65話 進化
ある朝にノーラの事を構っていると、突然発光し始めた。ノーラも進化することになったみたいだ。
なので、アクアの時の経験をもとに、進化に備えて準備をしておいた。
ノーラの種族は結局分からなかったけど、この子はどんな進化をするんだろうな。
アクアみたいに言葉を喋れるようになるのだろうか。とんでもない毒舌だったらどうしよう。
さすがにそんな訳ないか。こんなに甘えてばかりの子が。
ぼくが準備をしている間にみんなが集まってきていて、家にいるみんなでノーラについて話していた。
「ノーラちゃんと出会ったのは王都での大会の帰りでしたよね。アクアちゃんに比べるとずいぶん進化が速いようですね」
そうだよね。アクアは10年以上たってから進化したけど、ノーラの進化は出会ってからあっという間だった。
人型に進化したら肩にのせたり頭にのせたりは出来ないな。もうちょっとあの感覚を味わっていたかったような気もする。
「そうですね。あたしはもっとこの子を可愛がっていたかったですけど、進化するならまた改めて可愛がればいいわね」
「ノ、ノーラちゃんはどんな進化をするんでしょうねっ。どんな進化だとしても、ユーリさんに甘えることは変わらない気がしますっ」
そうだと嬉しいな。ノーラが甘えてくれる事はとても楽しいから、これからもそうして欲しい。
でも、ノーラは女の子だから、人型になっても体をこすり付けてくると困っちゃうな。
まあ、姿が変わったくらいで遠ざけられたらノーラがかわいそうだから、我慢しよう。
人型になることが決まったわけじゃ無いから、気が早いかな?
「ノーラさんはユーリさんが大好きですからね……カタリナさんも好きに見えますが、やはりユーリさんが一番でしょう」
ノーラは一緒に居る間は大体ぼくに甘えてきているからね。
これで実は嫌いだなんて言われたら、ショックどころじゃ済まないよ。
まあ、ありえないよね。嫌いな相手にここまで甘える事ができるのなら、演技の天才をはるかに超えている。
「ノーラが進化すると、アクアに反抗するかな? その時は、しっかりしつける」
アクアはノーラに対してはとっても強気だな。ぼくに甘えてくるばかりのアクアだけど、ぼく以外の人とは違う関係なんだろうな。
まあ、アクアと関係性が悪そうな相手はぼくの周りには見当たらない。ノーラだって、アクアにいじめられている感じではないしね。
それからしばらく雑談をしながら待っていると、ノーラが進化を終えた。
ノーラの姿は以前と同じ2つに分かれた耳と尻尾が同じで、後は人間のような姿だった。
黒髪に細身といった姿で、ぼくと同じくらいの身長だ。この姿のまま甘えてくるの?
まあ、それはいい。ノーラも人型モンスターに進化したことになる。
様子を見ていると、ノーラはぼくの顔を見てすぐに話しかけてきた。
「ご主人、お腹がすいたぞ」
アクアの時と全く同じ展開でちょっと笑いそうになってしまう。
でも、ノーラは服を着ていなかったので即座に目を逸らす。
すぐに用意しておいた服を着てもらった。ちょっと慌ててしまった。
それから準備しておいた食事をすぐにノーラに渡したけど、人に猫の餌を与えているという絵面になってしまう。
ノーラには人間の食事の方が良いかもしれないよね。聞いてみるか。
「ノーラ、人間と同じ食べ物にした方が良いかな?」
「別にご主人がくれるものなら何でも構わんぞ。ただ、ご主人と同じものを食べる事には興味があるぞ」
そういう事らしいので、次からはぼくと同じ食事を用意することにしよう。
ぼくは魚が好みだけれど、ノーラは明らかに肉が好みだから、肉を食べる機会を増やそうかな。
それにしても、ノーラの口調は思っていたものとは違うな。なんというか、もっと可愛らしい感じかと思っていた。
ノーラの喋り方は固い口調というか、ちょっと偉そうというか。
まあ、話の内容からして悪いことを言いそうな感じではないから、個性という感じで可愛がってあげよう。
ノーラはぼくが考え事をしている間に、餌を食べ終えてぼくに引っ付きだしてくる。
抱き着いてきたり、体をこすり付けてきたり、匂いを嗅いできたり。
猫の時は気にしていなかったけど、匂いを嗅がれるのはちょっと気になってしまう。変な匂いじゃないよね?
