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邪悪ヤンデレ厄災系ペットオメガスライム  作者: maricaみかん
3章 頂へと歩むオーバースカイ

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49話 フィーナと

 ぼくは今日、フィーナと2人で出かけていた。

 フィーナから誘われたことがきっかけではあるけど、フィーナをより知って、パーティとして上手くやっていくためのいい機会だと判断していた。

 フィーナは静かな場所が好みだろうから、人通りの少ない場所をいくつか回るつもりでいた。


「ユーリさん、今日はどこへ連れて行ってくれますか……? ふふ、ユーリさんと2人で出かけることは、きっと楽しいですよね……」


「今日は、まずは公園かな。人があまりいないというか、1人いることも珍しいくらいなんだ。人が少ない場所は、ちょうどいいかと思ってね」


「人が少ないことにかこつけて、わたしに何かするつもりですか……? ふふ、そんな顔をしなくとも。冗談ですよ……ユーリさんが本当に望むのならば、やぶさかではありませんが……」


 フィーナ、初めの時の印象と違って、とんでもない冗談も言うんだな。

 まあ、フィーナと打ち解けられていると思うと、悪い気分ではない。フィーナには人間不信の気も感じていたから、フィーナに変なことをするつもりはなかった。いや、普通にそんなことはしないか。

 フィーナを公園に連れていったところ、本当に人がいなかった。完全にフィーナと2人きりだな。

 フィーナはとても落ち着いた雰囲気の人だから、だいぶ落ち着いた気分でいられた。

 だいぶさびれた雰囲気の公園だけれど、手入れ自体はされているのか、何かが壊れそうな感じはしない。フィーナと2人で空いているベンチに座って、話をしていた。


「ユーリさん、ユーリさんは、どんな女の人が好みですか……? ユーリさんが望むのなら、わたしはどんな女の人にでもなってみせます……」


 ぼくの好みの女の人か。考えたことなかったけど、どういう感じの人が好みなんだろう? ぼくの周りの人は大体好きだけど、たぶんそういう意味で聞かれているわけでは無いだろうし。

 でも、フィーナがぼくの言ったとおりにする、か。なんとなくだけど、嫌だな。

 だってそれ、もうフィーナじゃない何かとしか思えない。

 ぼくは今のフィーナに仲間になってほしいと思ったんだから、カタリナのようにだとか、アクアのようにだとか、その他の人のようにだとか、なってほしくないな。


「どんな人が好みかはよく分からないけど……フィーナが無理矢理ほかの誰かのような演技をする姿は見たくないな。いつもの、おとなしくて、落ち着いていて、強くて、優しいフィーナでいてほしいな。

 もちろん、そこから外れたくらいでは嫌いにならないけど、ぼくの好みに合わせて無理させるのはごめんだよ」


「なら、今のわたしはあなたの好みだと思っていいですか……? 他の誰かと比べた時、わたしを選んでくれますか……?」


 今フィーナを一番にすることは難しい。好きかどうかという問題以前に、アクアやカタリナを中心に長い時間を過ごしてきた絆には勝てない。


「それは、これから親しくなっていく中で決まることじゃないかな。少なくとも、昨日今日会った人を、どれだけ魅力的な人だとしても、今のパーティのメンバーより上に置くなんて事、ありえないよ」


「そのパーティのメンバーに、わたしも入っていると思っていいですか? ユーリさん、あなたにとって、わたしは大切な人だと思っていいんですか……?」


「フィーナはもう絶対に失いたくない人だよ。どんな強大な敵が現れたとしても、絶対に一緒に生き延びてみせる。それじゃダメかな?」


「構いません……ユーリさん、誰かにとって大切な人でいられることって、幸せなんですね……ユーリさんの今の言葉、本当に嬉しかったです……こんな化け物を、大切な人だって言ってくれて、本当に感謝しています……ユーリさん、あなたのことは、わたしが絶対に守ってみせますから……!」


 フィーナは自分の事を化け物呼ばわりしている。あまり気分のいい物ではないな。フィーナがこれまでに苦しんできたことの証のような気がする。

 でも、何か言ったくらいでどうにかなるような問題とは思えない。どうするのが正解なのだろう。

 フィーナの事を拒絶しないことは絶対だけど、時間をかけるしかないだろうか。

 すぐに答えが出るとは思えないし、ゆっくり考えていくことにしよう。


「感謝してくれるのは嬉しいけど、別に感謝なんてするほどの事じゃないよ。当たり前にこれからも続くことなんだから。フィーナがぼくを守ってくれようとするように、ぼくもフィーナを守るから。それがチームってものでしょ?」


「きっとそうなのでしょうね……ですが、わたしにとっては当たり前ではなかった……ユーリさん、わたしに幸せを教えた責任、取っていただきますから……もう、ユーリさんと離れるなんて事、絶対にあってはいけないんです……」


 ぼくはフィーナと離れようとは思わないけど、ちゃんとそれをフィーナが信じられるようにしないとね。

 フィーナはきっと、これまでつらい思いをしてきたのだから、それを上回るくらいの幸せで上書きしてやるのだ。

 ぼくにとって、フィーナの幸せはもはや他者の問題とは思えなかった。フィーナが幸せを感じていられるのなら、きっとぼくも嬉しいし、フィーナが不幸だと思っているのなら、きっとぼくも悲しいだろう。

