47話 新たな仲間
ぼくたちは、フィーナさんとの連携の確認のために何日間か使うことにしていた。
まずは、モンスターがいないところで動きの確認をしてから、モンスターとの戦いを試してみるつもりでいた。アリシアさんたちがいないので、万が一の際のフォローには入ってもらえないから、できるだけ慎重に行くということにしていた。
まずは、フィーナさんがどれくらい動けるかを確認するつもりだった。足の速さや体力などを確認し、能力に頼らずにどれくらい出来るか確かめて、それをもとにフィーナさんのポジションなどを考える予定だ。
「フィーナさん、まずは走る速さや、どれだけ長く走れるかを確認したいと思います。いいですか?」
「はい……ですが、わたしはきっと問題なく動けるはずです……どれくらい走っていればいいですか?」
「限界がどれくらいか見たいです。フィーナさんに無理をさせないためにも、安全なうちに確認できることは確認しておきたいですからね」
「わかりました……では、全力で行きます……ユーリさん、約束、忘れないでくださいね……」
約束。フィーナさんを化け物と思わないし、敵とも思わないということだろう。つまり、フィーナさんは身体能力も高いということかもしれない。
たとえ音速を超えるくらいだったところで、それを使ってぼくたちを傷つけようとしないなら、フィーナさんを嫌いになるわけなんて無いんだけど、どうやって信じてもらおうかな。
少しだけ考え事をしていると、フィーナさんが走り出す。
かなり速いな。アリシアさん程ではないにしろ、ミーナやぼくの全力くらいはあるかもしれない。
契約技を持っていないのにこれか。本当にすごい人だな、フィーナさん。
そう軽く考えていたが、何より驚くべきだったのは、その体力だった。1時間ほど同じ速度で走っていたにもかかわらず、息一つ乱していない。これはとんでもないな。
でも、ぼくたちの体力が尽きる方が早そうなくらいだし、一緒にチームを組む上での心配事は1つ減ったな。
むしろ、ぼくがフィーナさんの足手まといにならないか心配しなくちゃいけない位かもしれない。
ぼくはフィーナさんを呼び止め、もう十分だと言う。フィーナさんは少しおびえたような様子でぼくに話しかけてきた。
「ユーリさん、どうでしたでしょうか……? ユーリさんとチームを組んでも、問題ないでしょうか……?」
「問題ないどころか、ぼくより凄い位かもしれないです。フィーナさんの足を引っ張ってしまうかもしれないですが、それでもぼくたちとチームを組んでくれますか? ぼくはフィーナさんが一緒に居てくれると心強いです」
「そうかもね。ま、あたしが足を引っ張るなんて事、あるわけないけどね」
「フィ、フィーナさんが一緒に居てくれたら、ユーリさんももっと活躍できますよっ」
「フィーナ、ユーリの力になってあげて」
「みなさん……ユーリさん、仮に足を引っ張ることになっても構いません。わたしは、みなさんと一緒に居たい……」
フィーナさんはそう言ってくれるけど、ぼくは足を引っ張るつもりはない。せっかく仲間になるのだから、フィーナさんにはお互いを支えあう喜びを知ってもらおう。
「歓迎しますよ、フィーナさん。これから、一緒に頑張りましょう」
「フィーナで構いません、ユーリさん……ユーリさんには、そう呼んでもらいたいんです……」
「わかったよ、フィーナ。ぼくの事もユーリでいいよ」
「いえ、ユーリさんと呼ばせてください……ユーリさん、わたしは全力であなたたちの力になります……ですから、ずっとわたしを離さないでくださいね……?」
フィーナはとても真剣な表情でそう言う。でも、フィーナの心配するようなことにはさせない。ぼくにとって、もうすでにフィーナは笑顔でいてほしい人なんだ。
「もちろんだよ、フィーナ。これからいっぱい頼りにすると思うけど、つらかったら言ってね。ぼくはフィーナを頼りにしたいけど、つらい思いをさせたいわけじゃないから」
「そう言ってくださるだけで十分です……それで、他にわたしの力をどれくらい確認しますか……?」
「では、衝撃の力を見せてください。まずは、ぼくが水を出しますから、それに向けて撃ってくれますか?」
