04.恐れ知らずのボッチ vs 紅蓮の業火(1)
召喚されてから約1カ月後のお昼過ぎ。
太一は、広大な王宮の敷地内を走っていた。
日本にいたころは運動音痴だった彼だが、今は体がよく動く上に、力も足の速さも段違いだ。
どうやら職業によって身体特性が変わるらしく、『狩猟師』である太一は素早さや身軽さが上がるらしい。
(異世界に来て一番良かったのはコレだよな)
そんなことを考えながら、彼は大きな建物の横を走った。
王宮内の建物は背が高いものが多く、10階建てのマンションくらいありそうなものが幾つもある。
何でも、高ければ高いほど権威があると思われるらしい。
(偉い人って、なんで高いところが好きなんだろうな)
そんなことを考えながら、太一は住んでいる離宮方面に足を進めた。
広い訓練場に到着すると、そこにはすでに走り終わったクラスメイトたちがいた。
みんな楽しそうに話しながら、各々準備運動のようなものをしている。
その集団から少し離れたところで同じように体操をしながら、彼は思った。
自分はなぜこんなにボッチの神に愛されているのだろうか、と。
*
数週間前、とうとう実地訓練が始まることになった。
訓練は、戦闘職と生産職に別れて行われる。
「戦闘職に関しては、扱う武器別に分かれて訓練を行います」
この話を聞いて、太一は思った。
これはもしや、ボッチ脱却のチャンスなのではないか? と。
そもそも太一がなぜボッチかというと、話す話題が見つからないというのが大きい。
自分の趣味の話をしたところで面白いとは思えないし、気の利いたことを言おうとして、つい中二病っぽい発言をしてしまい、却って引かれる羽目になってしまったりする。
(でも、同じ武器を使うなら、共通の話題があるよな)
使い方からデザインまで、話は無限。
しかも、少人数だから話す機会も多いに違いない。
(もしかして、いけるか……?)
しかし。
「え! 弓は僕1人なんですか!?」
なんと、飛び道具系を扱う職業は太一1人だった。
しかも、訓練初日の教官紹介の日。
「これから剣の教官を務めるガイアスだ!」
「俺はジェイク! 槍担当だ!」
「わ、私はローランド、魔法の担当ですよ、キッヒッヒ!」
と、髭が濃くてガタイの良い大男たちや、目の下にクマができた怪しい痩せた男が挨拶する中、
「こんにちはー! 私はリリア、弓矢とか投擲武器の担当よ! 君がミナミダくんね! よろしく!」(ウインク)
1人だけ気さくな感じの綺麗なお姉さんが教官になってしまい、クラスメイト達からジト目で見られる羽目になってしまった。
しかも、例のチビ王子を成敗したせいか、
「ミナミダ様、タオルをどうぞ」
「お水お持ちしました」
「汗をお拭きしましょうか」
など、メイドさんたちがめちゃくちゃ優しく、訓練中も細々と面倒を見てくれる。
その結果、太一はクラスの男子たちに「なんでお前だけ」という目で見られることになり、ボッチ道をひたすらまっすぐ進む羽目になってしまった。
(くっ、なんでこうなるんだ!)
メイドさんたちに優しくしてもらって嬉しいとは思う。
他の教官のように、
「おら! そこ足止まってるぞ! 走れ! 気合いだ!」
という超スパルタな指導方法ではなく、
「いいよ! その調子! かっこいいよ!」
とほめて伸ばすタイプのリリア教官に教えてもらえるのもラッキーだったとは思う。
しかし、あと数週間もすればパーティを組まなければならない。
このままいくと、そこでボッチの自分があぶれるのは確定だ。
異世界でボッチであぶれるとか、それだけは絶対に避けたい。
(やはり死んで最強、サクッと魔王を倒して帰還、を狙うしかないよな)
クラスメイトたちが楽しそうに話しているのを横目でながめながら、そんなことを考えていると、訓練所に教官たちが入ってきた。
「よし! 始めるぞ! 気合入れろ!」
いかつい教官たちが怒鳴る中、
ショートパンツがまぶしいリリア教官が、ニコニコしながら太一に向かって手を振った。
「ミナミダくーん! こっちだよー! 今日もがんばろうねー!」
太一は、後ろから「ずるいぞお前!」という視線を感じながら、黙って立ち上がった。
リリア教官の後ろについて端の方にある的に向かう。
リリアがにっこり笑った。
「さ、今日もがんばろうね!」
「よ、よろしくお願いします……」
太一はボソボソと挨拶をすると、準備を始めた。
布で弓の持ち手を拭きながら、何とか死ぬ方法はないかと考える。
そして、遠くにある的に向かって矢を射る練習を始めようとした――、そのとき。
(……ん?)
彼はふと、何か嗅ぎなれない匂いがしたような気がして手を止めた。
「どうしたの?」と、リリアが不思議そうな顔をする。
「……あの、なんか変なニオイが」
そうボソボソと答えると、リリアが鼻をひくひくさせた。
「あ、本当だ。ちょっと匂うね」
ちなみに、太一とリリアは「狩猟師」のため、普通の人間よりも鼻が利く。
2人以外は誰も反応している様子がない。
しかし、風向きが変わると、訓練場にいる全員が訝しげな表情をした。
「何の匂いだ?」
「なんか焦げ臭いよな?」
クラスメイトたちが騒ぎ始める。
そして、教官の何人かが「ちょっと見てくるか」と相談し始めた、そのとき。
「た、大変です!」
騎士らしき若者が青い顔で飛び込んできた。
「どうした!?」
「り、離宮から火が出ました! すごい勢いで燃え広がっていて!」
(え!? 火事!?)
太一の目がキランと光った。
本日はここまでです
お付き合いいただきありがとうございました!
それでは皆様、また明日!
ちなみに、第1,2章が王宮編で、第3章から街→野外へとに出ていってしまう予定です




