03.居たたまれないボッチ vs フィールドワーク(3)
1回目の休憩中、リリアは岩の上に座って水を飲みながら、担当するパーティに目を向けた。
女子三人が楽しそうにおしゃべりをしており、
その近くの木の上では、太一が枝に座って水を飲んでいる。
(いいパーティだわ)
思い切りの良い梨花に、眠そうな割には動きが的確な結衣。
萌はリーダーシップがあるし、魔法を使う判断にも優れている。
(でも、一番優秀なのは、何といってもミナミダね)
索敵範囲の広さと精度が素晴らしい。
気配を消す能力にも優れており、どちらも熟練の技みたいなものすら感じる。
(素晴らしい才能だわ)
――ちなみに、これは才能というより、太一の普段の行動が生んだ熟練の技みたいなものなのだが、それはさておき。
リリアは、そっと太一を見上げた。
女子たち3人を守るように、木の上で周囲を警戒している。
(偉いわよねえ、男の子の鏡だわ)
正義感とか女子を守りたいと思うがあまり、ついつい前に出過ぎてしまう傾向はあるが、それを含めてとても良いと思う。
――これについても、ボッチだから1人でいるだけだし、サクッと死にたいから前に出ようとしているだけなのだが、リリアがそんなことを知る由もなく、
(このパーティは安泰かしらね)
などと思いながら、胸を撫でおろす。
――と、そのとき。
太一が木から飛び降りると、声を潜めた。
「右方向から誰か来ました。多分5人だと思います」
** *
木の上にいた太一は、少し離れたところに人間の気配を感じた。
その方向に目を凝らすと、少し離れたところを若い男女が歩いているのが見える。
(……敵意はなさそうだけど、一応報告しておくか)
そう思いながら、木から降りてみんなに知らせると、リリアが囁いた。
「多分冒険者ね。こういう時は挨拶しておくといいわ」
もしもピンチに陥った時に助け合う可能性もあることから、友好的に見える相手には挨拶しておいた方が良いらしい。
太一たち4人がやや緊張しながら立っていると、茂みの中から5人の男女が姿を現した。
戦士職っぽい男性2人と、魔法職っぽい女性2人に、斥候職っぽい男性1人だ。
一番前にいた戦士っぽいイケメンが爽やかに口を開いた。
「どうも、俺はバッツ、パーティ名は“レッドオーシャン”だ」
「こんにちは、私はリリア。こっちは私の生徒たちよ。なんか変わったことはあった?」
「特にないな。そっちは?」
「ないわね」
そんなやりとりをした後、5人は「じゃあな」と去って行った。
どうやら冒険者同士の挨拶はこんな感じらしい。
太一は内心「おおお」となった。
なんかめちゃくちゃカッコいい!
