05.違いが分かるボッチ vs 分からせられる王女(2)
パーティ会場に向かう少し前、
バカンス王女は、自分の執務室で「異世界勇者一覧」をながめていた。
「なるほど、あの少年は“ミナミダ タイチ”というのですね」
その名前を見ながら、王女は思った。
わたくし、この少年ちょっと苦手ですわ、と。
最初にガツンとやって上下関係を分からせようという目論見を台無しにされ、彼女は少し機嫌が悪かった。
そばに立っていた眼鏡の側近が口を開いた。
「ああいった勇気のある若者の扱いは気を付けねばなりません。仲間を扇動する可能性もあるかと」
「そうですわね。我々に従順なうちはいいですが、反抗するようなら、他の勇者たちから隔離することも考えた方がいいかもしれませんわ……」
実のところ、ボッチの彼は何もしなくても隔離状態なのだが、それはさておき。
そんなことを考えながら、王女はパーティ会場に向かった。
入って早々太一と目が合い、何気なく逸らす。
(……やはり苦手ですわ)
そんなことを思う。
しかし、そんな王女の心のうちなど吹き飛ぶような事件が起きた。
乾杯の際に、太一がいきなり飛び出してきて、盃を王女から引ったくって飲み干したのだ。
「えっ!? ええええええ!?」
場が凍りつく。
王女は驚きすぎて思わず口をパクパクさせた。
何をやっていると問いただそうにも声が出ない。
そんな中、太一が、ドサッと倒れた。
側近がやってきて、盃に猛毒が入っていたことを告げる。
「な、何ということですの!」
その身を挺して自分を守ってくれた献身的な行動に、王女は激しく後悔した。
一瞬でも彼を隔離しようなどと思った自分を、とてつもなく恥じる。
誰かがボソッと、「別に飲まなくても良かったんじゃね?」と言うものの、そんな言葉など聞こえない。
彼女は白い顔でうわごとをつぶやく太一の手を握りながら、大声を上げた。
「誰か! 陛下の魔術師を呼んで来て! 王国の名誉にかけても絶対に彼を死なせてはいけません! それと盃に毒を入れた人物をなんとしてでも見つけなさい!」
* * *
その後、太一は治療室に運ばれた。
彼が飲んだ毒は、王女だったら即死するレベルの猛毒だったが、
どうやら異世界人は毒への耐性が強いらしく、太一はあっさり回復した。
ふらりと倒れたのは、単にアルコール度数が高かったかららしい。
翌日猛烈な二日酔いに耐えながら、事の顛末を聞いて、太一は無言になった。
絶対に死ねると思って盃に飛びついたのに、まさか酔っぱらって倒れただけだとは!
しかも、腕の良い魔術師たちに手厚く看護されたせいか、すこぶる体調が良い。
(おかしい、なぜこうなった)
しかも。
「わたくしを救った褒美に、あなたに『幸運の指輪』を与えますわ」
なんと、『幸運の指輪』なるものをもらうことになってしまった!
言い伝えによると、装着した者の運の良さを向上させ、死から遠ざける効果があるらしい。
(こんなの付けたら死ねないじゃん!)
心の底から要らないと思うものの、王女から
「貴方のような正義感の強い向こう見ずな若者には必要なものですわ。ぜひ身に付けてください」
と照れ顔で言われてしまうと、断ることもできず、
彼は渋々『幸運の指輪』をつけることになってしまった。
(本当に死ねるのか……?)
召喚されて早々、色々と不安になる太一であった。