「わかりました……では、いきます……」
フィーナの衝撃の力は、結構細かいところまで狙えるようだった。
ただ、アクア水でうまく衝撃を逸らせば、ぼくには衝撃が届かないということも分かった。
だとすると、通じる相手は限定されるかもしれない。単純に硬い相手なら大丈夫そうな感じだけど、武術の達人のような、衝撃をうまくいなすことが出来る相手だと、真正面から撃っても駄目だろう。
そうなると、タイミングをずらすとかが必要になってくるよね。
まあ、目には見えないものだから、対処できる相手は相当限られるだろうけど。
でも、そこで気を抜いてフィーナに何かあってはいけないから、今のうちに対策できるならしておきたい。まあそれは、衝撃の力の性能をもっと確認してからかな。
「フィーナ、その力、撃つ速度を変えることはできる?」
「試してみます……」
フィーナは何度か衝撃の力を撃つうちに、衝撃の速度を変えることが出来るようになった。これなら、タイミングをずらすことは出来そうだな。
他にも、アクア水を通せば、ぼくの方で操作できることも分かった。フィーナと協力することで、いろいろできるかもしれない。
「今度は、衝撃の出る場所を操作できるか確かめてもらえる?」
「わかりました……」
フィーナさんは初めは同じ場所からしか衝撃を出せていなかったが、すぐに結構自在に発射点を調節できるようになった。壁の奥からでも撃てるようになった時は、さすがに驚いた。
いや、ぼくもできるんだけどね。結構ぼくは苦労したから、すぐにはできないと思っていた。
本当にフィーナはすごい人だ。こんな人が仲間になってくれるんだから、フィーナの期待を裏切らないようにしないと。ぼくはフィーナを裏切らないと改めて誓った。
それから、いろいろとフィーナの能力の限界を確かめていた。
結構遠くまで撃てるし、速度もかなり自由で、撃つ地点も選べる。
欠点らしい欠点と言えば、一度撃ってしまえば、方向を変えられないということだったが、だからこそ、ぼくが力になれるとも言える。
フィーナさんの衝撃の向きを変えたり、速度を変えたりすることがぼくには出来た。
フィーナの力は、固い相手でも通じることは間違いないから、固定砲台としてだけでも相当な実力だろう。カタリナのお株を奪ってしまいかねないほどだと思ったが、弓矢は弓矢で火をつけたり、毒を塗ったり、フィーナにできない事はできる。
ぼくとカタリナ次第ではあるが、カタリナの役目を奪われないように、工夫も必要かもしれない。
まあ、単純に撃つ地点が2つになったり、手数が増やせるというだけでも、役目が無くなることは無いとは思うのだけれど。こういう形で不和が出て欲しくないし、先回りしておくに越したことはないよね。
まあ、急いだ方が良いけれど、今すぐに考えることでは無いだろう。まずは、フィーナの立ち回りだよね。
ぼくの想定としては、アクアが近距離で敵を足止めして、ノーラが前衛で攻撃、ぼくとユーリヤが中距離から近距離まで状況によって変える、カタリナとフィーナは遠距離から攻撃、というものだった。
まずは、ぼくたちだけで動きの確認だ。いろいろと試していたが、カタリナは隠密に優れているから、不意打ちなんかもできる感じだけれど、フィーナはそういうことは苦手みたいだった。
経験が少ないということは見て取れたので、今後伸びるところかもしれないけど、現状はぼくとユーリヤのどちらかのカバーが入れられる位置で動いてもらうことになるかな。
結局、今日のところは動きの確認で終わった。予定通りではあるが、中々考えることが多くて大変だ。
フィーナはとても頼りになる戦力になってくれるだろうけど、フィーナに頼ってばかりという訳にはいかないからね。
カタリナの火力を上げる手段があると、一気に楽になるんだけど。現状でのカタリナの問題として、弓が刺さらないとどうにもならないということがある。弓に工夫することで、弓が刺さらない相手にも何かできるといいんだけど。
ただ、そういうことをしようとすると、とたんにお金が吹き飛んでいくんだよね。悩ましいところだ。
そして、フィーナの力の使い道は、基本的には攻撃で良いんだろうけど、工夫の余地がないかは考えておきたい。射線をあける必要がない遠距離攻撃というだけでも、とても強いとは思うんだけどね。
