if オリヴィエとの未来
オリヴィエ様と強いモンスターを倒しに行って。
そして、追い詰められたオリヴィエ様を助けてモンスターを倒した。
それから、オリヴィエ様と話している中で、ハイディと呼ぶように言われたんだ。
何でも、オリヴィエ様は大昔にこの国を生み出したアーデルハイド様らしい。
だから、アーデルハイドの愛称であるハイディと呼ぶのだろう。
それで、ハイディはぼくに何でも褒美をくれるのだという。
金銭や名誉はとくに欲しいわけではないので、悩みどころだったけれど。
ふと頭に思い浮かんだものがあった。
ハイディに受け入れられるのかどうかは分からないけれど。
だけど、ぼくの心からの望みだと思えるんだ。
「ねえ、ハイディ。オーバースカイに入ってほしいってのはどうかな? やっぱり失礼かな?」
ぼくがそう言うと、ハイディは少し口を開けてボーッとしているようで。
それからしばらくして、とても面白いといったふうに笑い出した。
「ははは! まさか、余そのものを求めるとはな。ずいぶんと傲慢なことだ。だが、貴様ならば許す。オーバースカイの一員として、力を振るってやろうではないか」
ハイディはとても上機嫌に見える。
良かった。無礼とか言われていたら、困るどころじゃなかっただろうから。
つい言葉に出ちゃったんだよね。ハイディと一緒なら、きっと最高だから。
うん、ハイディのことを助けられてよかった。
ハイディと二度と出会えないなんて、考えたくもないよね。
「ありがとう。でも、王族の責務とかは大丈夫なの?」
「どうとでもしてやるさ。こんなに面白いことなど無かったのだから、今を全力で楽しまなくてはな」
ハイディは本当に楽しそうな様子だ。
ぼくの言葉で楽しんでくれているのなら、嬉しいよね。
なんだかんだで、ぼくはハイディが大好きなんだ。改めて理解できた。
「ハイディが楽しいなら何よりだよ。ハイディと一緒に冒険するの、楽しみだな」
「余が全力を尽くせば、モンスターごとき軽く葬ってしまうだろうからな。手加減を覚えなくては」
「ラクならラクで楽しみ方はあると思うけれど。まあ、油断は禁物だよね」
実際、ハイディを失いかけたのも、ハイディの油断があったからだからね。
まあ、滅多なことではあんなに強いモンスターは現れないだろうとはいえ。
だからといって、またハイディを危ない目に合わせるわけにはいかないのだから。
ハイディはとっても強いから、きっと大丈夫ではあるとは思うけれど。
とはいえ、ハイディが死んでしまうかもと考えた時はつらかったからね。
「その時は、また貴様が余を助けるのだろう?」
「もちろんそのつもりだよ。でも、危険がないに越したことはないからね」
もうハイディが傷つく姿は見たくないから。
ぼくにとって大切な相手だということは、もう疑いようがない。
「くくっ、貴様が本音でそう言っているというのが分かる。面白いな」
ハイディにはご機嫌取りで色々と言う人が多かったのだろうか。
なんにせよ、ぼくの言葉はたしかに本音。
ハイディに幸せでいてほしいから。笑顔が見たいから。
「まあ、ハイディより強いわけではないから、ぼくの方が助けられてしまうかもしれないけど」
「貴様を手助けすることも悪くはない。貴様ならば、余の力を尽くす価値がある」
ハイディにそう言ってもらえることはとても嬉しい。
だから、手間を掛けさせすぎないようにしないとね。
ハイディが喜んでいると、ぼくだって同じように喜べるのだから。
つまり、ハイディが悲しければってことだ。
「うん。でも、できる限り自分で頑張るよ。ハイディの負担は減らしたいからね」
「貴様が気にする必要があるのか? 貴様に潰れられては楽しくないからな。気をつけておけよ」
そのあたりは何度か他の人にも心配されたような。
だったら、ハイディに頼っても良いのかな。
でも、あの時みたいにハイディに追い詰められてほしくはない。
なんとかうまい具合にお互いが協力できれば良いんだけど。
「ハイディこそ。またあの時みたいなのは、ぼくの心に良くないからね」
「くくっ、心配を受けるというのも、存外心地よいものだ。貴様には本当に驚かされるな」
やっぱりハイディはロクに心配もされてこなかったのだろうか。
だとするならば、ぼくはもっとハイディに心配される心地よさを知ってほしい気がする。
まあ、心配というのは余計なお世話であることも珍しくはないけれど。
「なら、もっと心地よい驚きを知ってもらいたいかも。まあ、狙ってはできないだろうけどね」
「そうだろうな。だが、貴様ならば実行できるかもしれん。楽しみにしているぞ」
ハイディは不敵な感じで微笑んだ。
やっぱり、かっこいいというか、なんというか。
高圧的とすら感じるハイディだけれど、間違いなくそこも魅力なんだ。
それから、リディさんとイーリスもオーバースカイに加入することになって。
新しいメンバーを加えたオーバースカイで冒険を楽しんでいた。
