第63話 マニアック庄内くん
データが継続的に手に入るようになって、成績も上がってきた。
それでも4月と5月は割と低空飛行だったが、6月は満足できる成績になったんじゃないだろうか。
メジャーには、極端な弱点を持っている投手なんてそうそういない。だから大学時代のように無双というわけにはいかない。
もちろん、俺に対するマークもどんどん厳しくなってきてる。もしかしたら来月以降は一気に成績が下がるかもしれない。ただ、投手の分析はまだまだ改善する予定だ。今年は新人王が取れるくらいの活躍をしたい。
野球の成績とは別に目標がある。
俺は、世界で一番ファンを大切にする野球選手になりたいと思ってる。
ファンは球場に足を運んでくれるし、俺のグッズを買ってくれる。
特に子供のファンは大事だ。だって子供は両親を球場に連れてきてくれるからな。
そうすれば、球場の売上もグッズの売上も増える。俺の年俸だって上がるってもんだ。
ファンが多ければ広告効果も大きくなるし、俺のギャラも増える。
いいことしかない。
最近は、サンフランシスコの街でも声をかけられることが増えてきた。
筋肉隆々のアジア人ってだけで珍しいから、サングラスをしててもすぐバレるんだよなぁ。
…正直、最近はちょっと数が多すぎて、少し困っているくらいだ。
キリがないので、最近は事前にサインを印刷したメッセージカードを配っている。
大学時代にやっていたファンサービス用のパソコン通信も、今シーズンから再開した。
オフに国際通信を経由して、Telnetで日本のパソコン通信にアクセスできるようにしたのだ。
とはいえ通話料がめちゃくちゃ高いので、一瞬だけ繋いで読み書きするくらいしかしていない。
それでも、俺のブログ以外にもファンが自由に書き込んでくれているのを見ると嬉しくなる。
ファン同士の交流の場って、やっぱり大事だ。
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庄内毅のデータと汗の野球日記
★タイトル:オールスターに選んでいただき感謝です(コメント数:1000)
★投稿者: 庄内毅
★本文:
先週のビジター6連戦楽しんでいただけましたでしょうか?
最終戦のアブレイユ選手の満塁ホームラン凄かったですね!
NHKさんで全試合中継していただいたようです。
オールスターへの投票もありがとうございます。僕程度の選手が選ばれるなんて、日本からの組織票でもあったんでしょうか!
さて、今週日曜日はホームでのデーゲームなので、日本時間の11時から質問コーナー3回目を行います。今回もHF帯域です!免許をお持ちでない方も受信することができます。
21.300〜21.340 MHzの空いている帯域でCQしますのでお聞き逃しなく。コールサインはAL6SHNAIです。質問してくれた方には特製QSLカードをプレゼント!
コメント15:
> 僕程度の選手が選ばれるなんて
6月打率.351 7HR 20打点 で選ばれないわけがない
コメント107
雑誌で見て初めて来たけどVANのSIG一覧に個人の野球日記あるの面白すぎる。なんか雑談掲示板みたいになってるし
ところで質問コーナーって何?
コメント156
107宛
最近、庄内はアマチュア無線の短波帯域を使った謎の質問コーナーをやってる
こいつはパソコン通信といいやたらマニアックな手段でファンサする事で有名
全国のラジオショップに女子が殺到して短波ラジオが売り切れたらしい
コメント289
いつも無表情なのにアブレイユが打った時だけ感情を取り戻す庄内くん好き
アメリカと日本ってかなり距離あるけどアマチュア無線で会話できんの?
コメント291
できる。特に今はEスポっていう電波が届きやすい時期だから日本全国に届く。
ただ、こいつに質問するには免許いるから注意な。受信するだけなら免許はいらん。AMしか対応してない短波ラジオで聞くとモガモガ音質になるから注意
コメント535
オフにこのSIGに阪急関連のスレッド建てると現役メジャーリーガーをほぼ確定で召喚できてたの面白すぎる
大学時代に阪急帽をいつも被ってたらしいし好きなんですねぇ
コメント950
先週の質問コーナ文字起こし①
◾️質問1 はやとくん(9歳) 庄内選手みたいに強い打球を打つにはどうすればいいですか?
庄内 筋肉をつけましょう。毎日筋トレをしてプロテインを飲むと筋肉ムキムキになれます。
◾️質問2 ともぞうくん(42歳) 栄光ある巨人軍の一員になる考えはありますか?
