03.街に行くボッチ vs 冒険者ギルドのチンピラたち(3)
太一がトイレに行ってしばらくして。
梨花がギルドの壁にかかっている武器をながめていると、
「よう、ねえちゃん」
ガラの悪い男性3人組に声を掛けられた。
「あっちで一緒に飲まねえか」
「酌しろや」
「言っておくが、俺たちはサンダーバードだぞ」
脅すようにそんなことを言う彼らを、梨花はジッと見つめた。
彼女には、相手が同じ前衛職であれば、その強さが分かるスキルのような能力がある。
それによると、この3人は見まごうことなき雑魚だった。
という訳で、
「私の方が強いんで、やめといた方がいいですよ」
と親切に教えてあげたのだが、
「なんだとこの野郎!」
「貴様――!」
なぜか切れられてしまった。
殴りかかられたので軽くいなしたところ、ますます切れられてしまう。
「こっちの人は喧嘩っ早いよね」
そんなことを思いながら反撃していると、周囲が「いいぞー!」と歓声を送り始めた。
「ねえちゃん、やるな!」
「いい動きだ!」
観客に褒められて、梨花は調子に乗った。
(なんかダンス大会っぽい!)
などと思いながら、ダンスで培った動きを生かして、サマーソルトキックなど派手な技を次々と決めて、拍手喝さいを浴びる。
(なんか楽しいかも!)
そして、調子に乗って竜巻旋風脚を決めようと構えていた、そのとき。
「あぶねえ!」
「ねえちゃん、よけろ!」
振り返ると、後ろから剣を振りかざした大男が迫って来ていた。
その顔は完全に正気を失っており、体から陽炎のようなものが立ち上っている。
(やばいっ! スキルだ!)
慌てて避けようとするものの、焦ったせいで体勢を崩してしまう。
(……っ!)
やられるっ! と梨花が思わず目をつぶった、そのとき。
「ちょっと待った!!!!!」
聞き覚えのある声が聞こえて来た。
何者かが自分と大男の間に立ちはだかる。
「えっ!」
驚いて上を見上げると、それは南田太一だった。
彼は梨花を庇うように両手を広げながら、強い目で大男を睨みつけている。
そんな彼に、
「おりゃあああ!」
陽炎のようなものに包まれた大男が渾身の力で剣を振り下ろした。
「キャアアアア!」
「うわわああ!」
ギルド内に悲鳴のような声が響いた。
** *
――遡ること、数分前。
梨花が楽しそうに暴れまわるのを見ながら、太一は思い切り動揺していた。
(な、なななな何でこんなことに!?)
そして、周囲の人たちの会話から、どうやら梨花に手を出そうとした男たちが返り討ちにあっていることを知り、彼は激しく反省した。
(しまった……、僕の責任だ)
こういう場所で女の子を1人にしちゃいけないんだ、と反省する反面、にしてもちょっとやり過ぎだろ、と思う。
そんな太一の心など露知らず、梨花が華麗なサマーソルトキックを決める。
「おお、すげえ!」
「ひゅー!」
周囲がわあっと盛り上がる。
相手はガタイはいいがいかにもチンピラといった風情の男たちで、梨花にまるで歯が立っていない。
(……うん、まあ、これは負けることはないな)
梨花の強さに、太一は落ち着きを取り戻すと、これからどうするか思案に暮れた。
この機会を上手く利用して死ねないか、と考えてみるが、
(負けない喧嘩に参加して死んだら、単なるアホだよな)
という結論に至る。
そして、死を諦めた太一が、どうやってこの場を収拾しようかと考え始めた、そのとき。
「……くそっ!」
梨花に蹴り飛ばされて壁に激突した大男が、頭を押さえながら立ち上がった。
怒りの目で暴れている梨花を睨みつけると、剣の柄に手をかけた。
陽炎のようなものが体から立ち上る。
それを見つけた観客が焦った声を出した。
「おい、あいつスキル発動しようとしてやがる!」
「あれはマズいぞ!」
この状況に、太一の目が光った。
(来た!)
あれは相当強力なスキルだ。
あれを受ければ死ねるかもしれない!
心の奥に火が灯る感覚がして『勇気が出る』スキルが発動する。
そして、彼は、
「ちょっと待った!!!!!」
と叫びながら飛び出すと、
鬼の形相で後ろ向きの梨花に切りかかろうとする男の前に、立ちはだかった。
ものすごい勢いで振り下ろされる剣をながめながら、これは死ねそうだと考える。
しかし。
ガインッ
なんと、太一の頭が剣を弾いた。
「なっ!」
男が驚愕の表情を浮かべる。
しかし、彼はギロリと太一を睨みつけると、剣を横なぎに振るった。
剣が太一の脇腹に迫る。
(おお! いい感じだ! きっとこれで死ねる!)
そんな太一の心とは裏腹に、彼の体は勝手に動いた。
最低限の動きで剣を回避すると、思い切り相手のお腹を蹴り上げる。
「ぐはっ!」
蹴り飛ばされた大男が、置いてあったベンチにぶつかり、ベンチがバラバラになる。
太一は頭を抱えた。
(し、しまったああああー!!!!)
訓練施設と同じような攻撃が来たため、とっさに体が動いてしまった。
(くそっ、とっさに反撃とか、俺訓練し過ぎだろっ!)
ガックリと肩を落とす。
――と、そのとき。
「お前ら! 何を騒いでやがる!」
ものすごい怒鳴り声が聞こえて来た。
思わず声の方向に目をやると、見たこともない巨体の男が怒りの形相でドシドシと歩いてきていた。
「ギ、ギルドマスター!」




