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召喚ボッチは、サクッと強くなって、サクッと魔王を倒して、速攻家に帰りたい!~クラスみんなで魔王を倒す? そんな修学旅行&体育祭みたいな地獄のイベント、無理無理無理!~  作者: 優木凛々
第2章 ボッチは何としてでもパーティを組みたくない!

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01.早く帰りたいボッチ vs セクハラ貴族(1)

 

 大騒ぎの召喚初日から7日後の早朝。


 朝日の差し込む大きな食堂で、太一は1人朝食を食べていた。

 今日は味が若干薄いスープと、から揚げっぽい肉とパンだ。



(マズくはないんだけど、美味しくもないよな)



 そんなことを考えながらモソモソと食べていると、廊下の方から人の笑い声が聞こえてきた。

 食堂に向かって迫ってくる。



(……今日は早いな)



 彼は素早くトレイを片付けると、カウンターに並べてあるお茶のポットを取った。

 フードを被って軽く息を吐く。


 その瞬間、すっと彼の気配が薄くなる。


 彼は足音を忍ばせながら廊下に出た。

 前方を見ると、女子が5人ほど、キャピキャピとおしゃべりをしながら歩いて来ている。


 彼は片手でフードをぐっと引っ張ると、彼女たちの横を早足で通り抜けた。

 後ろに遠ざかっていく声を聞きながら廊下を走るように進む。


 そして、自室の鍵を開けて中に入ると、はあっとため息をつきながら、ドアを背にずるずると座り込んだ。



「今日も試練を乗り越えたな」




 *




 召喚の2日後、

 太一たち異世界召喚者たちへの教育が始まった。


 午前は、この国のことなど必要な知識を教えてくれる座学、午後は体を動かす訓練で、夕方以降は自由。

 こうした色々な訓練を続けた後、パーティを組んでダンジョンに潜るなど実戦を重ねていくらしい。



(パ、パーティだと……!)



 この話を聞いて、太一は身震いした。

 体育でチームを組めと言われて1人あぶれた苦い思い出がよみがえる。



(……でも、もしかして、こっちではボッチを卒業できるかもしれない)



 日本にいる時の自分は、クラスから完全に存在が消えていた。

 何の取柄もなかったし、目立つようなところもなかったからだ。


 でも、今回は召喚早々色々と目立った。

 動機はアレだが、存在を認知されたとは思う。



(これは、ひょっとしてボッチ脱却なるのか……?)



 期待してはいけないと思いつつ、期待で胸を膨らませる太一。



 しかし、現実は甘くなかった。



「南田君、すごかったね!」

「驚いたよ!」



 突然、クラスの1軍女子たちに声を掛けられたのだ。


 太一は動揺した。

 誰か話かけてくれたらいいなとは思ったが、いきなり難易度SSSが来てしまった。

 せめて最初はオタク男子あたりが来てくれよと思うが、どうしようもない。


 しかも、



「南田君って、狩猟師だよね?」

「スキル何なの?」



 とスキルについて問われて、彼は更に動揺した。

 ここで「死んだら最強になれるスキルだよ!」なんて言って、「うわっ、きもっ」なんて言われたら、自分はきっと立ち直れない。



(そ、それだけは回避しないと!)



 という訳で、



「こ、これは闇に葬られし禁忌の情報だ」



 と、精一杯の冗談で誤魔化したのだが、



「え、何それ……」



 とドン引きされてしまった。


 そして、この件以降、何となく話しかけにくい雰囲気が出来てしまったらしく、太一は異世界でもボッチ道を突き進むことになってしまった。



(くっ……、やはりこうなるのか……)



 ガックリと肩を落とす太一。

 さっさと死んで魔王を倒して日本に帰らねば、と強く思う。



(でも、問題はどうやって死ぬかだよな……)



 講義に行く準備をしながら、太一は思案に暮れた。


 初日こそ色々あったが、以降は平和に過ぎており、死ぬチャンスがあるとは思えないのだ。



(やっぱりダンジョン探索とかに行かないとダメか。でも、ダンジョン探索の前にパーティを組めとかいう話になるしな……)



