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灼熱の昭和にデータ野球で挑む  作者: メモ帳ぱんだ
高校編

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27/81

第27話 庄内の野望 全国版

 センバツが終わって、俺はすっかり数学研究会の住人になっていた。


 といっても、やってるのは数学じゃない。去年発売された戦略SLG――『信長の野望』だ。

 俺も知らなかったんだが、初代はコンピュータ向けのゲームらしい。

 発売日に買ったんだけど、センバツ前は忙しくて触る暇がなかった。


 ファミコン最初の作品『全国版』じゃない。初代信長の野望。

 選べる大名は信長か武田の二択。しかも家臣はいないという、今となっては斬新すぎる仕様。

 でも、これがめちゃくちゃ面白い。

 内政で国を富ませて、隣国に攻め込む。「戦いは国力で決まる」ってコンセプトが高校球児の俺の心に刺さるのかもしれない。


 パソコンの横で空くのを待っている部員たちの視線がちょっと痛い。

 でも、俺が使ってるこの機体は、「いつでも使っていい」って許可をもらってる正規の席だ。文句を言われる筋合いはない。


 なんで俺がここに入り浸ってるのかって?


 理由は簡単。

 今日はロッテのスカウトが練習を見に来るらしい。

 できれば接触したくない。できるだけ目立たないように、ここに避難してるってわけだ。


 ロッテオリオンズ――この時代のパ・リーグでは、ある意味一番話題性のあるチームだ。

 あの「三冠王」がいる。将来、中日を優勝に導く、昭和~平成にかけての伝説的打者。プロ野球最初の一億円プレイヤー。ボウリングの腕もプロ級。

 興味がないわけじゃない。むしろ、野球選手としては憧れてる。


 でも……パ・リーグってのは、やっぱり不遇だ。

 注目度が低い。テレビ中継も少ない。

 目立ちたいなら、やっぱりセ・リーグだ。


 そんなことを考えていたら、ドアが乱暴に開いた。


 蛮族《野球部》が入ってきた。

 俺が神聖な数学研究会で戦国大名プレイに耽っているのに、土足で踏み込んできやがって。


「監督が呼んどるぞ」


「今日は体調が悪いんや」


「大洋のスカウトがお前と顔合わせしたいらしい」


 ……大洋ホエールズか。

 横浜を本拠にする、セ・リーグの球団。ちなみに、めちゃくちゃ弱い。


 でも、セ・リーグだ。それだけで、合格。


 仕方ない。俺はゲームをセーブして、グラウンドに向かった。


 案の定、先に来ていたロッテのスカウトが、嬉々として俺に話しかけてくる。


 ここは演技のしどころだ。俺はうちのエース・富浦先輩を大絶賛しておいた。

「桑原に匹敵する逸材です!」「世代最高の投手!」「僕なんてドラフトで指名する価値ありません!」


 しばらくすると監督がやってきて、大洋のスカウトを紹介してくれた。


 この瞬間、俺は態度を切り替える。


「ホエールズさん、いつも応援してます!」

「スーパーカートリオの走塁、神業ですよね。あの足を活かした野球、憧れます!」


 ――スーパーカートリオ。ホエールズの誇る三人の俊足外野手だ。

 彼らの奮闘虚しく、チームは毎年のように最下位争いをしてるけど。

 でも、そのうちの一人は令和の時代では立派なYouTuberになってる。


 俊足が売り。立地最高。本拠地は横浜スタジアム。そして、クソ弱い。

 それがホエールズ。


 まぁでも、俺はちゃんと媚びておいた。

「セ・リーグ志望です」ともしっかり伝えた。


 その様子を見て、横でロッテのスカウトがぼやく。


「おい、俺相手と態度違わないか?」


 無視だ、無視。

 戦略ってのは、こういうとこから始まってるんだよ。


 ただ、スカウトはたとえパ・リーグでも来てくれるだけありがたい。

 俺以外にもプロ志望のチームメイトは多いし、目立っておけば、誰かの目にも止まる。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 センバツは――まさかの鉄道高校優勝だった。


