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灼熱の昭和にデータ野球で挑む  作者: メモ帳ぱんだ
大学編

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52/81

第52話 先輩襲来

 三月末、俺はロサンゼルス国際空港の到着ロビーで、小さな旗をパタパタと振っていた。

 国体のときに貰った奈良県旗だ。出迎えにちょうど良いものが他になかった。


 長旅を終えて到着口に姿を現した広瀬先輩は、少し疲れたような表情をしていたけど、俺を見つけるといつもの笑顔を浮かべてくれた。

 そして、俺の手元の旗に視線を落とし、ほんの一瞬だけ、怪訝そうな表情を浮かべた。でも、スルーすることにしたらしい。

 小走りで駆け寄ってきて、背伸びして、俺を撫でてくれる。背伸びしてる先輩も可愛い。


「久しぶり! 前よりも筋肉ついてる気がする!」


 空港で再会した先輩は、まぶしいくらいの笑顔でそう言ってくれた。

 今年は冬休みも、ウィンターリーグに参加していたせいで、日本には戻れなかった。なので、約半年ぶりの再会になる。

 サマーリーグとウィンターリーグ――MLBへの道を目指すなら、どちらも欠かせない重要な舞台だ。


 アメリカにいる間、俺は先輩との遠距離恋愛が続けられるかどうかずっと心配していた。

 目の前の先輩が、あまりにも可愛すぎるのだ。

 もしこの時代にミス東大があれば、四年連続でタイトルを総ナメしてるんじゃないだろうか。

 しかも勉強もできて、テニスも全国大会に出場するほど強い。


 俺が早めに告白を決めたのも、先輩が同じ日に4人から告白されたという伝説的な逸話を聞いたからだった。一日に4人から告白を受けるってどういう状況なんだろう。その日は駒場キャンパス中を駆け回って告白を断り続けていたらしい。

