01.居たたまれないボッチ vs フィールドワーク(1)
太一が異世界に来てから、約2カ月半。
青い空がまぶしい天気の良い朝。
1台の白い幌付き馬車が、王都の郊外を走っていた。
中には、4人+1人の人物が座っていた。
赤い動きやすそうな拳法服を着て、ニコニコと笑っている“北川梨花”。
魔導師っぽい紫色のローブを着た“近藤萌”。
腰に細い剣を2本下げた、ちょっと眠そうな“浅野結衣”。
そして、引率の“リリア先生”。
梨花が、結衣の剣を羨ましそうに見た。
「やっぱり剣ってかっこいいね。双剣とかって憧れる」
「ん。カッコいいけど、歩くのにちょっと邪魔」
「私はもっと動きやすい方がいいんだけどな」と、萌がため息をつくと、リリアが苦笑いした。
「魔術師は魔力が外に散らないように押さえないとけいないから、どうしてもそういうローブになっちゃうのよね」
その後も、ファッションや髪形についてなど、話に花を咲かせる女性4人。
そんな4人から少し離れたところに座っていた太一は、心の中でため息をついた。
こんな状態がかれこれもう2時間くらい続いている。
(これは予想以上にしんどいな……)
馬車の外をぼんやりとながめながら思い出すのは、パーティを組んでから今日までの出来事だ。
* * *
パーティを組んだ後、太一、梨花、萌、結衣の4人は、リリアの周りに集まった。
リリアが真面目な顔をした。
「これから野外訓練についての注意事項を話すから、しっかり聞いておいてね」
彼女によると、最初に行くのは王都郊外にある森らしい。
そこまで深い森ではなく、出る魔獣もそこそこの強さであることから、最初の訓練には最適らしい。
「ただ、たまに強い魔獣がでることもあるから、油断禁物よ。例えば、ビッグディアとか」
「ビッグディア……って、鹿ですか?」
萌の言葉に、リリアが驚いた顔をした。
「あら、分かるのね。じゃあ、グレイトベアは?」
それまでずっと黙っていた太一が、いきなり口を開いた。
「……それは熊ですね」
実は、彼はこういった森の危険動物などにとても詳しい。
森を1人でサバイバルしたり、野生動物と命がけの戦いをする妄想を繰り返ししていた時に、夢中になって調べていたからだ。
という訳で、彼は早口でしゃべりだした。
「我々が住んでいる日本には2種類のクマが生息していて、主に北海道に住むヒグマは最大体長280センチメートル、最大体重780キログラム、走る速度は時速60km、人や家畜を襲うことで恐れられており、自分の獲物には驚くほどの執着を見せるため要注意で、弱点は顔なので、先制攻撃で眉間や鼻を狙うことがお勧めで……」
太一の淀みなくあふれ出る熊知識に、パーティメンバーが
「ふ、ふうん……」
と引いた顔をする。
リリアが感心したように目を見開いた。
「すごいわね、ミナミダ。あなた詳しいのね!」
「え、あ、はい。自然界に生息する危険動物についてはずいぶん調べましたから」
女子たちが「なんでそんなの調べてるの」と顔を引きつらせる中、
まさかこの知識が役に立つと気が来るとは、と思いながら、太一が照れ笑いを浮かべる。
リリアが真面目な顔で口を開いた。
「グレイトベアは、すぐに分かるくらい巨大な熊の魔獣だから、見掛けたら、すぐに逃げて。初心者のあなたたちには、とてもじゃないけど太刀打ちできないから」
「はーい! 分かりました」
「了解でーす!」
4人のそんな会話を聞きながら、太一は思案に暮れた。
初心者向けの森と聞いて、なんか死ぬチャンスとかなさそうだなと思っていたら、なかなかに筋が良さそうな魔獣がいるらしい。
(これは、やり方次第ではいけるのか……?)
その後も、リリア先生の指導は続き、太一も何度か地球の危険動物の知識を披露する。
(なんか、思った以上にしゃべれたな)
黙っているだけの暗い奴にならなかった、と胸を撫でおろす。
と、こんな感じで、太一としては上手くやれたと思ったのだが、女子3人はそう思わなかったらしく、この説明会以降、3人との間に見えない壁のようなものができてしまった。
そして今日、何となく居たたまれない感じで一緒に馬車に乗っている、という次第だ。
* * *
馬車の中で楽しげに話をする4人を横に座りながら、太一は内心ため息をついた。
女子3人ともいい人だし大人なので、無視したり意地悪をしたりということはない。
ちゃんと接してくれるし、親切にもしてくれる。
でも、間にある透明の壁が高すぎて、どうにかできる気がしない。
頼みの綱の中2病風ジョークも、今のところ滑りまくっている状況だ。
(やはりソロで動けるように、さっさと死ぬことを考えよう)
サクッと死んで、サクッと強くなって、サクッとパーティを抜けて、ソロで魔王を倒して速攻帰ろう。
太一がそんなことを考えていると、馬車が森の入口で止まった。
降りて周囲を見回すと、前方には日本では見ないような深い森が広がっていた。
中は昼間だと言うのに薄暗く、妖精や魔獣が住んでいそうな雰囲気がある。
(ファンタジーの森って感じだな)
少しわくわくしていると、リリアが声を張り上げた。
「じゃあ、入って行きましょうか。まずは順番を決めるわよ」




