表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灼熱の昭和にデータ野球で挑む  作者: メモ帳ぱんだ
メジャー編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/81

第59話 オフの過ごし方

 今日は都内で、人生初のCM撮影だった。本格的なスタジオで何人ものスタッフがいる大仕事だ。


「僕も使ってます!ポータブル醤油スプレー新発売!」


「ステーキにも!」シュッ、シュッ!(リブステーキに醤油を噴霧)

「ケーキにも!」シュッ、シュッ!(イチゴのショートケーキに醤油を噴霧)


「ポータブル醤油スプレーで、いつでもどこでもサッと隠し味!」


 ……自分で宣伝しておいてなんだが、この商品を本当に欲しがる人なんているんだろうか。

 まあ、半日で出演料7000万もらえるから、売り上げなんて俺の知ったことじゃないけど。むしろ会社の将来の方が心配になる。


「はいっ!カット!もうちょっとだけ感情を込めた演技お願いします!」


 これでリテイク5回目。俺の演技力じゃなく、この台本が悪いんだろう。

 その証拠に、敏腕マネージャーの先輩が壁際で小さく拍手して笑っている。

 目が合うと、にこっとして手を振ってくれた。……可愛い。


 日本に帰ってすぐ、先輩と籍を入れた。

 苗字が庄内になってしまい、呼びづらいことこの上ない。

 話すときは下の名前で呼んでいるが、俺の心の中では永遠に「広瀬先輩」だ。


 30回ほどのリテイクを経て、ようやくOKが出た。

 リテイク1回ごとにショートケーキとステーキが一つずつ消費され、そのたびにADが食べさせられていたのが気の毒で仕方なかった。終わって本当に良かったと思う。


「今日はスケジュール、これで終わりですかね?」と俺が聞くと、

「もう夫婦なんだから敬語はやめてね。あとは新聞広告を2件と、取材を1件こなしちゃいましょう!」と先輩。


「もちろんです。じゃあ行きましょうか」

 優しそうに見えるけれど、先輩は意外とスパルタだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺はオフィスの片隅で、掲載前のインタビュー記事をチェックしていた。

 ここは日本で過ごす拠点だ。名義は先輩。先輩パパから結婚祝いとしてもらった、東京近郊の一軒家に今は住んでいる。実は先輩はブルジョワだったりする。

 一階はオフィスのようになっていて、先輩の仕事場になっている。そこに俺が秋葉で安く買ったUNIXマシンが一台。低性能だが、ないよりはマシだ。


  ◾️◾️◾️◾️

  週刊ベースボールウェンズデー

    11月4週号


 「庄内毅、メジャー挑戦の真意とは

   緊急独占インタビュー」


 待ち合わせ場所にスーツ姿で現れた庄内毅は、想像以上に大きく見えた。

 185cm、95kgという体格はメジャー中継では目立たないが、東京の街中では十分すぎる存在感だ。


「お金ではないんです」


 メジャー挑戦の理由を問うと、彼は真っ直ぐな眼でそう答えた。

 公開されている契約書によれば、来季の年俸は20万ドル。メジャーではロースター3年目に年俸調停権を得るまで、若手は低年俸が通例だ。NPB入りした同期の年俸を思えば、決して満足できる額ではないはずである。


 日ハムからの指名を受けた際、彼は最後まで迷ったという。

 パ・リーグ一律拒否の噂もあったが、庄内はキッパリ否定する。セ・リーグの球団に指名されても同じ決断をしただろうと。日ハムが出してきた条件や契約金には満足していたし、熱心に練習を視察してくれた日ハムのスカウトには親しみも抱いていた。それでも――


「当時、日本人の野手がメジャーに挑戦するなんて夢物語でした。僕は、それを破りたかったんです」


 現在、庄内はメジャーで打率.293を記録。特に10月は.333とチームトップの成績を残し、チーム内の月間MVP選手にも選ばれた。それでも「まだ満足していない」と首を振る。