 このまま遠距離が続けば、いつか誰かに取られてしまうんじゃないか――

 そんな心配が頭から離れなかった。


 先輩は三年の前期、交換留学でロサンゼルスの大学に来ている。

 それなら俺の家で同棲しないかって提案してみたら、先輩もまんざらじゃない様子だった。

 でも結局、学生寮に入ることになった。どうやら、先輩のお父さんが反対したらしい。


 先輩のお母さんはすでに懐柔済み。俺の味方みたいな感じだけど、お父さんにはまだ会ったことがない。

 というか、何度も先輩の家に行ったのに、一度も姿を見たことがない。

 たぶん、24時間働けてしまうタイプなんだろう。だって夜10時くらいまで先輩の家にいた事もあるのに、一度も見た事ないし。

 この時代は、なぜか労働基準法が適用されない会社が日本中に沢山あった。


 まあ、さすがに地球の裏側までは先輩パパの監視の目も届かないだろう。

 こっちにいる間に、先輩とのラブラブ計画を進めるチャンスは十分にある。

 日本では、先輩の実家か喫茶店でしかデートしたことがなかったので今から楽しみだ。


 到着した日はきっと疲れているだろうと思って、空港からロサンゼルス郊外にある大学の寮まで、先輩を送っていった。荷物運びも手伝って、引っ越しは無事に完了。


 そして翌日、俺の部屋を見せた。

 半年間、先輩と一緒に過ごす愛の巣にするつもりで、あらかじめ少し広めの部屋を借りておいたのだ。


 案の定、先輩は俺の部屋をいろいろ物色していた。

 自分の部屋は絶対に見せてくれないくせに…。

 一つの部屋を当然のように占拠しているSun-3を見つけると、ため息をついていた。

 そして今は、冷蔵庫を開けている。


「鶏肉、卵、牛乳……ちょっと、栄養バランス悪すぎるんじゃないー?」


 俺は、これからステロイドユーザーがうようよいるMLBに挑むのだ。プロテインこそ正義。

 そんな俺の主張は聞き入れられず、先輩の要望により、急きょ近所のスーパーへ買い出しに行くことに。


 その日の夕方、先輩の手料理を振る舞ってもらった。

 名前は聞けなかったが、どうやら昔住んでいたイギリスの名物シチューらしい。

 味については――

 コメントは避けることにする。ただ、完璧超人の先輩にも、弱点があると分かっただけで、俺は少し安心した。



 ご飯を食べて、二人で食器を片付けた後。

 ふと、先輩がこちらを見て話しかけてきた。


「こっちで友達、できた?」


 少し心配そうに眉を寄せた表情だった。

 困り顔の先輩も、やっぱり可愛い。


 お、俺だって友達くらいいるし…。ジャックとかミッキーとか。


 ジャックは、俺のランニングコースの途中にある家で番犬をしているゴールデンレトリバーだ。名前は俺がつけた。

 毎朝決まった時間にその家の前を通ると、ジャックは尻尾をぶんぶん振りながら駆け寄ってくる。柵越しに鼻先を出して、俺の手をぺろぺろと舐めてくれるのが日課だ。

 番犬にまで好かれるなんて俺の天性の才能だろうな。

 ちなみにミッキーは近所のラブラドールレトリバーだ。


 俺はなんて返事をしようか迷った。

 迷った結果、返事をする代わりに先輩の眉にキスをして、お姫様抱っこで持ち上げベッドに優しく転がすことにした。


「あっ…」


 先輩が何か言いたそうだったけど、キスして口を塞ぐ。異国の地で、二人きりで初めて過ごす夜の帳が下りていった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 春季リーグは地区大会が終わりかけていた。俺は自分で言うのもなんだけど、傑出した成績を残していた。

 俺の試合には毎回スカウトが視察に来ている。

 リーグ戦で出てくる投手は大体一人か二人。

 各大学のエース級については、オフの間にビデオを入手して研究してある。


 特に、彩香が毎試合応援に来るようになってからは、俺は絶好調だ。

 ――いや、やっぱり彩香って呼び方はまだ違和感があるな。

 呼び方を変えようとしてみてるけど、なかなかしっくりこない。しばらく呼び方は先輩でいいや。



 今の時点での俺の打率は.430、OPSは1.3近辺。

 OPSなんて言っても、この時代はまだセイバーメトリクスがほとんど広まっていないので、周りに話しても伝わらないが。


 OPSは出塁率と長打率の和から求められるシンプルな指標だけど、意外にもセイバーメトリクスではかなり重要視されている。

 なぜなら、チームの得点との相関が非常に高いからだ。

 一般的にOPSが0.9を超えていれば一流、1.0を超えればMVP級の打者とされる。


 俺の集計によると今のリーグ2位は北地区の選手で、打率.464・OPS1.1。

 打率だけ見ればこの選手の方が俺より上に見えるかもしれない。でも、傑出度では俺のほうがかなり高い。

 敬遠されまくっているので出塁率はかなり高いし、長打率も彼より高いからだ。


 全米体育協会(NCAA)に所属している大学リーグは数多いが、その中でもPAC10はトップ3に入るハイレベルなリーグだ。

 このまま成績を維持できれば、どこかの球団が一巡目で指名してくれるはず。

 2年後の6月ドラフトでどれだけの契約金が提示されるか、いまから楽しみで仕方ない。


 それよりも今日の試合前に、もっと嬉しい出来事があった。

 広瀬先輩がアメリカに来てから、俺は毎日のようにプロポーズしていたんだけど——昨夜、ついにOKをもらった。

 これで先輩が大学を卒業した後は、晴れて新婚アメリカ生活が確定だ。


 先輩は「学生結婚なんて…」と最初は渋っていたけど、連日の求婚が効いたのか、ようやく首を縦に振ってくれた。

 先輩の卒業と同時に婚姻届を提出するつもりだ。


 先輩が日本で普通にOLなんてやったら、ビルの外まで求婚者の列ができてしまうだろう。


 今年の年末はウィンターリーグに出ず、日本に帰ろうと思っている。ちゃんと挨拶もしなきゃいけないしな。

 去年の冬に尼崎へ帰省しなかったことで、母から叱りの手紙も届いている。さすがにそろそろ顔を見せないとマズいだろう。


 今日の試合の後は先輩とディナーに行く予定だ。

 ランナーは三塁。ここで一本打って、かっこいいところを見せなきゃな。


 そう思いながら打席に立つ。ピッチャーを睨みつけると、背後でキャッチャーがスッと立ち上がる気配がした。いいところを見せたかったのに…。

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プロポーズ受諾おめ^^
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