52話 決意
ぼくはミア強化を使いこなすための訓練を続けていた。ぼく自身がミア強化を使うことはとてもうまくなったと思うし、アクア水との併用もうまくこなせるようになっていた。
だけど、オーバースカイの仲間との連携はうまくいっていなかった。
行き詰まりを感じたぼくは、アリシアさんたちに相談してみることにした。アリシアさんたちと一緒に活動する日にその質問をしてみた。
「アリシアさん、ぼくは、新しい契約技のような力を手に入れたんです。それでぼく自身は強くなったんですけど、みんなとの連携がうまくいっていなくて。どうするのが良いと思いますか?」
「そうだね。まずは、その力がどんなものか教えてくれるかな? どう答えるにも、その情報がないとね」
「身体強化の力です。かなり強化できて、大抵の敵ならアクア水と同時に使うことで、ぼく1人で倒せてしまうんですよね」
「……そうか。申し訳ないんだけど、それに関しては私はうまくアドバイスはできない。
私は、周囲に合わせることができないから、レティと2人で活動していたわけだからね。レティと私は、最低限お互いを巻き込まない事だけでやってきたから、連携がうまいとは言いづらいこともある」
そうなのかな。前にキラータイガーがたくさん現れた時にはとてもスムーズにキラータイガーたちを倒していたけど。
まあ、本人がそう言うのなら、きっとそうなのだろう。
思い返してみると、2人はあまり近づかずに別の場所で戦っていたような気がするから、そのことを言っているのかもしれない。
でも、だとするとぼくたちの連携で頼りにできる相手は見つからないな。何とかぼくたちでうまく考えていくしかないか。
「私からの答えとしては、諦めずに取り組み続けるしかないんじゃないかな。そこで諦めてしまうと、いつまでたっても連携することはできないと思う。
ユーリ君が強くなったことは嬉しいけど、オーバースカイには、上手く連携できるチームでいてほしいと思う。勝手な話で申し訳ないとは思うけど、そういうことになるかな」
「そうだね、アリシア。結局、わたしはアリシアと対等じゃないから、本当の意味でうまく連携できているわけじゃないんだ。
もちろん、わたしとアリシアは大切な仲間だし、一心同体くらいの仲だと思うよ。でも、わたしが2人や3人いたところで、アリシアには勝てないから。アリシアの邪魔しないだけで精一杯かな」
アリシアさんとレティさんでもそうなのか。
なら、この問題は簡単に解決できないものと諦めて、地道に訓練を続けていくしかないかな。
でも、そうだな。戦力差があったとしても、アリシアさんとレティさんのように、役割までかぶっているわけでは無い。
そこは、もしかしたらぼくたちの活路になるかもしれない。そう感じた。
「わかりました。では、これからも地道に訓練を続けていくことにします。2人とも、ありがとうございました」
「ごめんね、うまく解決してあげられなくて。でも、君たちなら、私たちにも出来なかったことができるかもしれない。だから、諦めないでほしい。無責任な言葉だけどね」
「うんうん。わたしたちに解決できなくても、慰めてあげたり、励ましてあげること位ならできるから。だから、これからも気にせず相談してね」
「はい。アリシアさんたちの弟子として、恥じることのないチームになってみせます。それで、アリシアさんたちと冒険に出かけたいですね」
「ふふっ、しっかり覚えてくれているんだ。嬉しいな。私たちも本当に楽しみにしているからね」
それから、いつものようにモンスターを討伐していた。
その中で連携をいろいろと試していたが、フィーナには、ぼくにはない火力があるから、役割を持ちやすい。
でも、カタリナやユーリヤにノーラはぼくと同じ敵に対して戦うと、ぼくが役割を奪ってしまいかねないことが多かった。
アクアは上手く皆を守ってくれているから、とても活躍していると言えた。
「はぁ。ほんと嫌になるわね。あたしがユーリの足を引っ張っているみたいじゃない。楽ができてると思えば良いこともあるけど、ちょっとむかつくわね。
でも、そうね。ユーリだけなら手数が足りない時くらいしか、あたしの出番はないんじゃないかしら」
「わ、わたしも同じ気持ちです、カタリナさん。ユーリさんが格好良く活躍してくれるのはいいんですけど、ユーリさんが頼ってくれないと、ユーリヤは寂しいですっ」
「ユーリさんは、わたしには頼ってくれます……ですが、せっかくチームを組んでいるんですから、みなさんで活躍してほしいですね……」
「ユーリ、格好いい。でも、ユーリが頼ってくれないなら、カタリナたちを守る。それとも、もっと別の戦い方をする?」
みんなやっぱり連携がうまくいっていないことを気にしているみたいだ。
でも、ノーラは特に気にした様子もなく、敵がいない時はずっとぼくに甘えていた。
それにしても、本当に困ったな。
ミア強化のおかげで、ぼくが皆を守れる場面は増えそうだけど、ぼく1人で戦いたいわけじゃないから、もっとうまく皆で活躍できる手段が欲しかった。
頭を悩ませていると、アリシアさんは感心した様子になっていた。
