寝不足さんには吸血鬼の膝枕④-完璧で究極の?
「んじゃ、私はもう帰るわ」
「どうしたんです?いつもの――用事ですか?」
「そんなとこ。今日は早う帰るわ。
小音と私は帰宅部なので、放課後になればすぐに帰れる。しかし小音が部活に入っていない理由は、ただの面倒くさがりの私とは違うらしい。こうやって小音が、用事を理由に帰宅することもざらだ。
「そうか。気をつけて帰るのだぞ」
「小音、特に……黒下着の変態には気をつけるんですよ?」
「ははは。分かったわ。ありがとな綾ちゃんベスちゃん。けど――気をつけなきゃいけんのは綾ちゃんやない?」
「大丈夫ですよ。最悪ベスを差し出して逃げます。時速60キロで」
「ひきずってでもいいから……わしも持ってってくれ……」
……その気持ちには共感しか湧かないのだが、どんだけ嫌なのだベス。……いやまあ私がベスならば、引き摺られる方を選ぶが。
「しみじみと必死さが伝わってくるで……ただな」
と――すれば、小音はベスの耳元で、一言だけ何かを囁いた。
「………………?」
「ふーむ…………」
一体何を伝えたのだろうか、私にその言葉は聞こえない。
「何言ったんです?」
「綾ちゃん、秘密や〜」
「……………………?」
「あ、そうだな小音。……いつもの、用事とは、何かあるのか?」
と、したらベスが話を変えた。
「――え……っとな」
と、したら言葉を濁す小音。
「ふむ?何なのだ、気になるだろう。綾は知らないのか?」
「いや、私も知りませんけど」
「…………えぇ――っと……」
用事、それがいかなるものなのかは私には検討もつかないが……小音がここまで言葉を濁すとは珍しい。
「ふーん?何ですか、気になるじゃないですか」
「うーん――まあ……隠すことでも、深刻なことでも……ないんやけど……」
「えっ何なんです、気になります」
小音の前を跳ねながら、理由を問うているベスほどではないが――ここまで来ると、さすがの私でも興味が湧いてくる。
「何だ何だ隠すことでもないのかあ?ならば話せばよしじゃろて?」
「文学少女たちよ。……のな、推し活!」
「へ?」
すると小音は早口で語る。
「ちょーっとなんとなくこっぱずやったし綾ちゃん聞いてこーへんかったし言ってなかったけどな?いやほんとな?あっ、要するにアイドルのグループ名なんやよ。……うん。」
「そうなのか?それで……推し活とはなんたるのだ?」
ベスの問いかけに――ほんの少しだけ、小音が顔を赤らめているように見えた。
「ええ……っと――推し活ってのは…………」
小音が説明し、ベスがふんふんと頷きながら聞いている。
しかし、小音が――アイドルとは。
「なんで恥ずかしいんです?好きなら好きって――言えばいいのに」
私は小音に――素直に思ったそのことを尋ねてみた。
「……う…………綾ちゃんそー言うと……思っとった……」
「…………?」
「……は…………恥ずかしいもんは…………」
「恥ずかしいもん……は?」
「……恥ずかしいんや―――!分かってく……いや分かれ――っ!!!」
「ご、ごめんなさい?分かる……努力を、尽くします」
思わぬ小音の気迫に押されて、つい私は謝った。
「……綾ちゃんな、しからばよしと、しといたる!」
初めて見るその小音の姿は――いつもよりも、いきいきとしていたような気がした。
知ろうとしていなかったから、当然ではあるが。
私はこの小音の姿を知らなかったのだ。




