第32話 秋のワクワク花火大会
国体が終わっても、秋の大会は続く。チームは近畿大会に進出していた。
新チームは、より打撃が強化されている。エースは1年生の水島。俺と、もう一人の2年生が控え投手として支えている。去年のこの時期と比べても、打撃も投手力も手応えがある。
筋肉ムキムキの2年生軍団は、試合前の整列でも明らかに相手より一回り大きい。
1年にもセンスのいいバッターはいるが、今のところは2年の方が上だ。威圧感すらある。
とはいえ、一年生では例外的にエースの水島だけは打撃センスも抜群だ。
やっぱり、本当に才能ある奴は投手でも打てる。PFの桑原なんか、2年であの打線の中で二番目に打てるバッターだった。
天は時々、二物を与える。ピッチャーの才能がない俺からしたら羨ましい。
アメリカじゃ才能ある奴は野球とアメフト両方やってるって聞いたこともある。やっぱ汎用性のある才能ってやつがあるんだろうな。
さて、近畿大会で選抜出場を決めるには2勝が必要だ。PFは反対の島にいるので決勝までは当たらない。助かる。できれば、強い相手とは戦いたくない。
1年生エースの水島は1・2回戦で計5失点したけど、俺たちの打線がコールドで試合を終わらせた。ウチはビハインド慣れしてるし、打ち勝つ力はある。
2回戦、スーパー乱打戦を終えて京極球場を出ると、最近付き纏ってきて困ってる相手が話しかけてきた。
「庄内さん、例の件、考えてもらえました? ぜひ、ウチの誇るトレーニング拠点を見ていただきたくて!」
……日本ハムファイターズのスカウトだ。
ウザいので出禁にしたい。でも、プロ志望のチームメイトもいるし、無下にはできない。
「後楽園はいい球場ですよ。ぜひ、一度。あ、これ航空券の往復ギフト券です。もしよければ」
後楽園球場。東京・水道橋にある、巨人と共用の本拠地。球場はいいけど、ファイターズの扱いは正直良くない。
「いや、俺、飛行機ダメで……」
「ああ、庄内くん、飛行機が苦手なんですね! 実は飛行機の方が車よりずっと安全なんですヨ。ハハハ!」
正確な時期は覚えていないけど、伊丹ー羽田の航路、近いうちに大事故が起こる。この時代に来てからニュースで見た記憶がないので、未来の話だ。
防ぎたいけど、正確な日時を覚えてない以上は航空会社に電話してもテロリスト扱いされるのがオチ。
ただ、俺はこの航路の飛行機には絶対乗らない。知り合いにも乗らせない。新幹線があるし。
付き纏われるのが鬱陶しいので、近くを歩いていた浜田を呼びよせて、彼の猛アピールをしておいた。彼の打力はプロで通用するレベルだ。マークはされていたんだろう。
スカウトと浜田が話し込み始めたのを確認して、俺は早々に退散した。
バスの中から浜田と話すスカウトを眺める。
この時代、プロ野球球団は都市部に密集している。東京には巨人、日ハム、ヤクルトの3球団。阪神間には南海、近鉄、阪急、阪神の4球団がある。今でこそ地方分散してるけど、この時代は競争過多だった。
南海は福岡へ、日ハムは北海道へ――それぞれ野球未開の大地を切り拓く形で移転する。
ちなみにヤクルトにも移転の話があった。結局は実現しなかったけど。令和でも口の悪いアンチが「ヤクルトは新潟に移転して解散しろ」なんて言ってるのを見る。なぜわざわざ移転してから解散させるのかは謎だ。
それにしても、最近はスカウト達に付き纏われて困っている。偶に来るセ・リーグはまだいいとして、パ・リーグにはいかないと言っているのに。
人気のない球団はスターの確保に必死だ。俺が阪急ファンだと噂を聞きつけて、不人気でも来てくれると思っているんだろう。