楽しむなんてどうかという思いもなくはないけれど。
でも、実際に楽しいのだから仕方がないよね。
冒険の中で、何度もハイディと協力することがあった。
もちろん、ただモンスターを倒すだけならば、お互い1人のほうが楽ではある。
それでも、北と南の敵を別々に倒しているだけでも、つながっているような感覚があったから。
すぐそばにハイディがいてくれるという事実だけで、力が増すとすら思えた。
それからも何度か冒険をする中で、ハイディと過ごす時間がどんどん楽しくなって。
だから、もっとずっと一緒にいたいと思う時もあったんだ。
とはいえ、十分なだけ一緒にいるとも考えていたけれど。
そんなある日、ハイディから彼女の屋敷へと呼び出されて。
何を話すのだろうかと楽しみにしながら、会いに向かった。
部屋にはいつもより明確に着飾ったハイディがいて、思わず見とれてしまった。
どことなく神妙な顔をしている様子のハイディは、ぽつりぽつりと語りだす。
「ユーリ。貴様と出会ってから、それなりに時間が経ったものだな」
確かにそうだ。初めて会ったのは、王都での闘技大会の表彰で。
それから、色々と連れ回されたりしたんだよね。
今では懐かしい思い出だけれど、当時はハイディを恐れていた。
時間が経つにつれて、どんどん魅力を知っていったんだけど。
「そうだね。今では懐かしい思い出もあるよ」
「あの頃の余は、貴様を面白いおもちゃくらいに思っていたものだったが」
うん、よく分かる。
だけど、それでもハイディはぼくを尊重してくれて、大切にしてくれて。
そんなハイディだったからこそ、ぼくも大好きになっていったんだ。
「だよね。でも、ハイディは優しかったから。だから、振り回されるのも楽しかったくらい」
「くくっ、面白いことだ。余に対してそのように考える者がいるとはな」
「ハイディはとっても魅力的だと思うけど。だから、そんなに不思議なことじゃないよ」
「そんな貴様だから、余は絆されていったのだろうな。愚かだとすら言える貴様だからこそ」
ハイディの顔はとても柔らかくて、だから、絶対に褒めてくれている。
うん。今みたいな表情も見ていていいな。
本人に言ったら怒られるかもしれないけれど、とても可愛い。
「愚かだからハイディと親しくなれたのなら、褒め言葉かもね」
「……そうだな。貴様はそんな奴だった。だからこそ、貴様に伝えたい言葉がある」
ハイディは優しい顔でこちらを見つめていて。
だから、良いことがあるのだと心から信じられた。
そのまま、ハイディは言葉を続けていく。
「貴様に助けられたこと。大亀のようなモンスターから救われたこと。それが、余をおかしくしてしまった。王女でもないただの余を必死に助ける貴様がいたから。あまつさえ、ただの余を求めさえするのだから」
ぼくにとっては当たり前のことだけれど。
ハイディが大切なのは、ぼくにとってはハイディそのものが好きになれる人だったから。
どんな立場だったとして、きっと出会っていたのならハイディを好きになっていたはずだ。
「それだけハイディが魅力的だというだけだよ。だから、当然なんだ」
「それを当然と言える貴様と、ただのアーデルハイドとで、結ばれたいのだ。ユーリ、受け入れてくれ……!」
ぼくはハイディの言葉に、一瞬すらも悩まなかった。
どうしたいかなんて、決まりきっているから。
「もちろんだよ。ハイディのことが大好きだから。ハイディとなら、きっと幸せになれるから」
ハイディはぼくの言葉に微笑んで。
それから、ぼくのあごに親指と人差し指を添えて。
ハイディから届いた心は、とても暖かかった。
アクアがユーリの周囲で支配していないのはオリヴィエとその近衛だけとなって。
だからアクアは、せめて最後に残ったオリヴィエたちだけはユーリの味方でいてほしいと願った。
そんなアクアの思いに応えるように、オリヴィエはユーリを大切にしていて。
アクアはだんだんオリヴィエに思い入れを募らせていた。
そして、オーバースカイに加入したオリヴィエはユーリのそばを楽しんでいる。
アクアにとって最後の希望であるオリヴィエは、アクアの期待に応えていた。
そんなオリヴィエがユーリに想いを向けていることは喜ばしい。
だからアクアは、2人が結ばれることを応援しようと考えていた。
とはいえ、直接干渉することは2人にとって好ましくないだろう。
なぜなら、2人とも人との繋がりに臆病だから。
急いで結びつけようとすれば、ねじれが生まれる。
アクアはうまくいくようにと祈りながら、2人を見守っていた。
そんなアクアの願いが通じたのか、ユーリとオリヴィエは結ばれることになる。
アクアはとても喜んで、2人に対しての祝いを考えていく。
もう自分が支配していないのはオリヴィエたちだけ。
それでも、最後に残ったオリヴィエが幸せを運んでくれた。
アクアはオリヴィエとユーリが出会えたことに、とても強く感謝していた。




