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或る少女の旅②-セ○ムのようなもの


頭が痛く、無駄に意識がはっきりしていて、けれども寝れない。関節の節々が痛くて動かず、特に首を動かすたびに眩暈が――


「つまるところ風邪ね」

「あっ、はい」


ぼおっとした頭で森さんに答える。

太陽の光の入らない部屋のはしで、私は寝ていた。


冬の寒さに当てられ、先がひんやりと冷たい体温計を口に入れて、出たのは38.9℃の文字。


「頭痛い…………」

「まあ――安静にね。あ……もしや昨日のトレーニングでなんか、無茶な運動でもしたの?ずいぶんと久々だったよね?」


心あたりを探る……探るが。

何故だか頭が働かない。


「そりゃ風邪だからよ」

「そうでした」


うんそうだった、風邪引いてるんだった。

いつにも増して頭がぼーっとしていると私は自覚する。


「しかし災難ね、せっかくの日曜なのに。これじゃ病院も閉まってるだろうし……」

「……基本ここでゆっくりしてるので……心配は……いりませんよ」

「……ま、安静にね。何かあったら呼んで。あ、お昼も作っておくから。……無理しないのよ?」


そう彼女は言って、部屋から出て行った。


パタンと優しくドアを閉めて、パタンと音がする。

私はそれを見ていた。


「……」


見届けてから、私は立ち上がる。


取り敢えずやるべきは掃除か。

最近いろんな習慣がぐたぐたになっていてつい疎かにしていた。この休みは、休んだ家事の分を取り返すにはチャンスだろう。自分の部屋を見渡して、あまりに掃除していなかったものだがら、窓のふちに黒カビとか生えてないといいけど――なんて思う。


少々憂鬱であるが……これくらいはやっておくべきだろう。


先ず、窓からにしよう、と思い部屋のカーテンを開けた時、冬だと言うのに容赦なく降り注ぐ日光を浴びて――森さんの呪縛が解けていたことを思い出した。


少し湿ってはいる、がカビはない。

ちょっと安心する。


また自分の記憶に、思考を回していく。

森さんの呪縛は解けて、太陽の光に適応できている。実際にその後日光の下で検証して――大丈夫だった。吸血鬼が太陽に適応できるなんて!と、その時の森さんのうきうき姿は、このよく回らない頭でもはっきりと思い出せる。


適応?


そう記憶を振り替える。

私に――いやな汗が頬を伝ったのは気のせいか。


軽く拭いていると――また頭痛が来た。

流石に身体は限界なのか、やはり休むべきか――。


思い切りも大事かと自分に言い聞かせて、掃除を放棄し私はベッドに向かうことにした。


私は布団にくるまって横になる――が、それでも不快な寒気が背をつたう。こんな本格的に()()を引いた。というのは初めての経験かも知れない。病院いらずの健康体、というのが私のちっちゃな自慢だったが――最近どうにも身体の調子が悪い。


そして、身体が動かないのでやりたいこともできない。それもまた、私の精神を確実に蝕んでいる。


瞼を閉じる、どうせ寝られないと思うが。

意識を内面に向ける。



――ひとつの気持ちの悪さがあった。


得体の知れないその、気持ちの悪さが、体の内側を這い回っているようであった。私の言葉で表すならばそのむず痒さ――は、迷路を何周しても出口が見つからないような、そんなもどかしさに似ているかも知れない。


絶版した古本をずっと探しているような――感覚で。

手を離したら、崖に落ち消えゆくような――その、()()


「何かを忘れて……いるような」


忘れてしまう程ならどうでも良いことなのだろうと、そう片付けてしまえる様なものではないと思う。


そう感じる――だけなのだけど。


そんな私の身体はいつの間にやら汗だらけであった。

もう冷や汗と蒸し暑さによる汗の区別もつかない。


そう思い、汗をかくのも身体が冷えるので害だとどこかで見たような気がする。それで私は、身につけていた黒のセーターを脱いでしまった。ついでにズボンも。


まあ海外なら全裸だし、とか。

気温は布団で調整できるかとか、ぼおっと思いながら。


いや……ああ……なにか……嫌だ。


さっきの()()()()()と別に何か、今度は()な予感がしている。滝の様にかいていた汗が全て冷や汗になった感覚さえした。


思い立ち、瞼を開けると――


「………………あ」


そこに、ひとりの女。

散々嫌なくらい見覚えのある女。


こっそりと部屋から出て行くつもりだったのか、背を向けている。


「まさか……風邪の姿に興奮する夢魔だったのね……」


つい、そう言葉が口から出た私のほうに、女は振り返る。


「ご……誤解!!……ほんとほんっっと誤解です!!」

「言い訳は保護者の前で……」


取り出したスマホ片手に、ベス(保護者)を呼ぼうとした私を鬼気迫るような表情でリーリスは止めにかかり、私は微力なる全力な抵抗むなしくスマホを取られる。その間わずか一秒。



白い目でリーリスを見る私。

今にも崩れそうな笑みを、震えながら保つリーリス。


「あの…おかし……いります……?」

「いらないし――なんなら、もう、そのスマホ差しあげるので――さっさと出てって?」


――なんとも言葉にしがたい気まずさが空を漂っていた。

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