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灼熱の昭和にデータ野球で挑む  作者: メモ帳ぱんだ
高校編

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19/81

第19話 激まずプロテイン

 夏の甲子園は、1年生のKKコンビを擁するPF学園が優勝した。岸原と桑原、1年がエースと4番で優勝できるっておかしい。この前まで中学生だよ。彼ら2人はそれぞれ一人一人が過去最強の一年生ではないだろうか。


 徳島三好は、エース大嶋で勝負に出たが0-7で完封負け。あの化け物打線をゼロに抑えるPFの投手力と守備力に戦慄した。


 三年は引退して、今は新チームが始動してる。

 俺は監督に直談判して、練習メニューに手を入れることに成功した。


「野球に必要な筋肉は野球でつける」ってのが、この時代の常識だった。筋トレは動きを鈍くするとか言われていて禁止されている学校も多かった。プロ野球選手も線が細い選手が多い。ただ、日本の野球のレベルはどんどん高くなっていて昭和初期のようにビール腹の選手とかは混じっていない。それでも俺の目から見ると純粋に筋肉量が足りない選手しかいないと言う感想だった。


 俺は、筋トレは必要だと信じてる。飛距離を伸ばすために必要なのは、主に腕、背中、体幹の筋肉。腕と背中でスイングスピードを上げて、体幹でフォームの安定性を助ける。


 筋肉は超回復のタイミングが部位ごとに違う。そういうのも考慮した上で、野手全員に筋トレを導入した。


 最初はみんな「筋肉で飛距離が伸びる」という事に半信半疑だったけど、俺の飛距離と筋肉を見せつけて説得した。そしたら、筋肉痛の快感に目覚めたのか、今では自分から追い込んでる奴もいる。


 プロテインは部費で購入して、練習後に飲ませてる。ただ、昭和のプロテインはクソまずい。エグ味があるし、ダマになって全然溶けない。俺は海外から取り寄せたグレープ味のやつを飲んでるけど、これは経費で買えないからみんなには飲ませてない。申し訳ないが、耐えてくれ。


 で、野手全員の筋トレとは別に、3人だけ特別メニューを組んでもらった。1年の浜田と、2年の大迫先輩、宮内先輩。ちなみに宮内先輩は新キャプテンだ。


 彼らを選んだ理由は、守備が水準を超えてるからだ。

 今までの方針と矛盾するようだが、野球で最も大事なのは守備力だ。守備力が低すぎるとエラーだらけで勝負にならない。

 この4人は、守備力が高く打撃特化の練習してもよいと判断した。


 全員にアッパースイングを教えてる途中だ。理想的なバレルゾーンに当てれる入れるスイング。問題は、フォーム変更には時間がかかるってことだな。だから地道にやるしかない。


 その日の練習、フォーム指導していると、監督のとこに誰か近づいてきたのが見えた。しばらく話してから、監督が俺を呼んだ。


 行ってみたら、見たことある顔だった。名前は知らんが、西宮球場で夏になると外野席でバーベキューやってる集団がいて、そこの胡散臭い野菜焼きおじさん。ずっとニコニコしてる変な人。


「やあ庄内くん、大きくなったね」

「……どちら様でしたっけ?」

「改めて自己紹介を。阪急ブレーブスのスカウトをしてる鈴木だよ」


 は? このおっさん、阪急のスカウトだったのかよ。というか、球団の人間があのバーベキューに混じってたのかよ…。

 球場でのバーベキューは球団黙認なのか?


「これ、ご所望の色紙だよ。ウチの田中も会いたがってたから、また招待させてね」


 そう言って田中選手のサイン色紙と、サイン入りユニフォームまで手渡してくる。憧れの沢村賞投手のものだ。阪急ファンじゃなくても、球児なら誰でも大喜びだ。


 でも俺は静かに言った。

「ありがとうございます。でも……俺、パ・リーグに行くつもりはないんです」


「ははっ、まぁまぁそう言わずに。今日は練習見せてもらうね!」


 たぶん、こんなこと言われ慣れてるんだろうな。めちゃくちゃ軽い対応だった。


 一応、ウチの有望株のキャプテンの宮内先輩を紹介した後に、練習に戻ったけど……あんまり身が入らなかった。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇


 甲子園から帰ってきてから、あっという間に秋季大会が始まった。

 この大会は春の選抜甲子園に繋がる、いわば予選だ。奈良からは上位二チームが近畿大会に進むことができる。そこで勝ち上がることで、甲子園への「選抜」を勝ち取ることができる。


 近畿大会の枠は基本的に6枠。1勝すれば半々くらいの確率で選ばれるが、確実に決めるために2勝して準決勝に進みたい。というのも、「大阪枠」や「公立枠」みたいなものが存在してるという噂もあって、1勝じゃ何が起きるか分からないからだ。


 俺たち飛鳥台高校は、2回戦からシードで出場し、ここまで快進撃だった。


 2回戦:奈良高専 1-15x 飛鳥台(5回コールド)

 3回戦:飛鳥台 12-2 大和中央(5回コールド)

 準々決勝:郡山 5-15x 飛鳥台(5回コールド)

