05.恐れおののくボッチvs 地獄のパーティ決め(1)
「つ、ついにこの日が来てしまった……」
召喚されて2カ月後の夕方、
太一は、震える手で自室のドアの下から差し込まれた紙を握り締めていた。
「ん? どうしたのだ?」
部屋に遊びに来ていた金髪碧眼の6歳児――パカラ王子がソファの上で不思議そうな顔をする。
「……明日からパーティを組んでの訓練を始めるという知らせが来たんです」
何とか平静に答えながら、太一は思った。
頼むから、明日魔王軍攻めてきてくれ、と。
** *
冒険者ギルドで大乱闘を繰り広げた翌日。
太一と梨花は、厳しい顔をしたリリアに呼び出された。
「聞いたわよ、あんたたち、冒険者ギルドで大暴れしたらしいじゃない!」
暴力はダメよ、と目を三角にするリリアに、梨花が口を尖らせた。
「だって、向こう喧嘩売ってきたんですよ」
「ええ、大体の事情は聞いているわ。先に手を出したのも向こうなんでしょ」
「はい」
梨花がこくりとうなずくと、リリアはため息をついた。
「とはいえ、ダメよ、喧嘩は」
そして、「――というのは建前で」と、コホンと咳ばらいをすると、満面の笑みを浮かべた。
「でも、よくやったわ! 女は舐められたらおしまいよ!」
「え?」
「相手がチンピラとはいえ、圧勝だったんだって? やるじゃない、あんたたち!」
梨花が嬉しそうな顔をした。
「良かった! リリア先生ならわかってくれると思ってました!」
「当たり前よ! やられたらやり返す! 常識よ! でも相手は見ないとだめよ?」
「はい!」
ちなみに、他の教官たちもリリアと同じような考えらしく、表では「いかんぞ」と言うが、裏では「よくやった」と誉めそやされた。
(……本当にこれでいいのか?)
太一はそう心の中でツッコミむが、怒られるよりはマシかと口をつぐむ。
そして、この話は思ったよりも広範囲に広がったようで、
「ミナミダ! 街のチンピラと喧嘩をしたそうだな!」
なぜかパカラ王子がメイド数名を引きつれて現れた。
怪我がなかったのは、彼がくれた『身代わりのミサンガ』のお陰もあったので、一応お礼を言って、部屋に招き入れて、喧嘩の様子を話して聞かせたところ、
「ミナミダ! 遊びに来てやったぞ!」
なぜか定期的に部屋に遊びに来るようになってしまった。
(くっ、俺の聖域が……!)
遊びに来るのを断ろうかとも思ったのだが、
(多分、この王子様、友達いないんだろうな……)
と思うと、ボッチとしてシンパシーを感じてしまい、どうにも断れない。
結果、定期的に会う仲になってしまった。
そして、今日も、
「ミナミダ! 今日は美味しいお菓子を持ってきてやったぞ!」
と胸を張る王子とお供のメイドさん2人を部屋に招き入れて、楽しそうにしゃべる王子の話を適当に相槌を打ちながら聞いていたら、ドアの下に
『明日からパーティを組んでの活動になります』
という地獄のお知らせが差し込まれた、という次第だ。
** *
“パーティで組んで活動する”という言葉を聞いて、王子の目が輝いた。
「おお! それは楽しそうだな! みんなで協力して魔物を倒すのであろう?」
「ええ、まあ、普通はそんな感じでしょうね」
王子にキラキラした目を向けられて、太一は目を逸らした。
組んでくれる人がいればね、と心の中でそっとつぶやく。
そんな太一の胸中など露知らず、王子が楽しそうに尋ねた。
「誰と組むのだ?」
「そうですね……、まあ、明日になってからですかね」
「そうかそうか、まあ、今聞いたばかりだものな」
そう言いながら、王子が立ち上がった。
「これから皆とチームを決めるのだろう?」
「ええ、まあ、普通はそうですかね」
「邪魔はできんな、我々は帰ろう」
そして、王子はふと思い出したように太一に尋ねた。
「そういえば、ミナミダはなぜ3人部屋に1人で住んでいるんだ?」
(ぐ、ぐふっ)
太一は心の中で吐血した。
部屋決めの時に1人あぶれました、とはとても言えない。
そんな中、メイドの1人がしたり顔で王子に囁いた。
「ミナミダ様は特別ですから、他の勇者のように3人1部屋ではないのです」
「そうか、そういうことか」
「ええ、ミナミダ様はサムライですから」
メイドの言葉を聞いて、太一は自分のHPがどんどん減っていくのを感じた。
心の中で、もう止めてくれ、と悲鳴を上げる。
そして、王子が「じゃあな!」と言って去って行った後、太一はベッドに倒れ込んだ。
「つ、疲れた……」
自分のHPを表すなら、今は間違いなく1だ。
「今日はもう寝るか……」
太一はのろのろと立ち上がった。
経験上、こういう時は起きていてロクなことがない。
変な願掛けの儀式とか始める前に、さっさと寝て、せめて明日精神的に健康な状態で教室に行こう。
そして、彼は、明日魔王軍が攻めてきますようにと祈りながら眠りについた。




