気に入っているようだった。余の言った通り、余のもの同士で親交を深められているようだな」


 もうオリヴィエ様の物になったような物言いだな。オリヴィエ様らしいと思ってしまうけど。

 オリヴィエ様の言うことが本当なら、リディさんとイーリスと親しくなることには成功しているのかな。だとすると嬉しい。


「そうだとすると嬉しいですね。でも、ぼくはまだオリヴィエ様の物じゃないんですけど」


「くくっ、まだ、な。よく分かっているではないか、ユーリよ。貴様はそう遠くないうちに余の物になる運命なのだ。そろそろ観念することだな」


 何でぼくはまだなんて言っちゃうんだよ。いや、そうか。オリヴィエ様の物になること自体はもう嫌では無いんだよな。仲間と離れ離れになることが嫌なだけで。

 もうぼくはオリヴィエ様の事が相当好きになってしまっている。仮にオリヴィエ様の物になったところで、飽きられて終わりかもしれないけど。

 オリヴィエ様は楽しいことに貪欲に見えるけど、実際飽きたことに対してどんな反応をするのだろうな。

 オリヴィエ様の物になって捨てられたぼくがどうなってしまうのか。無事でいられるのならいいのかな?

 そうでもないか。想像しただけでもとても悲しい。ほんと駄目だな。ぼくはぼくが思っていた以上にこの人の事を好きになっているかもしれない。

 でも仕方ないよね。この人は尊大なだけに見えて、茶目っ気のようなものもあるし、気を使ってくれている瞬間もある。

 それに何より、楽しそうな姿が魅力的なのだ。顔を大きく崩してはいないが、はっきりと楽しんでいるように見えてしまって、それが心地いい。

 王女様だから演技が上手いだけなのかも知れないけれど、ぼくはこの人が楽しんでいる姿が好きだ。

 だから、もっと楽しませてあげたいと思ってしまう。この人にみんなより早く出会っていたなら、もうこの人の物になっていたのだろうな。

 まあ、その場合にオリヴィエ様に目をつけられたとは思えないけど。みんながいたから強くなれたのだし。


「ぼくはみんなで立派な冒険者になる事を諦めるつもりはありませんから。オリヴィエ様には申し訳ないですけど、オリヴィエ様の物にはなれません」


「くくっ、ならば貴様の周りごと余の物にするのはどうだ?サーシャやミーナ、ステラも面白いし、お前の仲間もなかなかに珍しい物がそろっているからな」


 ついにそれを言われてしまったか。やっぱり、ぼくが周りの人と一緒に居たいから冒険者をしている事は気づかれているな。

 本当に魅力的なんだよな。オリヴィエ様の物になること自体は。でも、みんなの意思を確認もできないまま返事なんてできるわけがない。

 今のところはそのあたりで返事にしておこうかな。


「それをぼくが勝手に決めるわけにはいかないので。少なくとも今はお断りします」


「そうか。ならば、お前の周りに働きかけるのも面白いかもしれんな。今すぐにとはいかんが、検討はしておくか」


 今日みんなに会いに行くんじゃなくて良かった。急に決まってしまったら心の準備ができないからね。

 たぶん、カタリナあたりは反対するような気がするけど、オリヴィエ様の機嫌を損ねないような言い回しをして貰わないと。

 オリヴィエ様の怒った瞬間は見たことがないとはいえ、この人は絶対に怒らせてはいけないだろうと感じる。

 そういう事を抜きにしても、この人が怒る姿を見たいわけでは無いから、オリヴィエ様が機嫌を損ねる事態がない事を祈ろう。

 この人はやっぱり上機嫌な姿の方が魅力的だからね。


「それで、オリヴィエ様は結局何のために来たんですか? ぼくの考えだと、リディさんとイーリスに聞いた話の確認でもしたいのかと」


「そうだな……貴様が恋しかったから、というのはどうだ……?」


 オリヴィエ様は瞳を潤ませながらこちらを見てくる。そのままぼくに触れそうな位置まで顔を寄せてきた。

 本当にこの人はずるい。オリヴィエ様がからかっている事くらいぼくにもわかるけど、ドキドキするし、オリヴィエ様の言葉は嬉しいと感じてしまうし、とても困ってしまう。


「か、からかわないで下さい。オリヴィエ様がいくら強いといっても、襲い掛かる人もいるかもしれませんよ」


「くくっ、貴様にそんな度胸があるはずがあるまい。だが、貴様の反応は楽しませてもらった。次に余が来る瞬間を待ちわびているといい。今日はこの辺りにしておこうか、ユーリよ」


 そう言ってオリヴィエ様はぼくの手を引き、組合へと戻ってから去って行く。

 オリヴィエ様の言葉通り、次にオリヴィエ様が来る時が待ち遠しいと思ってしまった。ぼくは本当にオリヴィエ様の物になってしまうかもしれない。

 だけど、それも悪くない未来だと考えてしまうな。どうしたものか。

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