03.早く帰りたいボッチ vs セクハラ貴族(3)
太一は期待に胸を高鳴らせながら、男児を高く掲げて叫んだ。
「こいつの父親は誰だ!」
会議室の全員の目が驚いたように見開かれる。
しばらくして、一番立派な椅子に座っていた男性がゆっくりと立ち上がった。
物静かながらも強い瞳を太一に向けると、にこやかに微笑んだ。
「私だが、息子が何か?」
「父上!」
男児がバタバタと暴れて太一の手から逃れると、男性に走り寄った。
「あいつが私を侮辱しました! 手打ちにして下さい!」
「ほう、何を侮辱されたんだ?」
「私が遊んでいたところをジャマしたあげくに、どなりつけたのです!」
怒りに燃えた男児が父親に抗議するのをながめながら、太一は思った。
そんな理由じゃ弱すぎる、と。
(子どもの遊びを邪魔して怒鳴りつけただけじゃ手打ちにならないよな)
もっと思い切っていかなきゃダメだ、と彼は口を開いた。
「そいつは、メイドのスカートめくりをして楽しんでいたんだ!」
「スカートめくり」
「そうだ! メイドが嫌がっているにも関わらず、だ!」
そして、太一は父親に指を突き付けると、言い放った。
「人が嫌がることを遊びにして楽しむとか、人として最低だろ! アンタ、親として一体どういう教育してんだ!」
「ええええええっ!!!!!」
国王に対するあまりにも無礼な物言いに、部屋にいた全員の顔が一気に青ざめた。
座っていた身分の高そうな男性たちが口をパクパクさせる。
「お、お前! ち、父上に何と言うことを!」
ワナワナと震える男児に、父親が静かに尋ねた。
「パカラ、彼の言うことは本当か?」
「…………いえ、その……」
男児がもじもじと下を見る。
――と、そのとき。
バタンっ!
ドアが開いて、バカンス王女が飛び込んできた。
太一を見て駆け寄ってくると、庇うように彼を背に立ち、男性に向かって叫んだ。
「お父様! この者は異世界から来たばかりで何も知らないのです! どうか寛大なご対応を!」
(は? お父様?)
太一は目が点になった。
王女のお父様ってことは、国王陛下じゃないか!
国王はゆっくりと王女の方を向くと、穏やかに尋ねた。
「お前は、パカラがスカートめくりをして遊んでいたのを知っていたか?」
「え? ええ、まあ、小耳に挟んだことはありますわ。メイドや文官が被害にあっているとか」
国王はため息をついた。
「なるほど、知らぬは私だけだったようだな」
彼は太一の方を向くと、真面目な顔をした。
「追って沙汰は伝える、一先ずここは引き取ってもらえないか」
「え、あ、……はい」
(あれ、手打ちは?)
そう思いながらも、反対できるような雰囲気ではなく、太一は渋々うなずいた。
王女に促されながら部屋の外に出る。
そして、廊下をしばらく歩いていると、前を歩いていた王女がくるりと振り返って怖い顔をした。
「ちょっと貴方、何をしてるんですのよ!」
彼女は立ち止まると、太一の胸を扇でつついた。
「あなたが父上に抗議しに行ったって聞いて、わたくしがどんな思いをしたか分かりまして!?」
「い、いえ」
「肝が冷えたとはあのことですわ! わたくしをこんなに心配させるなんて! もう! なんて方なの!」
ぷりぷりと怒る王女。
そして、真剣な顔をして声を潜めた。
「心配しないで下さいませ。貴方のことはわたくしが何としてでも守りますわ」
「え? い、いえ、そんな守っていただかなくても……」
「遠慮はいりませんわ、わたくしも王族、貴方を手打ちになどさせませんわ!」
「いや、遠慮じゃなくて……」
太一がそう言いかけるも、王女は一歩後ろに下がると、カーテシーをした。
「わたくしは根回しがあるのでこれで」と言うと、早足去って行く。
太一はガックリと肩を落とした。
これは手打ちにされそうにない。
(王様のところまで行ったのは良かったんだけどな……)
もしかしてお前のせいか? と疑いの目で『幸運の指輪』を見つつ、
やはり王宮内で死ぬのは無理か、と思いながら、とぼとぼと教室へと戻っていく。
** *
一方の国王はというと、会議室でため息をついていた。
「なるほど、我が息子のスカートめくり遊びは問題になっていたのだな」
「はい、方々から話を聞いております」
「なぜ誰も叱らなかったのだ?」
それは……、と大臣が目を伏せた。
「恐らく、侮辱罪が怖かったのではないかと」
「……なるほど、侮辱罪のせいで、身分の劣る者は注意すらできなくなっているという訳か」
「そうですね。貴族の名誉は守られますが、弊害も多いと思われます」
「特に身分による子ども同士のいじめを誘発しているかと」
大臣たちの意見を聞きながら、国王は目をつぶった。
100年前に制定された『侮辱罪』。
当時と比べ、時代は変わった。
今までなあなあで来てしまったが、改める時が来たのかもしれない。
彼は目を開けると、大臣たちを見回した。
「我が名において命ずる。今日より成人前の子どもに対する『侮辱罪』適応を廃止する。そして、このことを気付かせてくれた、あの異世界の若者には褒美を渡すことにする!」
はは、と頭を下げる大臣たち。
――という訳で、
「ミナミダタイチには、国王陛下より『守護の腕輪』を授ける!」
太一はなんと、国王陛下から『守護の腕輪』なるものを与えられることになってしまった!
これをはめていると、防御力が向上し、ちょっとやそっとでは体が傷つかなくなるという。
太一は顔を引きつらせた。
(こんなのあったらますます死ににくくなるじゃん!)
しかし、国王陛下からの褒美だと言われると無下にすることもできず、彼は高い防御力を手に入れてしまった!
(くそっ、なんでこうなった……!)
太一の死ぬ難易度が更に上がってしまった!




