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灼熱の昭和にデータ野球で挑む  作者: メモ帳ぱんだ
高校編

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40/81

第40話 逃走する庄内君

毎日更新は今日で一旦休止します。

ストックが貯まったら再開します。すみません。

 冬休み前、俺は少し困っていた。


 校内や寮の中には日ハムのスカウトは入ってこられないが、校門の外では連日待ち伏せされている。最近は裏門から出入りするようにしているので接触は減ってきたが、向こうは必死だ。そりゃそうだ。ドラフト1位の交渉権というのは、それほどまでに重い。


 あれから1か月、新聞でも「交渉難航」と報じられ、話題になっているらしい。

 普段は試合結果が1行載る程度の日ハムの名が、連日スポーツ面の見出しに踊る。ある意味で、球団にとっても宣伝になってるんじゃないか?――なんて思ったりもしたが、それはさておき、問題は冬休み中の居場所だ。


 寮が閉まる以上、学校に居続けるわけにはいかない。実家に戻るのも気が進まない。間違いなくスカウトが突撃してくるので、受験勉強に集中できる気がしなかった。

 母に相談したところ、大阪・西成の安いウィークリーマンションを借りて、一緒に過ごすことになった。


「西成」と聞くとスラムのイメージを持つ人も多いかもしれないが、実際は一部地域――つまり釜ヶ崎周辺を除けば、静かな住宅街が大半だ。

 しかも風評のせいで家賃は驚くほど安い。

 さらにいえば、労働者の釜ヶ崎もかつては70年代に暴動が頻発したが、今の治安はだいぶ良くなっている。西成は下町で人情溢れる町だ。覚醒剤の売人だらけなのは玉に瑕かもしれない。新今宮あたりで車停めてると、売人が売りにくるからな。


 そんなわけで、俺は西成で缶詰になって勉強漬けの冬を過ごすことになった。母が同じ部屋にいて、食事の準備までしてくれる。近くのホルモン焼きの名店や、やたらスーパーで買ってきた惣菜を並べてくれて、まるでグルメ旅行みたいな気分になる。

 母はホルモンの味が苦手だったらしく、2回目以降は俺の分だけを買ってくるようになった。

 代わりに、近くの派手な看板のスーパーで得体の知れない惣菜を見つけては楽しんでいる。このスーパーはタイムセールで異常な安さで惣菜を売ることが有名だが、変なものを売ることでも有名だ。

 母が楽しそうで何よりだ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 東大を受験するには、まず1月中旬に実施される「共通一次試験」をクリアしなければならない。全国一斉のマークシート式の試験で、これで7割以上取れれば「足切り」は回避できる。

 2次試験は、東京の本会場まで行かなくても各地の地方会場で受験できる。俺は大阪大学の会場で理科Ⅱ類を受けた。

 正直、どの学科でも構わない。どうせ9月には渡米するつもりだから、進学振り分けまでいるつもりはなかった。


 3月初旬、合格通知が届いた。入学手続きを郵送で済ませた後、正式に日ハムに「大学進学」を理由に断りの連絡を入れた。

 その際に「会って話したい」とは言われたが、この時期、こっちは色々と忙しいんだよなぁ。


 東大では1年と2年は駒場キャンパスで学ぶことになる。俺はキャンパスの近くにある駒場寮に入ることにした。古くてボロボロだけど、月6000円で光熱費込み、さらに食堂まである。安く暮らせるのはありがたい。

 もっとも、いくら寮の費用が安いと言っても秋にはアメリカへ行く予定だから、金はどうしても必要になる。

 大学が決まってから奨学金を申請することもできるし、向こうでも学生ローンも組めるだろうけど渡航費用や当座の生活費を考えると、数百万は用意しておきたい。


 とりあえず、日本育英会の奨学金をマックスで借りるつもりだ。

 これは中退後6ヶ月で返済が始まる仕組みなので、東大には1年間だけ在籍して、猶予期間に借りたアメリカの学生ローンで返済するつもりだ。

 アメリカの大学に9月に入学するので、東大と同時に在籍することになるが、国をまたげば二重学籍なんて誰も気にしないだろ多分。

 あと、俺の家は住民税非課税世帯なので、学費もたぶん全額免除になるはずだ。


 日本の奨学金制度はよくできていて、金利も低い。金がないからと大学を諦めるのは、実にもったいない話だと思う。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 3月下旬、俺は卒業式をブッチしてロサンゼルス国際空港に降り立っていた。

