04.街に行くボッチ vs 冒険者ギルドのチンピラたち(4)
「お前ら! 何を騒いでやがる!」
ものすごい怒鳴り声が聞こえて来た。
思わず声の方向に目をやると、見たこともない巨体の男が怒りの形相でドシドシと歩いてきていた。
「ギ、ギルドマスター!」
彼は仁王立ちになると、ものすごい勢いで、バンッ! と壁の張り紙を叩いた。
「てめえら、これが見えねえのか! 暴力と器物破損は死刑だぞ!」
(そ、そうだっ!)
太一の目に再び火が灯った。
まだこっちがあった!
一縷の望みを抱いて、彼は声を張り上げた。
「僕です! 全部僕がやりました! 死刑にするならこの僕を!」
「なにい!?」
男が物凄い迫力で太一をギロリと睨むと、ギルド内がピリピリした空気に包まれる。
ややあって、男は、ふん、と面白そうに笑った。
「サンダーバードの連中が、そこのねえちゃんに喧嘩売った挙句に先に手え出したってのは分かってる」
「いや、しかし、僕も手を出して、ほら、器物破損も」
太一がベンチを指差すと、男が、ガハハハ、と笑い出した。
「お前がねえちゃんを守るためにやったのは見ていた。正当防衛ってやつだ。――なあ、みんなもそう思うだろう?」
周囲の人々が口々に、
「そうだそうだ!」
「悪いのはサンダーバードだ!」
と声を上げる。
男は満足そうにうなずくと、「だそうだ」と、太一にウインクをした。
他の冒険者たちに
「サンダーバードの奴らを地下に放り込んでおけ!」
とドスの効いた声で命令すると、悠然と去って行く。
冒険者たちが太一に駆け寄った。
「あんたすげえ動きだったな!」
「女を守るためなんて、やるじゃねえか!」
と、口々に誉めそやす。
肩をバンバンと叩かれながら、太一は死んだ魚の目になった。
ものすごいチャンスだったのに、またも逃してしまったと、心の底からガッカリする。
そして、ふと後ろから視線を感じて振り向くと、少し離れたところに梨花が立っていた。
ポカンとした顔で太一を見ている。
(そうだ、謝らないと)
太一は彼女に近づくと、頭を下げた。
「ご、ごめん。僕が離れたばっかりに……」
「え? いいよそんな。トイレだし、喧嘩を買ったのは私だし」
梨花が慌てたように両手を胸の前で振る。
「助けてくれてありがとう。すごい動きだったね。驚いちゃったよ」
「訓練施設で似たような動きがあって、ついやっちゃって……」
太一はため息をついた。
まさか反射的に蹴りが出るとは自分でも思わなかった。
ふと腕を見ると、『身代わりのミサンガ』が切れている。
(多分、一発目で無事だったのはこれのせいだな)
新しいのをくれると言われても、絶対に断ろうと心に誓う。
* * *
太一が冒険者たちに話しかけられている様子を、梨花はぼんやりとながめていた。
今日、梨花が太一を誘ったのは、たまたまだった。
怪我の治療で残っていたところに、たまたま太一が通りかかったので、声を掛けた。
太一は同じ訓練を受けていたし、投擲武器に詳しいのを知っていたから、1人で街に行くよりは彼と行った方が面白そうだと思ったからだ。
彼は非常に真面目な人間で、しっかりと地図を持ってきた。
迷わないようにと、地図を何度もチェックして余念がない。
馬車から降りて地図を見ながら慎重に進む彼を見て、梨花は思った。
なんか、自分とは真逆だな、と。
(面白いな~)
自分とは毛色の違う珍獣を見ているような、そんな気分だった。
だから、太一が喧嘩に参加してきたときは、かなり驚いた。
しかも身を挺して自分を守ってくれた上に、見るからにヤバめなギルド長に向かって、
「僕が全部やった! 処刑するなら僕にしろっ!」
と、庇ってくれたのだ。
その姿はまるで騎士か王子様のようで、不覚にもときめいてしまった。
(……騎士に助けられるお姫様ってこんな気持ちなのかも)
ぼんやりとそんなことを考えるが、ハッと正気に戻って慌てて「いや無いし!」と心の中で否定する。
その後、2人は冒険者ギルドを出た。
無事に目的地である武器屋に到着し、投擲武器を見ながら、前よりも少しだけ会話が弾む。
そして、空がオレンジ色に染まる夕方、2人は馬車に乗って王宮へと帰って行った。