(自分も誰かに会ったらあんな感じで挨拶しよう)
そんなことを考えていると、リリアが口を開いた。
「外での活動は、基本的に助け合いよ。他の冒険者が困っていたらできる限り手を差し伸べてあげて。でも、無理だと思ったら、迷わず助けを呼ぶこと」
「はあい」
梨花が元気に手を挙げる。
その後、5人は探索を続けた。
休みを挟みながら森を歩いて行く。
そして、
「あ、見えたわね」
5人は、森の中央付近にある空き地のような場所に出た。
真ん中には頑丈そうな石造りの小屋が立っている。
リリアによると、ここは休憩ポイントのような場所らしい。
小屋の中に入ると、中は意外と広くてガランとしており、壁際には暖炉がある。
(なんか本当にゲームっぽいな)
冷たく土の匂いのする空気を感じながら、太一がそんなことを考えていた――、そのとき。
バタンッ
いきなり扉が開いて、教官の1人である鎧の男性が飛び込んできた。
リリアを見て、切羽詰まったような声を出す。
「大変だ! 生徒が1人行方不明になった!」
「え!?」
リリアが青くなる。
男性教官によると、男子生徒がうっかりハチの巣を踏んでしまい、森の奥に逃げていってしまったらしい。
「追いかけたが、向こうは暗殺者で、騎士の俺じゃ追いつくのが無理で……」
男性教官は、別の休憩小屋に自分が担当するパーティを送ると、全速力で索敵が得意なリリアがいるであろうこの小屋に来たらしい。
リリアが力強くうなずいた。
「分かりました。私はすぐに探しに出ますから、他の教官のところへ」
「すまない! 頼んだぞ!」
リリアは真剣な顔で太一たちを見た。
「聞いていた通りよ、ここで待っていてちょうだい」
「分かりました!」
「先生も、気を付けてくださいね」
「ご武運を」
女子3人の言葉にうなずくと、リリアが太一を見た。
「ここなら大丈夫だと思うけど、ミナミダは一応警戒しておいて」
「わかりました」
リリアと男性教官は脱兎のごとく小屋を飛び出した。
太一と女子3人が、入り口まで出てその後ろ姿を見送る。
2人が見えなくなると、女子3人が不安そうな声を出した。
「あんまり強い魔獣がいないとはいえ、心配だよね」
「無事だといいね」
「ん」
そして、萌が太一を見た。
「じゃあ、私たち、中にいるね」
「……僕は警戒しておく」
3人が中に入るのを見届けると、太一はひょいと小屋の屋根の上に上った。
座り込むと、森をながめた。
(暗殺者なら、多分大丈夫な気がする)
狩猟者の自分と同じで、素早い上に木にも登れるし、気配も消せる。
戦闘を避けてうまく逃げているのではないだろうか。
(――問題は、僕自身がこれからどうするか、ってことだよな)
彼は難しい顔で思案に暮れた。
探索については、結構楽しかったなと思う。
ファンタジーな森を歩くのも楽しかったし、みんなの人間離れしたカッコいい技を見るのも面白かった。
斥候役という役割のお陰で、静かに黙っていてもおかしくないし、休憩時間に1人木の上に上っていても「あいつボッチなんだ」とはならない。
(斥候って、天職だったんだな)
ただ、問題は死ぬチャンスどころか戦うチャンスすらほとんどない点だ。
2度ほどウサギ型の魔獣に矢を射るチャンスはあったが、的当てのような感じで、戦った気がしない。
(死んで最強になるとはいえ、まともに戦う経験は必要だよな)
理想としては、誰かを守るために強い魔物と戦って死ぬことだ。
でも、今日の感じからすると、この森ではそんな魔物が期待できさそうな気がする。
それに、たとえ遭遇したとしても、リリアが何とかしてしまいそうだ。
(……残念だけど、今日は諦めるしかなさそうだな)
太一はがっくりと肩を落とした。
確か、この次はダンジョンに行くという話だった。
ダンジョンであれば仕掛けや魔獣など色々あるだろうから、そっちに望みをかけよう。
そんなことを考えていると、小屋の扉が開いて結衣が外に出て来た。
キョロキョロと周囲を見回し、太一が屋根の上にいるのを見つけて声を掛けた。
「南田君、魔石数えちゃお」
「……魔石?」
「ん。今のうちにやっちゃおうって」
なるほど、と太一は下に飛び降りた。
そういえば、幾つか拾った気がする。
そんな太一を、結衣がジーッと見ると、おもむろに口を開いた。
「南田君って忍者みたいだね」
「…………そうかな」
「うん、忍者っぽい」
太一は戸惑った。
どう捉えて良いのか分からないが、とりあえず忍者っぽいって何かかっこいいな、などと考える。
そして、結衣について中に入ろうとした、そのとき。
「キャー! 誰か助けてー!」
背後の森の奥から、女性のけたたましい悲鳴が聞こえて来た。
「え!? なに!?」
「今の何の声!?」
動揺する女子たちを尻目に、太一の目がキランと光った。