「ユーリ君、本当に強くなったね。これなら、本当に私たちを超えることは夢じゃないどころか、手に届く距離だと思う。ふふっ、本当の意味で一緒に冒険できる日も、本当に見えてきたかもしれないね」
「ユーリ君、わたしよりはもう強いよね。はぁ。ユーリ君を可愛がるの、楽しかったんだけどな。もう先輩風は吹かせられないね」
「いえ、そんなこと。アリシアさんも、レティさんも、ぼくの尊敬する師匠であることは、何があっても変わりません。ですから、いつまでも先輩のままでいてください」
そう言うと、レティさんは満面の笑みを浮かべてぼくに抱き着いてきた。
「ユーリ君は本当に可愛いな。うんうん。これからも、お姉さんが、いっぱい甘やかしてあげるからね」
レティさんが嬉しそうにしてくれていて、ぼくも本当に嬉しい。
レティさんに抱き着かれていると、なんだかくすぐったいけど、それもレティさんのものだと思うと心地よかった。
もし仮にアリシアさんとレティさんより強くなることができたとして、ぼくはずっとこの人たちを尊敬し続けられるだろう。
しばらくレティさんにされるがままになっていると、満足した様子のレティさんが離れていった。
レティさんはなんというか、距離が近いような感じがするけど、レティさんに心を許してもらえているような気がして心地よかった。
「ユーリ君は素直で、わたしたちをよく尊敬してくれて、本当に癒しだよ。もっと早く出会えていたら、冒険者としての生活も、もっと楽しかったんだろうね」
アリシアさんにしろ、レティさんにしろ、冒険者としての生活に嫌気がさしているような感じがある。
ぼくたちは、アリシアさんたちのおかげで本当に楽しく過ごせているので、できれば、アリシアさんたちにもぼくたちの感じているような喜びを感じてもらいたかった。
まあ、そのためには、アリシアさんたちと対等以上にならないと、きっと難しいよね。ぼくたちは、まだアリシアさんたちに守られているだけだから。
でも、きっとすぐにそうなってみせる。
「そう言っていただけて嬉しいです。ぼくたちがアリシアさんやレティさんを尊敬しているのは、アリシアさんもレティさんも素晴らしい人だからです。
だから、本当に感謝しています。これから、アリシアさんとレティさんに返していけるように、頑張りますね」
「何度も言っていることだけど、頑張り過ぎないようにね。私たちはユーリ君たちから、ユーリ君たちが思っている以上の物をもらっているよ。だから、君たちが無事でいてくれることが一番だよ」
「うんうん。ユーリ君たちと一緒に過ごすの、本当に楽しいんだ。だから、これからも一緒に居てほしいな。それだけでも、かなりのお礼になっていると思っていいから」
「もちろんです。ぼくたちは、アリシアさんたちの事が大好きですから。だから、一緒に居ることはこちらからお願いするべきことですよ」
そう言うと、アリシアさんたちは微笑む。何度でも思っていることだけど、本当にこの人たちと出会えて良かった。
それからまた、モンスターを退治しながら、連携をあれこれ試していた。
結局うまい回答は見つからなかったけど、お互い邪魔しないことだけは完璧にこなせていた。
ちゃんと合図を出しながら移動して、フィーナやカタリナが攻撃する範囲には入らないようにしたり、ノーラやアクアにユーリヤの動きをしっかり見て、攻撃が重なったりしないようにすることはできていた。
「ま、今のところは、こんなものじゃないかしら? 新しい力を手に入れてそれを使いこなすということは、一朝一夕ではうまくいかないと言う事でしょ。これからも練習をすることにしましょ」
カタリナの言葉にぼくも内心同意していた。いきなり完璧にこなすことができないというのは当然だからね。
でも、ぼくはこのままでは終わらせないと決意を固めた。みんなで最高のチームになることがぼくの夢なんだ。1人で最強になりたいわけじゃない。
だから、もっと連携を深めるために力を尽くす。そうすることで、良い連携が出来るようになってみせる。
そうしていると、さらにみんなから言葉をかけられることになった。
「ユーリ君、今とてもいい顔をしているよ。君たちなら安心して見ていられるね。今回の問題もきっと乗り越えられるよ」
「うんうん。そうなれば、もっとユーリ君たちはわたしたちに近づいてくれるよね。アリシアにしても、わたしにしても、あなたたちと一緒に冒険したいという思いは変わらないから」
アリシアさんたちはとてもぼくたちを信じてくれていることがよくわかる。
だから、ぼくたちでこの人たちの期待に応えたい。この人たちの喜ぶ顔を見たいから。
「ユ、ユーリさんだけに全部を任せたりはしませんよっ。わたしたちだって、もっともっと強くなってみせますっ」
「そうね。ユーリなんかに負けっぱなしだったり、気を遣わせっぱなしってのも癪だわ。あたしはユーリより強くなるのよ」
「ユーリさんはみなさんの事を大切にしています……だから、わたしたちもあなたを大切にしてみせます……」
みんなの顔は決意に満ちている。ノーラも同じような顔をしている。うん。このチームでなら、今回の問題くらい難なく乗り越えられる。
だから、絶対オーバースカイは最強のチームになる。そう確信した。




