04.居たたまれないボッチ vs フィールドワーク(4)
リリアが出て行ってから、女子3人は小屋の中に入った。
次元収納付きのウエストポーチから、めいめい飲み物や食べ物を取り出すが、どうも食欲が出ない。
萌がため息をついた。
「行方不明になった暗殺者って、本能寺君だよね」
「いつもふざけてるから、今回もふざけちゃったのかもしれないね」
「ん。ありえる」
本能寺春馬はクラス一のお調子者だ。
基本的に先生の話は聞かず、異世界召喚されて早々、暗殺者のスキルを悪用して女子の部屋をのぞこうとして大騒ぎになったりもした。
ちなみに、パーティを組む際に、斥候役を男子から選ぶ際に、
“明るいがお調子者&のぞき魔の本能寺春馬 vs 普段は大人しいがたまに行動原理が意味不明な南田太一”
という究極の選択で、太一に軍配が上がった、という経緯もある。
とまあ、色々な経緯もあり、
女子3人は、やや複雑な気持ちで心配をしていた。
暗い雰囲気の中、萌が立ち上がった。
「今のうちに、魔石を数えようか」
「そだね。結構いっぱいあるもんね!」
「ん。私、南田君呼んでくる」
そして、ドアが開いて結衣と太一が一緒に入ってこようとした、そのとき。
「キャー! 誰か助けてー!」
森の奥から、女性のけたたましい悲鳴が聞こえて来た。
「え!? なに!?」
「今の何の声!?」
女子たちが動揺していると、太一が3人の目を見た。
「ちょっと様子を見に行ってくる」
いつもの伏しがちな目ではなく、強い意思を感じる目に、萌は驚きを覚えた。
まるで別人のようだ。
しかし、リリアにここで待てと言われた以上、それを破る訳にはいかない。
萌が厳しい顔つきで反対した。
「ダメよ、リリア先生がここで待ってろって言ったじゃない」
「そんなことを言っている場合じゃない! 聞こえないのか、あの悲鳴が!?」
いつものボソボソした口調など嘘のように、太一がハキハキと訴えかける。
そうしている間にも、
「お願い! 誰か助けて!」
という悲鳴が聞こえてくる。
梨花が萌の手を取った。
「行こう! わたしらに無理だったら誰か呼びに行こう!」
「ん。放っておけない」
太一が焦ったような顔をした。
「いや、危険かもしれないから、僕1人で見て来るよ。みんなはここで待ってて」
彼の自己犠牲的な言葉を聞いて、萌は決心した。
そこまで言われたら、行くしかない。
「わかったわ。行きましょう。でも、無理だったら助けを呼びましょう」
「え? いや、本当に僕1人で行ってくるよ」
「そこまで言われて、1人で行かせる訳にはいかないでしょ!」
「…………ハイ」
4人は、索敵のできる太一を先頭に走り出した。
そこまで遠くないらしく、地響きや唸り声がどんどん近づいて来る。
(いざとなったら、避難小屋まで逃げられそう)
そんなことを考えていると、太一が大きな岩の陰に身を隠した。
女子3人もそれに倣って身を隠して、そっと岩陰から音がする方をのぞき……
「「……っ!!!!!!」」
思わず大きく息を飲んだ。
そこにいたのは、とてつもなく巨大な黒クマだった。
背丈は大人の男性の2、3倍はあろう大きさで、大きく開けた真っ赤な口にはナイフのような鋭く尖った歯が光っている。
黒クマの前には、傷だらけでフラフラの男性が剣を構えており、その後ろには3人の男女が倒れており、女性が1人必死で介抱をしている。
男性を睨みつけながら、黒クマが咆哮を上げた。
ガアアア!!
「……ッ!」
思わず叫びそうになって、萌は慌てて口を両手でふさいだ。
あまりに凄まじい光景に、脂汗がダラダラと流れる。
他の2人も同様で、驚き固まっている。
(こ、これは私たちの手に負えないわ、だ、誰か呼んでこないと!)
そして、他の3人にそう言おうと振り向き、
(……あら?)
萌は目を瞬いた。
いつの間にか太一がいなくなっている。
どこに行ったの、と2人に尋ねようと口を開きかけたとき、
ギャアア!!!!
黒クマが叫びながら右腕を勢いよく上げた。
その腕を、フラフラになって立っている男性に向かって、振り下ろそうとする。
「キャー!!!!」
後ろにいた女性が悲鳴を上げる。
「あ、あぶない!」
萌は固まった。
もうダメだ、と目をつぶった。
――そのとき。
「ちょっと待ったー!!!!!」
聞き慣れた声が森の中に響いた。
カッカッカッ
という何かを弾くような音がした瞬間、黒クマの腕に矢が3本突き刺さる。
ギャアアアア!!!!
黒クマが腕を押さえて叫ぶ。
そんな中、熊の背後に弓を構えた太一が飛び出し、大声を出した。
「クマ公! 俺が相手だ!」
「え、えええええええ!!!!!」
萌と2人の驚きの声が、森にこだました。
** *
「キャー! 誰か助けてー!」
森の奥から、女性のけたたましい悲鳴が聞こえて来たとき、
太一の頭の中に、一瞬で以下のロジックが組み上がった。
――――
森でピンチの冒険者を助ける
↓
やられる
↓
最強
↓
ソロで魔王討伐して日本に帰る!
――――
(キタコレ!)
『思い切りがちょっと良くなる』スキルが発動し、体中が世界征服でもできそうな万能感に満たされる。
彼は女子3人の方を向いた。
「ちょっと様子を見に行ってくる」
彼としては、そのまま走って助けに行き、サクッと死んで、サクッと最強になる予定であった。
しかし、そうは問屋が卸さない。
なぜか、3人が付いてこようとする。
太一は焦った。
3人が一緒では、サクッと死ねなくなる可能性がある。
「いや、危険かもしれないから、僕1人で見て来るよ。みんなはここで待ってて」
そう説得するものの、なぜか、「そこまで言われたら行くしかない」などと言われ、一緒に行くことになってしまった。
(くそっ、なぜこうも上手くいかない!)
そして、3人を連れて走っていくと、そこには巨大なクマの魔獣がいた。
中くらいのトラックくらいありそうで、いかにも獰猛そうだ。
(おおおおおお!!!!!)
岩陰に隠れてクマをながめながら、太一は密かにガッツポーズを決めた。
今まで死のうと思って様々なものに立ち向かって来たが、それらと比べものにならないほど「死」の可能を感じる。
そして、彼は気配を消して3人から離れると、矢を放ちながら飛び出した。
「クマ公! 俺が相手だ!」
今すぐにでも殺られたいところではあるが、太一は気を引き締めた。
『覇王蘇生』スキルの発動条件は、「人のために死ぬ」ことだ。
人道的にもスキル的にも、まずはここの怪我人たちを救うことが第一優先だ。
ということで、
「クマ公! こっちを向け!」
太一は、まずはヘイトを取ろうと、黒クマに向かって矢を放ち始めた。
今まで戦えなかった鬱憤を晴らすように、横跳びしながら3連続で矢を放ったり、スライディングしながら矢を放つなど、派手めな技を決めていく。
そして、熊がギロリと太一の方に体を向けると、太一はその場にいる全員に向かって怒鳴った。
「今のうちに怪我人を! 俺はこいつを連れて行く!」
そして、熊にダメ押しでもう1本矢を放つと、
「こい!」
怒り狂うクマを連れて暗い森の奥へと走り込んでいった。