庄内 今の所はないです。新ルールもできたみたいですし。(※おそらく4月にできた庄内ルールのこと。メジャーからの帰還選手の取得に制限がかかった)
コメント1000
HFで通信できる9歳児がいるってマジ?
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日記に対するコメント数も、最近は上限まで届くことが多くなってきた。
というか、1000件っていう上限があることを最近まで知らなかった。
最近はファンサービスの一環として、アマチュア無線でファンからの質問に答えるコーナーも始めた。
この時代はメールすらない時代。ファンに声を届ける媒体なんてないに等しい。テレビやラジオなどのメディアが、この時代で繁栄を極めていた理由がよく分かる。メディアは有名人の発信を独占していたわけだもんな。
どうにかならないかと考えていたとき、ふと気づいた。
ネットがない時代、人はどうやって遠くの人とやり取りしていたか?
──そう、無線だ。
今、俺のオフィスには高さ10メートルのアンテナがそびえ立っている。先輩にはかなり怪しまれたが、データ分析に必要という苦しい言い訳で乗り切った。
無線というのは目に見えないが、実はあらゆる周波数で通信が飛び交っている。
その中の一部の帯域を、一般人向けに開放しているのがアマチュア無線だ。
俺はその帯域を使って、日本向けに「質問コーナー」をやっている。
アメリカでは市民ラジオ(CB)と呼ばれる27MHz付近での無線通信が盛んだ。免許不要であるため、子供のプレゼントとしても気軽に無線機が渡されていた。ちなみに日本でこの無線機使ったら捕まるぞ⭐︎
アマチュア無線は、CBよりももうちょっと本格的な無線通信だ。太平洋を超えるほどの出力を出すことができるし、使える帯域もかなり広い。ちなみに免許が必要だ。
本来の用途とちょっと違う気もするけど──
まぁ、郵政省とかFCCに怒られない限りはセーフだろう。雑談だけで周波数を長時間使用してるオッサンとか、いくらでもいるしな。
夜、オフィスでテイクアウトしてきた中華料理をつつきながら、質問コーナーの準備をする。
今の時間は、サンフランシスコが夜の7時前。日本時間だと午前11時くらいになるらしい。
詳しい人に聞いたところ、この時間帯は日本との通信コンディションが良いらしい。無線の世界も、電波の通りやすさには“時間帯”ってやつがある。
マイクに向かって、いつもの呼びかけを始める。
「CQ CQ CQ、こちらはアルファ・リマ・シックス、シエラ・ホテル・ノーベンバー・アルファ・インディア。サンフランシスコから日本局を呼び出します、どうぞ。」
適当な空きチャンネルを見つけてコールをかけると──一気に応答が返ってくる。
混線状態、いわゆるパイルアップだ。
「JA1KZTSTだけ聞き取れました。他の局はちょっとお待ちください。お名前とご年齢、質問をどうぞ」
返ってきた声は、最初にCQに応答した声とは明らかに違う。
少し高めの、ハキハキした女の子の声だ。絶対、お父さんか誰かが頼まれて交信してるな。
「くみこ、12歳です。庄内くんには恋人はいますか?」
──おっ、答えたくない質問が来たな。
女性ファンが多いから、結婚してることは公表してないんだよなぁ……。
でも、子供に嘘をつくのも気が引ける。
「それは秘密。でも僕は、ファンのみんなのことが大好きだよ。
くみこちゃんには、サイン入りのカードをプレゼントしてあげるね」
アマチュア無線の世界には、QSLカードという文化がある。
交信した相手と、記念にハガキを交換する習慣だ。
俺は、自分のキメ顔写真入りQSLカードにサインをして、コールサインから住所を調べて郵送した。
その後も、野球の話や好きな食べ物、将来の夢など、いろんな質問が飛んでくる。
俺はそれに、できるかぎり丁寧に一つ一つ答えていく。
何よりもファンを大事にしていること。フェアプレーを大事にしていること。東大を去る時に泣いてくれた先輩達への感謝。高校野球に対する熱い思い、そして夏の甲子園を優勝できなかった無念。そして、野球界への感謝。
気づけば、2時間が経っていた。
そろそろ明日のフライトに向けて、寝る準備をしないといけない。答えた質問は40個にもなっていた。
こうして、今日もまたひとつ、電波に乗ってファンとの双方向のつながりが生まれた。