断ってるのに、ずっと付き纏われている。でもこの状況はウチのチームメイトにとってはチャンスだろう。俺を観戦するスカウトは必然的にチームメイトを見る事になる。
特に浜田はプロでもやっていける。高校生で指名されるなら順位は高ければ高い方がいい。
ともかく、これで俺たちは春の選抜への切符を手にした。
◇◇◇◇◇◇◇◇
近畿大会は準決勝を勝ち進んでしまい、まさかの決勝戦にコマを進めることになった。
正直なところ、ここまで勝つつもりはなかった。優勝してしまえば神宮大会という、冬の罰ゲームが待っている。どうにかこの試合で負けて回避しなければならない。
決勝の相手は、因縁の相手、PF学園。メンバー交換の際に確認すると、相手はエースの桑原を出してくるようだった。一方、こちらはエースの水島を温存し、控えの二年生の小田が先発。まあ、これで負ける事ができるだろう。
試合前、俺は岸原に話しかけながら、しれっとPFの練習に混ざっていた。ウチの監督の死角に入れば、少しは自由に動ける。
「桑原の調子どうや? 練習見る限り、高校生にプロのエースが混じってるみたいな投球してるな」
「そっちは小田って二年生が投げるんやって? 監督がデータないって焦ってたわ。隠し球か?」
「質問に質問返すなや。小田はウチの隠し球エースや。」
(……まあ、実際は三番手の控え投手だけど)
俺はさらに調子に乗って、桑原本人を呼んでもらうことにした。
「庄内や。話すの初めてやな。覚えとる?」
「……桑原です。もちろん、去年打たれたホームラン、1秒たりとも忘れたことはないよ」
「そうか、公式戦で打たれたのは、まだホームラン3本やっけ? 化け物やな。確かにそのうちの2本が俺やったら忘れられんか」
「……(この化け物が)」
「なんか言うた? まあ、長い付き合いになると思うし、よろしく頼むわ」
その後も少しだけ話をしたが、会話が弾まなかった。思っていたよりも無口なやつらしい。
それとも対戦相手としての線引きをしているのか。とにかく、俺の不在に気づいたウチの監督に見つかって連れ戻されるまでの短い会話だった。
試合が始まると、ウチの隠し球エース(笑)の小田が早々に3回で4失点。このレベルの相手に出すのはちょっと早かったか。
こっちも桑原から2点は取っている。4番の浜田がタイムリーツーベースを桑原から打った。完璧な当たりだった。
とはいえ、彼以外の打者はマトモにバットにボールが当たらない。だが、それでも打ててしまうのが今のウチの打線だ。
全員が筋肉で武装した、二年生の打者たち。鍛え上げた上半身と腰の連動が生むスイングスピードは、全員が145キロを超える。
バッテリーが選択するコースはある程度データから読めている。そこに思いっきりスイングする。桑原の鋭い変化球の軌道に全く追いつけてなくても、当たれば飛ぶ。それはまるで偶発的な事故のようだ。
7番バッターがやや詰まり気味に打ち上げたボールは、ぐんぐん伸びて、ついに誰もいない外野席へと消えていった。
桑原にとって、これが公式戦通算4本目の被弾だった。
7番の詰まった球がホームランになる打線。相手からしたら恐怖でしかないだろうな。
気がつけば5回終わって、スコアは9-6。3点ビハインドで負けている。俺もしっかり1発打って、桑原の被弾記録を5本に更新し、マウンドから降ろす事にも成功する。
PFの継投策にウチも一年生の控え投手を投入して対抗する事にした。
彼はこの試合が初めての公式戦だ。
6回に両方の打線が爆発。スコアは19-12に。
俺たちは7回コールドで敗北。見事、神宮大会を回避する事に成功した。
この試合で岸原はホームラン2本、桑原も1本打っていた。やっぱり、あいつらはすごい。センバツでの再戦が楽しみだ。
今度は全力でぶつかる。




