寝不足さんには吸血鬼の膝枕⑦-つまるとこコミュ症(その呼び名だけは本人は断固認めていない)
しかし――ほんの少しだけだが、小音の心情を理解できた。
いや、私の場合―――言葉を口にする恐怖からの共感なのだが。
「しかしこれ幾らなの?確か定価よりいくらか安いんだよな?」
五〇エン棚から取ったその本は……
「つまり50エンですね」
「……な、な?正気かその値段設定は!?わしが今飲んでいる紅茶の三分の一程度の……価格ではないか!!」
「正気とは思えない価格で買い取られるので――1エンとか。あと古本屋で飲食は普通、正気じゃない目で見られるのでおやめください」
「うわっなーるほど――考えられてるう!あとすまん、それは知らなかった!」
キュッキュッと慌ててボトルを閉じて、鞄にそれをしまった。
こういう、ベスのちょっとしたドジを見るたび思う。
ちょっとこっぱずなその感情を――思うのだ。
――けれど、その思いを伝えるのは怖い。
「――――――――――――」
「どうした?――そんな、わしをじいと見つめて」
はははベスちゃん。
無口な綾ちゃんと会話するには、これくらい必要ってことや。
――と、朝の小音の言葉を思い出す。
私は無口だ。
そしてはっきり言ってその理由は私の口下手が原因。
「……おっと」
脚立から降りる瞬間、わずかに足を滑らせたので少しばかりひやりとした。
それをベスは心配そうに見る。
「なっ……大事ないか?」
「大丈夫です」
私は人の地雷を頻繁に踏む。
空気も読めない。
だから――自分から人に話を振るとか自分の考えを言うとか、そういう行動が減ったのだと思う。
いや、厳密にするなら、思う、としているのは自分でも――それが深く考えれば不思議である、ところがあるという、ことで。
「どーしたのだ?まさか疲れが――」
「なんでも――ないですよ。体調には心配ありません、たぶん」
いや、それも違うのかもしれない。
……なんだろう。
言葉で表現するのは酷く――私には、難しいような気がする。
だが。
つまるところ、自分でも良くわからないうちに、口数が減った。
つまるところ、自分のことが良く分からないのだ、私は。
要はただ、そういうこと。
「は?たぶん?」
「たぶんはたぶんで、たぶんなのです」
「つまりたぶんって――こと?」
「たぶんそうです」
「……せめてそこははっきりとせんかい!……あと。この本はどこで会計するのだ?わしの財布にゃ小銭がたっぷりよ!」
「たぶん分かりました。あとその本はあの綺麗な三つ編み黒髪おねーさんのところですよ、新聞読んでるあの人です」
「了!」
夕のラジオが聞こえてくる、そのレジに漫画を持ちベスは歩く。
私はその背を見ていた。
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