第39話 抽選
次話で高校編終了です。
なろうでの毎日更新は一旦明日で中断します。
別サイトでは現在66話まで連載していますが、こちらでのストックがもう少し溜まったら毎日更新を再開させていただきます。
ドラフトのテレビ中継が始まった。俺は会見の最初から会見場で待機するように言われていた。
すでに一位指名を公言されていることもあり、指名漏れはまずあり得ないという判断らしい。
他の二人は、指名が確定した後に順次呼ばれる手筈だ。
ドラフトがまだ始まってもいないのに、報道陣のカメラのフラッシュが焚かれて鬱陶しい。構図の確認か何かだろう。
今回のドラフトの注目は俺と岸原、それから社会人投手の三人。
日ハムと大洋は俺に来るだろう。
岸原は競合はするだろうが、どこが来るかは読みにくい。
名前は上がっていないが、おそらく桑原もプロ入りする。巨人は桑原と裏で話をつけて一本釣りだろう。大学進学と表明させておいて実際は一本釣り――プロ志望届制度のないこの時代の抜け道をうまく突いた形だ。
会見場の一角にはテレビが置かれており、ドラフト会議の様子が映し出されている。
ドラフト会議といえば高輪のイメージがあったが、この頃は飯田橋のホテルで開催されているようだ。
やがてドラフト会議が始まる。
巨人が桑原を指名した瞬間、記者陣からどよめきが起こる。
俺は大洋、日ハム、南海、阪神から、
岸原は中日と西武から指名が入っていた。
まず最初に俺のくじ引きが始まる。
結果、日ハムの監督が大きく両手を挙げて喜んでいた。ああ、やられたな。
俺はパ・リーグには行かないと公言していたのに、ブラフだと思われたらしい。
日ハム監督のインタビューが始まる。
俺の長打力だけでなく、選球眼や走力にも注目していたらしい。
その間にも記者からコメントを求められたので、無難な一言で返す。
「評価していただいたことをありがたく思っています。オファーの内容を聞いて考えたいと思っています」
同じような質問が続くので、教頭にアイコンタクトを送り、控え室に戻る。
控え室に戻る途中でウチの不動の四番である浜田とすれ違う。どうやら外れ一位で指名されたようだ。
控え室に戻ってテレビを見ると、岸原は西武、浜田は阪急に交渉権が渡ったらしい。
岸原にとっては辛い結果だろう。彼は筋金入りの巨人ファンで、巨人に入ることを夢見ていたからな。巨人からの一位指名の話もあったようだが、同級生に裏切られるような形になって実現はしなかった。
彼にとっては不本意な結果かもしれないが、俺の知る歴史では、彼の加入によって西武ライオンズは黄金時代を築いた。ライオンズはバブル崩壊後に傾いた西武グループ復活のシンボルとして従業員の希望となり、パ・リーグ人気の火付け役ともなる。
それと同時に、彼自身はその重圧からか鬱を患い、覚醒剤に手を出す未来を歩んでしまう。
彼がそうならないよう、後で実家に手紙でも送りつけておくか。
「シャブは辞めとけ」ってな。
浜田が外れとはいえ一位指名されたのは嬉しい。
阪急としては、スター性のある強打者を欲しがったのだろう。
とはいえ、阪急の補強ポイントは投手。浜田が真っ先に来るとは、少し意外だった。
この時代、選球眼はあまり評価されないが、彼のような打者は間違いなくプロでも通用する。
◇◇◇◇◇◇◇◇
ドラフト後、日ハムのスカウトから電話があった。
普通なら球団社長や監督が挨拶に来るところだが、強行指名なのでそれはない。
応接室には、よく見るスカウトの他に年配のスタッフが二人。編成部長とスカウト部長であるとの紹介を受けた。
彼らが提示してきたのは契約金7000万円、年俸500万円。破格というわけではないが、この時代にしては悪くない数字だ。財政状況が良くないパ・リーグと考えると破格かもしれない。
希望すれば、引退後のコーチ雇用も約束するとのこと。
「我々は君の打撃能力を高く評価しています」
……悪くない条件だ。
だが、進学の意志を伝えると、スカウトはここぞとばかりに詰め寄ってくる。
「君は大学への進学試験を受けていない。我々は大学との繋がりがある。進学はないと確信している」
通常、プロが注目するレベルの選手は秋に大学の推薦試験を受けるのが通例だ。ただ俺は推薦入学を使えない特別な事情があった。