 一番の苦労は何かと尋ねると、「やはり言語ですね」と即答。通訳を通さずにチームメイトとやり取りする難しさを語る。インタビュー中に英語で話しかけると、やや聞き取りが苦手な様子だった。完璧超人に見えた庄内の、意外な弱点だ。


 同期の活躍についても聞いた。

「岸原と桑原は素晴らしい成績を残しています。飛鳥台時代の浜田もスタメンをつかみました。本当にすごいことです」


 今でも連絡を取っているのかと問うと、無言で首を振る。

「まだ実績を残していませんから。同じステージに立ってからですね」


 高校時代、特に岸原とは仲が良かったはずだ。それでも距離を置く姿勢に、彼の野球に対する真剣さが垣間見える。


 さらに、ソウル五輪で活躍した飛鳥台時代の先輩、大迫(大阪ガス→阪神)や江崎(明大→ホンダ)について尋ねると、長く考えてからこう言った。

「どちらも尊敬できる打者でした。高校時代の先輩が大舞台で打つヒットをテレビで見て感動しました。日本代表がメダルが取れなくて悔しかったです」


 彼の回答には誤りがある。江崎は投手で、五輪でも無安打。しかも日本代表は銀メダルを獲得している。おそらく忙しさの中で記憶が混ざっているのだろう。記者はそれを指摘せず、話を進めた。


 東大時代の話題に移ると、彼は少し照れくさそうに笑った。

「父と同じ大学に行ってみたかったんです」


(12月1週号に続く)



 ……酷い記事だ。悪意を感じる。これじゃ、まるで俺が大迫先輩や江崎先輩のことを忘れてるみたいじゃないか。


 大迫先輩は――パッとは出てこないな。でも、手元にあるコンピュータでデータを調べればすぐだ。

 …通算打率.341、出塁率も高く、インコースのさばき方が抜群なバッターだ。

 ああ、思い出した。野球ノートを最後まで続けて書いてくれた先輩だ。今も書き続けてくれているだろうか。俺の高校時代の宝物みたいな思い出だ。忘れるわけがない。


 江崎先輩――そういえば明大時代に対戦したな。150km/hを超えるストレート。そうか、ドラ1を拒否して社会人に行ったのか。

 ドラ1なら入ってしまえばいい、と俺は思うが……FAなんてない時代だ。球団選びは命がけになる。社会人野球の給料より低い給料のプロ野球選手なんて、この時代だとごく普通だしな。


 編集部に訂正の要求を入れてやろうかと思ったが、10秒ほど考えて面倒なのでやめておいた。

 原稿料がかなり高かったらしいし。金さえ貰えればなんでも良い。


「インタビューの内容、これでいいです」

「本当に?これ高校の先輩たちに怒られない?」

「優しい先輩たちなんで大丈夫です」


 俺は寛容なので何を書かれても気にしないのだ。高校時代に週刊誌に「岸原に死球を当てた後に下を向いて爆笑していた」という誹謗中傷をされても、抗議をしなかった程の聖人だ。あの記事は今でも思い出すとムカつく。爆笑まではしてなかったと思うんだよな。


「君がそれで良いなら良いけど……。あ、そういえばシスコって会社知ってる?」


 先輩の話では、我が社が投資しているシスコ社の株価が急上昇しているらしい。わずか一年で株価は倍。10万ドルほどの利益が出ているそうだ。

 俺が推しているアップルは全く動かないというのに。証券会社の担当が適当に勧めてきたIT企業が伸びるなんて、ちょっと悔しい。ちなみにシスコはネットワーク機器の会社だ。


「まだ伸びるんで、余った金は全部突っ込んでおいてください。あとマイクロソフトにも」


 この時代、企業のネットワーク需要は急激に伸びている。今の株価は割安に見える。

 当座資金は2億円ほどある。全部突っ込んでもらって、新事業は融資で回す。現金はとても大事だ。

 最終的にはNPBの球団を買収できるくらいまで儲けたいものだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