 ぼくはぼくのために、フィーナが幸せでいられるように努力する。そう決めた。

 だって、フィーナのつらそうな顔なんて、見ていたくはないんだから。フィーナの嬉しそうな顔を、できるだけ長く見ていたかった。


 その次に、ぼくたちは料理屋で食事をしていた。あまり繁盛しているようには見えないが、美味しくて雰囲気も悪くないから、フィーナを連れてくるにはちょうどいいだろうと連れてきた。

 フィーナは思った通り、あまり店主が干渉してこないここが気に入っているようだ。


「ユーリさん、このお店、結構美味しいですね……野菜にもしっかり味がついていますし、その割にはくどくない……わたし、また来たいです……」


「なら、また来ようか。フィーナも、要望があったらいろいろと言ってくれていいからね。全部叶えるとはいかないだろうけど、せっかく一緒に居るんだから、そのほうがいいでしょ」


 フィーナは嫌われることを恐れているようで、フィーナを恐れないという約束を守ること以外の要望はあまり聞いたことがない。

 でも、フィーナだけに我慢させるのは、きっといい関係とは言えないはずだ。

 直ぐにとはいかないだろうけど、ちょっとずつでも、フィーナがわがままになっていいのだと思ってくれたらいいな。


「なら……ここから先は、手を繋いで一緒に歩きたいです……ユーリさん、構いませんか……?」


「もちろんいいよ。フィーナ、ほら」


 ぼくが手を差し出すと、フィーナはゆっくりとぼくの手を取った。フィーナの手は小さくて、でも、結構強く手を握られていた。

 少し痛いような気もしたけど、ここで拒絶なんてできないよね。だから、フィーナの手をそのまま受け入れていた。


 それからしばらく、街の中を手を繋ぎながら歩いていた。フィーナは歩く中で、力加減のちょうどいい具合を見つけてくれたので、思ったほど我慢はしなくてよかった。

 フィーナは時折、繋いだ手を嬉しそうに見ているので、これは離すわけにはいかないと思い、人通りの少なくてそれでいて狭くない道を頑張って選んでいた。

 フィーナは手を繋いで歩いていることに慣れてきて、手の握り方をいろいろと試していた。


「ユーリさん、最高の気分です……わたしを受け入れてくれる人が隣にいる、本当に幸せなことです。この手の温かさを忘れないうちに、また思い出させてくださいね……」


 また遠くないうちに手を繋いでくれということだろう。望むところだ。他の人相手なら恥ずかしさを感じていたところだけど、フィーナ相手にそんなことを感じていられない。

 実際はやっぱり恥ずかしいけど、それで手を放そうとしたら、絶対にフィーナを傷つけてしまう。

 それが分かっていたから、フィーナの笑顔の事を考えて、恥ずかしさの事をごまかしていた。

 いつもは表情の薄いフィーナだけれど、ごくたまに見せる笑顔は本当に魅力的で、ずっと見ていたいとすら思った。フィーナが笑顔でいられる時間が多くなれば、あの顔がもっと見られるのだ。

 そう考えることで、今感じている恥ずかしさを、未来の楽しみのための時間だと思えた。


「もちろんだよ。フィーナが望んでいる限りは、それを続けるつもりだから。こんなぼくでも誰かの支えになれるって思えて、嬉しいんだ。フィーナが幸せそうでいてくれると、ぼくも嬉しいよ」


「ユーリさん、ユーリさんは素晴らしい人です。ぼくなんか、なんて言わないでください。ユーリさんだからこそ、わたしを幸せにしてくれたんです。ユーリさんだから、ずっと一緒に居たいと思ったんです。だから、ユーリさんがつまらない人間みたいに言うなんてこと、やめてください……」


 フィーナがそう言ってくれるのは本当に嬉しい。でも、ぼくの全部はぼく以外の誰かの力で成り立っているのも事実のはずだ。だから、ぼくは大した人間じゃないってつい考えてしまう。

 でも、フィーナが自分の事を悪く言っている姿を見てぼくが傷ついたように、フィーナもぼくが自分を悪く言っている姿を見て気分を悪くしたのだろう。

 だから、せめてフィーナの前では、ぼくはすごい人間なんだって思っていることにしよう。

 だって、大したことのない人間に幸せにされたってことになると、絶対嬉しくないよね。


「わかったよ、フィーナ。でも、きみがぼくを素晴らしい人だと思ってくれてるように、ぼくもきみが素晴らしい人だと思っているんだ。ぼくも気を付けるから、きみも、自分を悪く言うようなこと、やめてほしい。フィーナだって、ぼくにとって最高の仲間で、絶対失いたくない大切な人なんだよ」


「それは……いえ、そうですね……ユーリさん、あなたがわたしを望んでいてくれる限り、わたしは自分を信じられるんです。だから、絶対にわたしの事を手放さないでください。そうすれば、わたしは自分を信じられるはずなんです……」


「もちろんだよ、フィーナ。だから、ずっとぼくたちの仲間でいてほしい。そして、きっと最高のパーティになってみせるんだ。フィーナは、最高のパーティの最高のメンバーになるんだからね」


「はい……! ユーリさん、ずっとあなたの事、信じています。そして、ずっとあなたの力になります……だから、いつまでも、いつまでも、一緒に居ましょうね」

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