 そんなことを考えながら廊下に出て部屋に鍵をかけると、のんびりと歩き始める。


 そして、講義が始まるギリギリに教室に入ると、一番後ろの端の席に座って講義を受け始めた。

 今日の内容は、身分制度についてだ。


 ここナーロッパ王国は専制君主制で、厳格な身分制度があるらしい。

 侮辱罪というものが存在し、上級貴族や王族に無礼を働いたものはその場で手打ちにされても文句は言えないという。


 講師役の文官が声を張り上げた。



「どうか口の利き方や礼儀には十分ご注意ください。家の名誉にかかわるため、上位貴族の決めた侮辱罪については王家と言えども口出しが出来ません」



 どうやら、使用人など過去手打ちにされた者が結構いるらしい。


 クラスメイトたちからざわめきが起こった。



「怖いな、江戸時代の切り捨て御免かよ」

「人権とかないんだな」

「貴族には近づいちゃだめってことだね」



 そんな声が聞こえてくる。




 そんな中、太一は思った。

 あれ、もしかしてこれ、ものすごくいい話じゃないか? と。



(つまり、王族とか上級貴族を侮辱すれば手打ちにしてもらえるってことだよな)



 問題は、ただ侮辱して手打ちになってもダメで、誰かのために手打ちにならなければいけないってところだ。



(ここが難しいんだよな)



 ただ侮辱するのは何とでもなりそうな気がするが、人のためというのが難しい。


 加えて、太一は召喚者だ。

 恐らく、そう簡単には手打ちにはならない。



(かなり思い切って侮辱しないとダメってことだよな……)



 そんなことを考えていた、そのとき。



「お、お止めください!」



 後ろの扉の方から、微かに女性の声が聞こえてきた。



(ん? なんだ?)



 太一はピクリとなった。

 狩猟師である太一は耳が良く、かなり遠くの声も聞こえる。


 気になって耳を澄ましていると、戸惑ったような女性たちの声が聞こえてきた。



「そんな、ダメですお許しください!」

「お、お待ちください! そんなことされたらこの子が可哀そうです……!」



 悲鳴に似た叫び声が聞きながら、太一はピンときた。

 これは、セクハラ貴族がメイドに嫌がらせしてるやつじゃないか? と。


 彼の頭に瞬時にロジックが組み上がった。


 ――――

 セクハラ貴族を成敗する

 ↓

 侮辱罪で手打ち

 ↓

 最強!

 ↓

 サクッと魔王を倒して帰還!

 ――――



(キタコレ!)



 太一は思わず、ガッツポーズを決めた。

 スキルが発動したらしく、お腹の中に火が灯る感覚と共に万能感がみなぎってくる。



(行くぞ! セクハラ貴族を思い切り侮辱して手打ちコースだ!)



 ガタン、と大きな音を立てて席を立つと、講師とクラスメイトたちが、驚いたようにビクッとした。



「どうしました? ミナミダ?」

「あいつ急に立ってどうしたんだ?」

「トイレかな?」



 そんな声など物ともせず、彼は床を蹴って走り出した。



「ま、待ちなさい! ミナミダ!」

「え、あの子どうしたの?」

「どこ行くんだ、アイツ」



 後ろからそんな声が聞こえるが、気にせず声の方向に全速力で走る。

 目を丸くする使用人たちとすれ違いながら廊下を疾走し、裏庭に出る。


 そして、



「ちょっと待った!!!!」



 と叫びながら、物陰で揉めている人々の前に飛び出した。



「お前! 何をしている!」



 太一を見て、メイドたちの目が大きく見開かれた。





本日はここまでです

お付き合いいただきましてありがとうございます

それでは、また明日!


ちなみに、第1、2章が王宮編、3章が街へGO!編、4章が野外へGO!編、といった具合に続いていきます


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