ぼくがアクア水を通して他の物を操れるように、衝撃で他の物に干渉して何かできるだろうか。
ぱっと思いつくことだと、地面を吹き飛ばして、目くらましとかで邪魔をすることかな? それなら、ユーリヤとの協力の余地もあるかもしれない。罠を仕掛けるうえでも役立つ気がする。
それからも色々考察をしていたが、これという答えは見つからなかった。単純に使うだけでも、フィーナの能力は強いと思う。
だけど、せっかく仲間になってくれたんだから、活躍できるようにしたいし、楽ができそうなところでは楽をしてほしい。今後の課題だな。
次の日。モンスターを相手に立ち回りを確認していた。
フィーナの能力は、大勢が相手でまとまっていると特に強いということがその時わかった。
結構な広範囲にまで広げられるので、一気にぶつけることが出来るのだ。
ぼくたちでモンスターを誘導して、フィーナの高火力で仕留める。これまでのぼくたちには出来なかった立ち回りだ。選択肢が明確に増えたので、フィーナが仲間になってくれて良かったとはっきり言えた。
もちろん、フィーナの人柄は好ましいと思っているし、フィーナの力が強いことも分かっていた。
でも、チームとしてしっかり活躍できると確信できたのはこの時だった。フィーナに頼りきりではいけないし、フィーナが足手まといでもいけなかった。
だけど、ぼくたちならいいチームでいられる。そう思えた。
カタリナはフィーナと役割が被ることを気にしていたようで、複数同時に弓を撃つとか、連射するとかの技能を使っていた。同士討ちにならないように気を使っていると前から言っていたように、立ち回りを少し変えていた。
ぼくたちが足止めをして、その隙にカタリナが撃つというのがこれまでの基本的な立ち回りだったが、自分で敵を誘導したり、単独行動をしたりということもしていた。
個人的には、単独行動は心配になるけど、カタリナは相手して良い敵の見極めがとてもうまかった。
足の速さを考えたり、木の上とか、遮蔽物があるところとかだと安全になる相手を選んだり、ちゃんと弓が当たらなかったとしてもどうにかできる範囲での行動にとどめていたので、流石カタリナだと思っていた。
もともとアクア水を手に入れる前のぼくとは比較にならないくらい強かったからな、カタリナは。
他にも、フィーナはみんなに必要とされることがとても喜ばしいようで、頼りにされるたびに嬉しそうにしていた。
フィーナの過去はなんとなく想像がつくような気がするから、うまくフィーナが幸せに感じられるように立ち回りたいものだ。フィーナみたいな優しい人が傷つくなんて、嫌だからね。
「フィーナ、ぼくたち、中々いいチームになりそうじゃない? ぼくたちがフィーナの力になることもできるし、フィーナがぼくたちの力になってくれることもある。ちょうど支えあえるいい関係だと思うんだよね」
「はい……! ともに支えあえるということが、こんなに幸せだなんて知りませんでした。ユーリさん、あなたと出会えて本当に良かった……」
フィーナは今はとても明るい顔だ。この顔が当たり前になるように、頑張っていこう。
「フィーナがぼくたちを助けてくれたからだよ。フィーナさんが優しい人だから、ぼくたちもフィーナを受け入れることが出来たんだ。フィーナと出会えて、ぼくも幸せだよ」
「そうね。フィーナさん、もうあなたは立派なあたしたちの仲間よ。あたしだって、フィーナさんと出会えてよかったわ」
「そ、そうですよっ。フィーナさん、よろしくお願いしますねっ」
「フィーナ、よろしく」
ノーラは毛づくろいをしていて、フィーナをあまり気にしていないように見える。フィーナ、気分を悪くしてないかな。
「ふふ……ノーラさんも、よろしくお願いします。もちろん、アクアさん、カタリナさん、ユーリヤさんも。そして、ユーリさんも。ずっと、一緒ですよ……」
こうしてフィーナはぼくたちの仲間として活動することになった。ノーラもみんなに馴染めているみたいだし、人数は増えたけど、問題はなさそうだ。新しいオーバースカイは、もっと強くなれるはずだ。




