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灼熱の昭和にデータ野球で挑む  作者: メモ帳ぱんだ
番外編

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閑話:日本人メジャーリーガー続々誕生

 俺はメジャーリーガー野口君を自分の家に招いていた。

 彼は昨シーズン、任意引退の抜け穴を使ったかなりグレーな方法で渡米していた。

 同じナリーグ西地区に所属しているので、顔を合わせる機会は何度もあったのだが、

 なかなか予定が合わず、こうやって時間を作って会うのは初めてだ。


 最初は飼い犬のウブントゥを頭に乗せた俺に面食らった表情だった。

 俺は家では気を抜いているのだ。

 野口選手はなんとか笑顔をつくり、土産物を差し出して来た。


「これロスで大人気のケーキ屋に作ってもらったんですよ。」


 そのケーキにはやたらリアルな俺と先輩の顔と、ホームラン王を祝うメッセージが書いてあった。

 しかも犬用のケーキを2個持って来てくれた。いい男だな。


 彼とのツーショットを社で開発している携帯電話で撮る。

 不思議そうな顔をしている野口選手に説明した。


「SNSにあげようと思って、今ウチの会社でやってるサービスがあるんだよ」

「Showtterのことですね。最近僕もファンとの交流のために始めたんですよ」


 最近はファンとの交流のために始めた。

 と言っても依然としてこのサービスの利用者はPCオタクが多い。

 意外にユーザーは多く、すでに三十万人のアクティブユーザがいる。

 ほぼ全てのユーザーはPCから接続しているのだろう。


 まだまだこの時代、携帯電話はいわゆるガラケー。

 定額プランはなく、このサービスにアクセスするのにはかなりの通信料金がかかる。

 つまり、日本では普及がイマイチなADSL経由でしかアクセスできない。


 我が社は一応スマホ用のOSを作っているが、世に出すのはまだ早いだろう。

 俺は関連会社の携帯キャリアのGSM(2G)網を使っているので実質タダでスマホを使えるが、

 一般人が今やっているように写真をUploadしたりしたら一回数千円もかかってしまう。


 -----------------

 庄内毅 (@sho) 97/02/04

 ロサンゼルスから野口選手(@nogu)が自宅に来てくれました!

 なんとワンちゃん用ケーキまでプレゼントしてくれました。

 〜3枚の添付写真〜

 ------------------


 SNSに呟くと続々とコメントが来る。ほとんどは日本語のコメントだ。

 日本は今真夜中なはずなのに、こんなに反応があると嬉しい。


 野口選手が俺の携帯を物珍しそうに見ている。

 この携帯は日米の半導体技術の最先端と言っていいほどの試作品だ。

 研究開発費も含めれば、この試作品一台は数百万する。まだ世の中に数百台しかない製品だ。

 CPU性能が悪いし、マルチタッチができない。タッチの感度も酷いけど、組込みLinuxベースの独自OSが動いている。


 そのうち、このOSのソースコードを公開してスマホシェアを独占するのが俺の夢だ。

 そんな俺の野望を語って見せたが、どこか反応は鈍かった。

 まぁ、いい。彼は野球選手。最新のテクノロジーを追いかけることが仕事ではない。


 今期の彼の活躍も凄かった。

 なにしろノーヒットノーランを達成しているのだ。

 ローテーションも守っているし、防御率も3点台前半。一流選手と言っていいだろう。


 野口選手と楽しく雑談する。

 メジャーに蔓延るステロイドの話、メジャーの暗黙のルール、メジャーの球の作りの粗雑さ。

 話題が尽きることはなかった。数時間ほど話した後に、彼を見送った。


 (よし、楽しく話せたな)


 ソファに腰掛け今シーズンの日本人選手の活躍を思い返す。


 実は今季はメジャーに出場した日本人選手が俺と彼以外に2人いる。

 それぞれ俺と同じようにアメリカのドラフト経由で入団した。

 今季、定着しているのはそのうちの投手一人だけだが、パイオニアとしてすごい快挙だ。

 アリーグ東地区にいるその選手のデータを見た時の衝撃を思い出していた。


 谷口選手。

 高校時代に我が飛鳥台を完封した投手らしいが、それ以外はよく知らない選手だった。

 前世では怪我に泣いた選手だったのかもしれない。


 この選手がメジャーでは異様な特徴を持つ選手だ。ストレートが120キロ前半しか出ない。

 それなのにメジャーで活躍している。

 彼は日本からコミュニティカレッジ、日本でいうところの短大に進学し、アメリカのドラフトにかかる戦略をとった。


 彼が選んだコミュニティカレッジはカリフォルニア州のアナハイムという街の近くにある。

 この街は俺も学生時代お世話になった。娯楽の少ないアメリカで先輩とデートするのにピッタリな巨大テーマパークがあるからな。


 数年前に彼を見に行ったことを思い出す。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺はメジャー四年目に彼の試合を見に行っていた。大学野球には少しだけ伝手があるので貴賓室で観戦させてもらった。もっとも、妻とのテーマパークデートのついでだったが。


 関係者の案内でグラウンドにも降りさせてもらい、練習している彼を間近で見た。

 俺がキャッチャーの後ろで彼を観察していると、彼はコントロールがめちゃくちゃになりはじめ、最終的には投げる最中にコケたり、真下にボールを投げる謎の投法を見せてくれた。

 どうも今日は調子が悪いらしい。スカウトに推薦しようと思っていたんだが、評価を少し下げた。


 練習ではめちゃくちゃなコントロールだったが、試合では圧巻だった。

 球場で見てみても彼がなぜ抑えられているのかがよくわからない。

 実際に対戦してみないと分からないタイプの投手だろう。コントロールが抜群にいいのは分かるけど、それでも120km/hだ。

 見たことがないタイプのピッチャーだ。


 スローカーブは80km/h程度。この落差が打者を翻弄しているんだろうな。


「うーん、なんとも評価できない」

「どう?毅君。 谷口君を推薦することになりそう?」


 先輩は俺の手前、すごく真剣な眼差しで試合を眺めている——俺には分かる、これは演技だ。

 試合内容に微塵も興味ないと思う。そりゃそうだよな、知らない短大同士の対決だもん。


「先輩、切り上げて早めにランド行きましょう!」

「ほんと!? 今日のパレードは特別でね。早めに場所取りしないと!」

「大丈夫です。関係者席を用意してもらいました」


 先輩は「毅君は無粋なんだからー」と不満を言いながら、どこか楽しそうだ。

 俺が場所取りなんてしたら人が集まりすぎて雑踏事故が起きる。賢い先輩のことだから、それくらいわかっているだろう。


 いい選手だと思ってスカウトには推薦したが、下位指名予定だったので競り負けてしまった。スカウトからは同じ日本人の贔屓目だと見られたのかもしれない。

 今の活躍を見ると、結果的にもっと強く推薦しておけば良かったかもしれない。K/BBも高く、セイバー的には優秀であったが、何故あそこまで活躍できているのか俺自身が納得できないところがあったのだ。


 試合前の練習の時に打者目線で見られれば、もう少し正確に判断できたのかもな。

 しかし、なぜか彼は真下にボールを投げる奇行をしていたので、打者目線からの彼の力を推し量ることができなかったのだ。

 もっとデータを信じれば良かった。……俺にとって、少し苦い記憶になった。

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