俺は一般入試で進学するつもりだ。そして、それを公にするつもりはない。それが結果として彼らに大学進学はブラフであると思い込ませてしまっている。
答えに困った俺はパラパラと資料を捲り、その中にあった写真に目を留める。
……多摩川グランド。日ハムの二軍球場だ。
河川敷にあり、水はけは最悪。東横線が上を通っていて、試合が中断されることもある。
中学生でも使いたくないような球場を、プロが本拠地として使っている。
さすがにその認識はあるのか、すぐに鎌ヶ谷の新球場建設計画について説明し始めた。
令和になれば、あの鎌ヶ谷球場はファームの中でも評判の良い施設になることを俺は知っている。
「検討させてください」
そうだけ告げて、彼らを帰した。
その後、学校側には「今後は面会を断ってほしい」と伝えておいた。
俺が基本的に学校と寮にいる以上、正規の手段では会えないようにするために。
ドラフト1位を蹴る。円満解決なんてありえない選択だけど、俺の次のステージの為だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇
俺は、メジャーリーガーになろうと思っている。
日ハムから提示された契約金7000万円は、確かに高額だ。だが、それ以上の夢がある。
日ハムには資金力がない。年俸をどれだけ積まれても、億に届く事はないだろう。
この時代のプロ野球の最高年俸は、8,000万円を受け取っていた巨人の選手だった。
続くのは、セ・リーグを代表するスター選手。いずれも球団最高額となる7,000万円台で契約していた。
一方、アメリカでは既に年俸5億円超の選手が存在する。この差は、今後さらに開いていくはずだ。
現に俺の知る未来では、MLBの平均年俸はこの時代と比較して150倍以上に膨れ上がっていた。
だが、問題はある。
この時代、日本からメジャーに行った選手は一人もいない。
当然、メジャー球団のスカウトが俺のような高校生を見に来るわけもない。
だから俺は、自分からアメリカに行こうと思っている。アメリカの大学野球に進んで、そこからMLBを目指す。
アメリカの大学は9月入学が基本だ。
それまでの半年をただ待つのはもったいない。
だから一度、日本の大学に入っておいて、そこで野球をして、9月に退学して渡米するつもりだ。
だが、これには条件がある。野球推薦では行けない。推薦というのは個人の話ではなく、出身高校と大学の信頼関係に基づく制度だから、半年で辞めるようなことは絶対に許されない。
となると、自力で入るしかない。
金がない俺にとって、学費の安い国公立の大学一択だ。レベルの高いリーグ環境で野球ができるとなると選択肢は一つしかない。六大学リーグに所属している東京大学だ。六大学の中では成績的には最弱と言われるが、俺にとっては最高の環境だ。
学費は入学金込みで30万円あれば半年は通える。
さらに、東大にはワークステーションと呼ばれる最新鋭の高性能コンピュータが導入されている。それも大きな魅力だ。
アメリカの大学とはすでに何校かと接触していて、渡米してテストを受けることで話はついている。アメリカに赴任しているMLB担当記者の知り合いを通じて高校にも相談せずに極秘裏に動いた。
俺の甲子園でのプレー動画をVHSにダビングして、目をつけているアメリカの大学に送った。
いくつかの大学が興味を示してくれていて、3月下旬に渡米してセレクションを受ける予定だ。
なのでおそらく卒業式には出席できないことになる。
本当は年末年始に渡米したかったが、アメリカは感謝祭以降の年末は完全に仕事を止める文化がある。調整できなかったのは仕方ない。
ちなみに渡米費用は、特に興味を持ってくれている3つの大学から出してもらえる予定だ。重複して受け取るつもりなので、余剰分で東大の入学金と学費を賄うつもりでいる。
もちろん、まずは東大に合格しないと話にならない。直近の模試では科類によってはA判定が出ているから、多分いけると思う。
とりあえず、顧問には進路は「東大進学にすることにした」と説明しておくか。渡米云々は面倒なので説明するつもりはない。
早速、俺は学内で根回しを始めた。




