エピローグ-地図なし、目的地不明、同行人一名
「やれやれ……」
――ベスは、ここにいた。
ここで私を見てくれていた。
「リーリスからだいたい聞いた。図書館の夢……病院の夢……お前はなかなか数奇な運命に出会ったらしいな。ちなみにわし、学校から飛び出して来たぞ。これが噂のすけばん?というやつかな?」
「………………」
ベスは語る。軽い口調、しかしまるで罪を告白するかのような、ばつのわるさも伝わって来た。
「それは、わしの力の影響やもしれぬ」
「……それは」
「人は記憶を蓄積するもの。そしてその記憶の集合体が人間。例え――その記憶を本人が覚えていないとしても、身体はどんな記憶も覚えている」
「……記憶……」
「……図書館の夢は前兆、そしてお前の病院の夢は、まさに記憶なのだ。お前自身がいつか見た……そして、ついに忘れてしまった因果の一欠片」
……ひと拍。置かれたあと、ベスは言う。
「わしに血を分けたものに共鳴、共感する力がわしにはある。そして――始祖の力、封印の影響を弱める力も、わしはまた持っていた。当然だ、わしは魂の封印を自分で解いたのだ。そして――記憶の封印。それがお前に、何ものかによって、施されていたらしい」
私は、なんとなく自分の頭のリボンを触った。
なんかむずむずする、そんな感じ。
「……私、子供のころの記憶が無いんです、殆ど。皆そうだと思ってた、んですが……」
「お前の場合はちと違うらしい。誰かに記憶を消されたと考えるのが――自然だ。状況的にな」
…………まったく違う、とは言えなかった。
あの夢は、夢にしては、あまりに現実の色をしていた。
「しかしこれもまた数奇な出逢いよな、わしは身体を封印され――お前は記憶を封印された」
「……………………」
「しかし、わしは余計な存在だったかもな。お前のその記憶の封印、悪意あるものでは無いようだった。むしろ――お前を守るために施したものやもしれぬ。実際――お前はその記憶に苦しんでいる」
「……………………」
私はただ黙って聞いていた。
「私は――やはり、お前のもとにいるべき存在でなかったのかもな。あの時――偉そうにわしはお前に言った、お前を、ほっとけないと。しかしお前はわしのお陰で……」
「――なら責任を取って」
「……へ?」
「私の行くところを、私の行く末を見ててください。一度、首を突っ込んだんだから当然でしょう。――引きずってでも連れて行きますよ」
彼女の瞳からは雫が落ち、膝枕されている私はモロにその小雨を食らった。どはどば降っていた。
「記憶の封印が私にかかっているのなら――多分、それを解くことが、私のやるべきことだと思うんです。――思い出したことには、きっと意味があると思うんです。――まあ……私が思ってるだけ、ですけれど」
「………………………………ふふ」
「え、なぜ泣くんです……!?」
――しかし何故かベスは笑っている。
もう私には、この人がよく分からない。
私はどうしよう。
「なら休め、今は。あと、お前ひとりで抱えることはないのだ。その記憶――私も一緒に探してやるさ、その重さも――私が背負ってやる。だから……今は休め、私の膝でとりあえず、な」
どうすれば…………決めかねて。もういいやと、私は、あとすこしだけ、ゆっくりすることに決めた。
私がやるべきだろうことは沢山ある。……急にどっと降ってきたような感じだけれど。
記憶の正体を探すことやら、
この謎の体調不良の原因究明だとか。
なんか色々。
「ベス。また、よろしくお願いしますね。――また、これから」
「それはこちらの台詞だ。――綾。ああ、見届けてやろうさ。それこそこの旅の果てまで――」
ただ――この場所で、それを少しの間だけ忘れてしまうことを、きっと誰も咎めはしないだろうと思う。
また、私は瞼を閉じた。
優しい彼女の体温を、私は感じたまま。
旅――そうかもしれない。
なら、休もう。
そしてまた明日に、少しずつ歩けばいい。
――ベスと一緒なら、私はきっとどこまでも行ける。
そう思った。
ご閲覧ありがとうございます。本作を見て頂けること、それは私にとっての執筆への確たる原動力です。ご愛読頂けるのならば、それは私の創作活動においての最大の喜びです。
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とりあえず第一章は完結です。まだ完全な完結という訳ではないのですが、いったん物語を纏めてから続きとしたいと思い、ここを一章の締めとしました。
評価の様子を見て、再開するかどうかを考えたいと思います。
また他の物語も投稿していくつもりですので、よければそちらもよろしくお願いします。
ここまでお付き合い頂き、本当に有難うございました…!