 スコアは0-1。超がつくほどの接戦を制して、PFを完封。まさか、あの怪物打線をゼロで抑えるとはな。

 正直、俺たちもデータがなくて困ってた。戦ってたら、こっちも似たような結果だったかもしれない。

 エースの名前を見て、記憶の奥が少し反応した。たしか、あの選手はプロに行った気がする。そこまで活躍していないのか成績は思い出せないが。

 ともあれ――唯一、桑原を炎上させた俺たちの価値は、むしろ上がったってわけだ。


 さて、季節はもう四月。

 今年の一年生、入学式の前から練習に顔を出してる奴らが何人もいる。

 その顔ぶれが、先輩たちとは素材の次元が違う。こりゃすごいぞ。

 原因は明らかだ。夏の徳島三好との接戦が大きいだろう。あと、俺の地道なネガキャンの成果。

 PFの実態が、じわじわと世間に漏れ始めている。あのKKコンビが報道されているのに伴って、あまりにも昭和な環境がバレつつある。

 そりゃ、殴られたい高校生なんていないし、トイレの水を飲まされたい奴もいない。


 加えて――「飛鳥台ならレギュラーが取れる」と思わせたのも大きいだろう。

 投手は野手の俺が投げてるくらいの人材難。守備もガタガタ。

 自信あるやつなら、こっちに来る。


 新入生はさっそく筋トレにぶち込んで鍛え上げている。

 中でも注目は水島。新入生にして、富浦先輩に匹敵する能力がある。先輩には言えないが、こいつはプロに行ける。

 打撃も良い。守備もいい。球も速い。

 天才ってやつは、投手以外のこともなんでもできるんだよな。

 一年の野球推薦組は、総じて守備力が高い。今からでも、2年と交代させたら守備固めくらいにはなるだろう。

 鍛え上げたら夢のパワー打線が、ついに実現するかもしれない。


 今日は珍しく、ウチのスカウトがグラウンドに来ていた。

 今年の一年生を獲得した手腕を褒めておいた。うちが強くなったのは、この専属スカウト制度のおかげだと思う。

 スカウトを監督が兼任してるようなチームじゃ、ここまで人は集まらない。

 彼曰く、今年は本当にやりやすかったらしい。


 俺の入った頃なんて、5年甲子園から遠ざかってた元強豪校だったからな。

 でも今は、「夏の実績」と「自由な校風」が売りだ。

 この学校、進学校だけあって校則がゆるい。野球部も、それに引っ張られてゆるい。


 水島は大阪市内のシニア出身で、PFからも声が掛かっていたらしい。

 他にも、PFに流れそうなトップ選手を3人確保したとのこと。PFの噂も活用したようだ。いつもニコニコしてるが――やっぱり、腹の中は真っ黒だったな。


 グラウンドで一年生を見ていると、見知った髭面がグラウンドの隅からこっちを眺めていた。

 近寄る。スポーツ雑誌の記者だ。甲子園で突撃取材されて、そこから知り合った。

 ウチはPFと違って外出規制なんてない。

 俺ほど、自由に西宮をフラフラしてる高校球児も珍しいだろう。まぁ地元だし。


 彼の今回の目的は、飛鳥台の取材はついでで、本命の目的は別にある。


「今年の新入生、いいですよ! 一年生エース、あるかも!」


 軽口を交わす。


「で、例のものは準備できているかい?」


「準備できてますよ。監督ー! ちょっと抜けますねー!」


 彼が求めてるのは、地方大会のVHS。

 この時代、在阪メディアは全国に強い取材網があるわけじゃない。

 俺のアーカイブで、それを補う。指定された高校の試合、全部ダビングしておいた。

 記者と仲良くすることには明確なメリットがある。

 雑誌の記者ってのは、いろんなところにパイプがある。

 表に出てない話を、拾ってこれる。


 俺はチーム戦力分析も提供している。編集部内でも「使える」と評判らしい。

 彼らと仲良くなっておいて損はない。ペンは剣よりも強い。

 世論とメディアを敵に回して、プロ野球選手なんてやってられない。


 例えば巨人にルールの穴、「空白の一日」を利用して入った投手がいい例だ。

 一昨年の成績は20勝6敗、文句のつけようのない成績だ。

 でも、沢村賞は取れなかった。世論、そして記者に完全に嫌われてたからだ。

 この時代は沢村賞は記者投票だった。


 だからこそ、記者と仲良くしておく。

 何かあったとき、守ってくれるのはああいう人たちだ。

 記者が大量のVHSを車に詰め込んで帰っていくのを見送ったあと、

 今度、編集部に正式に挨拶に行くことを約束した。


 そして午後には、明治大学のコーチが来ていた。

 江崎先輩が入団した縁での挨拶らしい。

 しっかり媚びを売っておいた。

 パ・リーグ行くくらいなら、大学のほうがマシだと思っている。

 ツテは広く持っておいて、損はない。

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― 新着の感想 ―
この時代の明大も結構なアレだった気がする
この時代にネタため込んでおけば、野球芸人やらYouTuberで食えそうな勢い。
データじゃなくてコネと人脈で挑んでるw
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