「ノーラ、匂いを嗅ぐのは恥ずかしいからやめて……甘えてくるのはいくらでも良いから」
「気にすることは無い、ご主人はいい匂いだぞ? まあ、甘えさせてくれると言うなら存分に甘えるぞ」
いい匂いと言ってくれるのは嬉しいけど、やっぱり恥ずかしい。
ノーラはそのままぼくの顔を舐めたり、耳や鼻を甘噛みしたりしてきた。
猫の姿だったころと同じ行動ではあるのだけれど、ぼくはその時とは違ってすごくドキドキしてしまっていた。
「ご主人、照れているな? だが、甘えてもいいとご主人が言ったのだから、逃がさんぞ」
ノーラはそのままぼくにずっとひっついて、ぼくの体を隅々まで堪能しようとしていた。
ノーラの体から甘い匂いがしたり、ノーラの柔らかい感触を感じたりしてしまって、ぼくはきっと真っ赤になってしまっているだろう。
でも、ノーラの姿が変わっても変わらず甘えてくれているという事がなんだか嬉しい。
ノーラはアクアに続いて、ぼくのとっても大切なペットだから、距離ができてしまうような事にならなくて良かった。
「ノーラ、そろそろアクアにそこを渡して。ユーリの一番はアクア」
アクアの言葉を受けて、ノーラは尻尾を立ててぼくから離れていく。
やっぱりノーラはアクアには敵わないみたいだ。でも、ノーラの表情からはアクアへの親しみも感じる。
悪い関係ではなさそうで何よりだ。ノーラがアクアを嫌っているようなら、ぼくはとっても困ってしまうだろうから。
そのままアクアがぼくにへばりついてくる。ノーラはそれを羨ましそうに見ていた。
「アクア様がご主人の一番であることは構わないが、ご主人をうちから奪わないでくれ、アクア様。適度におすそ分けをしてくれればいいぞ」
「わかってる。ノーラだってユーリの大事なペット。別に排除するつもりはない」
ノーラはアクアの事を様づけで呼ぶのか。まあ、猫だったころから舎弟のような雰囲気を出していたから、そこまで違和感はない。
それにしても、アクアもノーラもぼくのペットを名乗りながら、ぼくを所有物扱いしていないか?
まあ、別にかまわないんだけどね。アクアやノーラと一緒に居られることが大事なのであって、関係の名前は何だっていい。
「アクアもノーラも、ケンカをしないなら思う存分甘えてね。ぼくは2人が大好きだから、甘えてくれる事がとっても嬉しいんだ」
「アクア様にケンカを仕掛けたところで、うちは勝てんからな。そうでなくとも、ご主人を悲しませるつもりはないぞ。アクア様とうちが仲たがいなんぞ、ご主人に悲しんでくれと言っているような物だからな」
「ノーラはよく分かってる。ノーラがユーリを大切にしている限り、アクアもノーラを大切にする」
だったらアクアはずっとノーラを大切にしてくれそうだな。
ノーラとこれからも仲良く出来るように、ノーラの性格をしっかり見極めていこう。
「お話し中すみません。ノーラちゃんは私たちの事は分かっていますか?」
「分かっているぞ、ステラ。ご主人が周りをどれだけ大切にしているか、うちはよく知っている。ご主人の周囲を雑には扱わんよ」
ぼくの存在がなければ雑に扱うという風にも聞こえなくはないけど、大丈夫だよね?
ノーラの事だから、裏でみんなに対してひどい事はしないとは信じられる。
あとはノーラがどれだけみんなの事を好きになってくれるかだよね。こればかりは強制してはいけない事だろう。
「ノーラ、あたしの事を忘れてはいないでしょうね? あんなに甘えてきたのに、ユーリと話せるならどうでもいいなんて言わないわよね」
「当然そんなことは言わんぞ、カタリナ。ご主人ほどではないにしろ、うちはカタリナの事が好きだ。これからもよろしく頼むぞ」
「ユーリがあたしの事を大好きなのは知っているわよ。それより、人前であんな甘え方はするんじゃないわよ。あたしたちの恥になるんだから」
そっちの意味なの? ぼくにはノーラがぼくを一番好きというように聞こえたけど。
まあ、カタリナの事が大好きというのは否定することでは無い。ずっと支えてくれている人なんだから。
それはさておき、カタリナの注意は助かるな。人前であんな甘え方をされたら大変だよね。
「仕方ないな。アクア様も我慢しているようだし、うちだけ甘えるという訳にもいかんか。人前以外でその分甘えさせてもらえばいい」
「夜はユーリと一緒になるから、2人でいっぱい甘えればいい。ユーリだってきっと喜ぶ」
可愛いペットに甘えられることは嬉しいけど、今のノーラの姿であの甘え方をされると、ちょっと変な気分になってしまう。
まあ、ノーラにぼくを誘惑しようという気は無い事ははっきりしているから、慣れてしまえばいいか。
「ノ、ノーラちゃん、ユーリさんはみんなの物ですからねっ。独占しようとしてはいけませんよっ」
「うちから独占しようとはせん。ただ、ご主人がうちだけを見たいというのなら止めはせん。せいぜいうちにご主人を奪われぬようにな、ユーリヤ」
みんなぼくの事を物扱いしようとしてないかな? まあ、悪意があるわけでは無くて、ぼくを奴隷のようにしたいわけでは無いはずだ。
みんながぼくを大切にしてくれている事はよく分かる。言い方の問題だけだろう。
「ノーラさんも、ユーリさんが大切なんですね……ユーリさんと一緒なら、力が湧いてきますからね」
「そうだな、フィーナ。ご主人のためなら、うちはどんな事でもできる。他の者たちも同じであろう。ご主人は恵まれているな」
それは本当にそう思う。みんながぼくのために色々としてくれているように、ぼくもみんなの為ならば頑張れる。
ずっとみんなで一緒にいられる限り、きっとぼくたちは無敵だ。
みんなと出会えたことはぼくの宝物だから、絶対に守り切ってみせる。
「ご主人、そろそろアクア様と部屋に行こう。今日くらいはご主人を目いっぱい堪能するぞ」
「今日はノーラを優先してあげる。ユーリ、ノーラを可愛がってあげて」
それからぼくの部屋で、ノーラにいっぱい甘えられた。
ぼくはずっとドキドキしていて、時々交代するアクアに癒されていた。
そのまま3人で一緒に眠ったけど、ノーラがひっついてくることに緊張してしまった。
早くこの環境に慣れて、ノーラと一緒に眠ることを楽しめるようになろう。