 目的は、大学のセレクションを受けるためだ。


 色々考えた結果、進学先は西海岸の大学に絞ることにした。

 アメリカは地域によって文化も価値観も全然違う。中部や南部は人種差別がまだまだ根強く、アジア人が野球をする環境としては最悪に近い。ケンタッキーやテキサスあたりは特に厳しい。

 それに英語の訛りが強すぎて、ネイティブでも暮らすのがしんどいと言われている地域だ。


 一方、東海岸と西海岸の都市部はそこまで差はない。ただ、野球に限って言えば、西海岸のほうが環境は良い。

 日系コミュニティも活発だし、人種差別も特に少ない。たとえばUCLA――カリフォルニア大学ロサンゼルス校は、その象徴的存在だ。黒人メジャーリーガーのパイオニア、ジャッキー・ロビンソンもこの大学の出身で、リベラルな学風で知られている。


 この地域では「Pac10」と呼ばれる大学リーグ戦があり、UCバークレー、スタンフォード、UCLAといった名門大学が所属している。

 ただ、そうした有名大学は、野球に関して言えば意外と成績がふるわない。リーグ内では弱小扱いだ。


 アメリカの大学野球において、3月というのはセレクションを受ける時期としてはかなりギリギリだ。多くの有力選手は高校3年の夏くらいには進学先が決まっている。

 俺レベルの選手がこの時期まで残っているケースはほとんどない。


 今はUCLAのセレクション中だ。

 日本ではまず見かけない長身のピッチャーが投げてくる速球はさすがに速い。

 でも桑原に比べれば、そこまでの投手ではない。正直、十分にやっていけると感じた。

 テストが終わると、監督が興奮気味に話しかけてきた。聞き取れないのでもう少しゆっくり話してほしい。俺はリスニングは苦手なんだ。

 奨学金が出て、授業料が免除されることが俺の条件だった。

 このリーグでは戦力均衡のため、授業料免除枠は1チームで13人までと決まっている。推薦入学の選手は30人近くいるため、その中で枠を分け合うことになる。

 この時期、すでに枠が埋まっている大学も多く、これが一番のネックになるだろう。


 その後も知り合いの記者が運転するレンタカーで西海岸の複数の大学を回った。

 どこも悪くない反応だったが、奨学金についての明言は避けられた。時期が時期だけに仕方ない。

「初年度は部分免除になるが、2年目以降は全額免除にできる」という条件を提示する大学もいくつかあった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 帰国後、三年間お世話になった高校で適当に周囲への挨拶を済ませて東京へ引っ越した。

 東大の駒場キャンパスは目黒区にある。

 駅から歩くと、ビルの隙間から副都心・新宿の高層ビル群がちらっと見える。いよいよ、東京生活の始まりだ。


 生活に必要なものを揃えたり、部屋を整えていたある日、アメリカから連絡が入った。

 UCLAからだった。


「授業料全額免除の奨学金を出す」とのことだった。


 1月にMLBドラフトで下位指名を受けた主力の3年生が、迷った末に入団を決めたらしく、その枠が空いたとのことだ。

 この時代、MLBのドラフトは年に2回行われていた。3年生以上なら国籍に関係なく指名対象になるため、留学生でも普通にプロ入りできる。


 他の大学も最後まで提案してくれたが、授業料を全額免除してくれるのはUCLAだけだった。

 俺は入学を確約する「NLI契約書」にサインし、大学宛に送った。これで進学が正式に決まった。

 9月の入学まで、心置きなく日本での時間を楽しめる。やったぜ。

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― 新着の感想 ―
半年間東京六大学野球を荒らしまくって、日ハムざまぁ!と思ったらアメリカで大学リーグ挑戦。中退して大リーグへGO。素晴らしい!早く読みたい。期待してます。
元々日本のプロ野球に行くつもりだったのがパ・リーグに行くのが嫌でメジャー行くのは斬新すぎるwww
閑話として、この期間について、第三者視点で読みたいです。 気が向いたらお願いします。
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