 準決勝:五條 2-6 飛鳥台


 …若干、失点が目立つ気はするけどな。

 俺個人はというと、打率.650、ホームラン4本。投手としては6回を投げて2失点、防御率3.00。悪くない。

 筋トレと打撃練習ばっかりしてるせいで、ちょっと制球が乱れてたのは内緒だ。


 ちなみに、俺が打撃特化メニューを組んだ三人衆――浜田、大迫先輩、宮内先輩――はフライを量産中。フォーム変えたばかりだし、筋肉もまだ育ってないから仕方ない。春には花咲かせる予定だ。

 …監督の目が若干冷たかったが、そこは無視で。


 そして、決勝。

 もう近畿大会の出場は決まってるけど、こっから先が本番だ。

 県大会を1位で通過しないと、近畿大会で他県の強豪と初戦で当たるリスクが高くなる。原則、1位校vs2位校で初戦の組み合わせが組まれるからな。弱い相手と当たりたい。


 今日の相手は、天理の丹波市高校。

 ここのデータは揃いまくってる。ウチの相手になるのは、奈良県内では丹波市高校と五條高校しかないからな。

 顧問、俺、そして保護者ボランティアの三人体制で取ってきたデータをPCに打ち込んで、しっかり対策を立ててる。


 丹波市のエースは全試合完投。つまり、この試合はエース以外はあり得ない。


 準決勝の録画を全員で見てワイワイやってる横で、俺は同じ一年の浜田に変化球ごとのフォームの違いを叩き込んでいた。コイツは目がいい。俺の理想の打者に育つかもしれない。


 ただし、投手陣はというと…

 富浦(二年) 11回、防御率2.45

 坂田(二年) 5回、防御率9.00

 庄内(一年) 6回、防御率3.00


 全国レベルのエース不在。これは正直キツい。

 で、今日はなぜか俺が先発。監督は特に理由を語らなかったが、多分、近畿大会で相手になる高校の偵察を混乱させる嫌がらせだと思う。

 バックネット裏にいっぱいいるし。


 打順は7番。


 一回裏、マウンドに上がって初球。アンダースローからシンカーを…

 あっ、すっぽ抜けた。デッドボール。すみません。


 その後は粘りながらもリードを守り、4回までで4-1。

 打撃の方はツーベース一本。


 4回裏、二巡目の打者が立ってくる頃には、丹波市高校の作戦がはっきりしてきた。

 どうやら、俺のアンダースローに慣れるために徹底的に「待球」してきているらしい。初球からほとんどバットを振らない。ストライクを見送ってでも、フォームと球筋に慣れる時間を取ろうというわけだ。


 …理にはかなってる。アンダースローは初見だとタイミングが取りづらいし、変化も独特だ。じっくり見てくるのは悪い作戦じゃない。けど、そこで俺は逆手に取る。


「なら、アンダースローやめよーと」

 …というわけで、ここで秘密兵器の投入だ。


 俺は何の前触れもなく、オーバースローに切り替えた。

 大きく振りかぶって、思い切り腕を振る。140km/h近いストレートがズドンとミットに収まり、スタンドがざわついた。


 俺は前世で怪我をするまではオーバースローの本格派投手だった。

 アンダースローとの緩急差。遅い投手の後に速い選手を出すことがよくあるが、それを一人でやる。セルフ緩急ってやつだ。

 コントロールはガバいので、ど真ん中狙い。打たれても仕方ない。もう少し球速を出せそうだが、制球が終わるのでセーブしている。

 それでも、相手は初見殺しにやられ、ざわついている。伝令も出てきた。


 バックネット裏で試合を観察していた偵察の高校関係者たちが、一斉に筆記に走る様子が目に入る。

「突然フォーム変更」「アンダーとオーバー併用」——備考欄にはきっとそんなメモが並んでいるだろう。


 さらにもう一球。再びオーバースローでインコース高めのストレート。まぁど真ん中を狙っただけだが。

 打者は全く反応できない。あまりに急な変化に体が止まっている。

 タイムがかかり、伝令がマウンドにやってくる。ここで完全に相手ベンチの流れが乱れた。


 この奇策の目的は、実は打者だけではない。

 本命は、今日バックネット裏に詰めている偵察部隊だ。

 近畿大会に進出する飛鳥台の情報を少しでも早く集めようと、各県の強豪校がスコアラーを送り込んできている。

 彼らに「この投手はオーバースローとアンダースローを使い分ける変則型だ」という印象を植えつけることが、今日の真の狙いだ。


 実際は違う。

 このオーバースローは精度もまともな変化球もなく、投げられるのはせいぜい打者一巡。何よりストレートとシンカーしかない。対策されたら二度は通用しない代物だ。

 けれど、存在しない本格派の速球投手へのフォームチェンジを「ある」と思わせて、各校が無駄に分析リソースを割いてくれれば儲けものだ。


 思惑通り、偵察の視線は試合中盤から完全に俺に集中していた。


 よしよし、でもこのオーバースローは今回だけだ。

 こっちは変化球1つしかないんだ、対策取られたら終わりだからな。


 相手の動揺をついて、6回まで追加点を与えずに降板。

 坂田先輩に交代して、俺はセカンド守備へ。


 最終的には8回に坂田先輩が少し燃えたものの、10-5で勝利。


 今日の俺の成績は6打数3安打2打点、投手としては6回1失点。

 まぁまぁかな。次はいよいよ近畿大会だ。

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